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星めぐりのの星空案内


星めぐりの歌の星座一覧図

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『星めぐりの歌』とは宮沢賢治が著した『双子の星』に登場する歌です。このページは『銀河鉄道の夜』の星空案内ページから『星めぐりの歌』の解説部分のみを切り出したもので、この歌に登場する星座や天体を解説しています。 それに加えて、「星めぐり」の意味「双子の星」の正体についても考察しています。

上図は正確な星図ではなく、模式図です。星めぐりの歌に登場する星座一覧図となっています。これを見れば、北極星(ポラリス)を中心にして星座が取り込まれていることがわかります。『双子の星』の原文もリンク先に掲載しましたので参照してください。おなじくリンクの「銀河鉄道ツアー」では「星めぐりの歌」をBGMとアニメGifでご覧いただくことができます。


『双子の星』の原稿


推定 説明




































アンタレス








わし座


プロキオン







へび座










オリオン座








アンドロメダ銀河









おおぐま座






こぐま座

北極星
原文  天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでゐる小さな水精のお宮です。
 このすきとほる二つのお宮は、まっすぐに向ひ合ってゐます。夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛を吹くのです。それがこの双子のお星様の役目でした。
(中略)
 二人はお宮にのぼり、向き合ってきちんと座り銀笛をとりあげました。
 丁度あちこちで星めぐりの歌がはじまりました。
  「あかいめだまの さそり
   ひろげた鷲の  つばさ
   あをいめだまの 小いぬ、
   ひかりのへびの とぐろ。

   オリオンは高く うたひ
   つゆとしもとを おとす、
   アンドロメダの くもは
   さかなのくちの かたち。

   大ぐまのあしを きたに
   五つのばした  ところ。
   小熊のひたいの うへは
   そらのめぐりの めあて。」
 双子のお星様たちは笛を吹きはじめました。
さそり座とアンタレス

鷲座

こいぬ座とプロキオン

へび座とへびつかい座の絵図
へび座とへびつかい座

りゅう座
りゅう座

へび座とへびつかい座

オリオン座

アンドロメダ座
アンドロメダ座

アンドロメダ銀河
M31アンドロメダ銀河

北斗七星と北極星

賢治のこぐま座
賢治が思い描いたこぐま座
この歌は宮沢賢治の『双子の星』(家族への読み聞かせは1918年・大正7年)で初めて登場しました。現存原稿は大正10年頃のものと考えられ、そこに歌詞も出ています。
また、この『双子の星』のエピソードは『銀河鉄道の夜』原稿の第3次稿以降の「ジョバンニの切符」の章でも登場しています。ただし、『星めぐりの歌』は名称だけの登場で、歌詞は出ていません。町の広場で「星めぐりの歌」として歌われたり、ジョバンニやカムパネルラが「星めぐりの笛」として吹いたりしています。
『星めぐりの歌』は星空をあちこち巡ったあと、最後に北極星へと導く内容になっています。また、この歌は星座の基礎知識と合致しない箇所がいくつかあり、議論を呼んでいます。

「あかいめだまのさそり」
目玉とは蠍の心臓と呼ばれる赤い星アンタレスのことです。賢治は知らなかったのではなく、たぶんそう見たかったのです。吉田源治郎著『肉眼に見える星の研究』(1922年)に「眼玉として赤爛々たるアンターレス」とあったことからこの影響とされたこともあったようですが、『双子の星』が書かれたのが1918年ですからその説は誤りとされました。しかし、現存原稿はその時のものではなく、1921(大正10)年頃のものなので、実際のところはどちらが早かったのか不明のままです。

「ひろげた鷲のつばさ」
鷲座は翼を広げた形です。

「あをいめだまの小いぬ」
小犬座の明るい星α星プロキオンらしいですが、星座絵ではさそり座と同じく心臓あたりです。心臓は光るとは言いませんから、「目玉」になったのかもしれません。色は青く見えないようです。これは「あかいめだま」と対称させる表現でしょうか。詩的には美しいイメージが広がります。プロキオンは冬の大三角の1角になる1等星です。大犬座のシリウス説もあるようですが、「おおいぬ」と「こいぬ」の混同あるいは意図的すり替えと考えるのは厳しそうです。

「ひかりのへびのとぐろ」
星の輝きを「ひかり」と言っているのでしょう。蛇座は頭と尾に分断されていて、その真ん中で蛇遣い(へびつかい)座に掴まれている形です。賢治の言う「とぐろ」がないため不可解に思われることから、竜座とする説もあります。
しかし、科学的素養があり天文ファンであった人が初歩的な過ちを繰り返すとは考えにくいです。実際、蛇座を虚心に眺めれば「とぐろ」は見えてきます。蛇座に丸い蛇遣い座を取り込んで、それを「とぐろ」と見立てたのだと思います。あるいは、蛇遣いの背後で蛇がとぐろを巻いているのを賢治は見たのです。そうすれば蛇は分断されず、かえってわかりやすい描写になります。賢治の新星座です。

「オリオンは高くうたひつゆとしもとをおとす」
蠍座は地平線上の星座です。白鳥座は天頂にまで昇る星座です。オリオン座は高度60度〜70度ぐらいまで昇ります。つまり、「高いところで歌い、露と霜を落とす」ということでしょう。散文作品『柳沢』にも「オリオンがもう高くのぼってゐる。」という文があります。オリオン座は冬の星座なのでこの星座が見え始める秋口から本番の冬までが露と霜が降りる季節と合致します。節気では「白露」や「霜降」。観測していてオリオン座が高くのぼると、望遠鏡に露や霜がびっしり張り付きます。望遠鏡をカイロ等で温めなければ観測できません。

「アンドロメダのくもはさかなのくちのかたち」
アンドロメダ座のM31大星雲を「くも」と呼んでいます。条件が良ければ肉眼で見える大星雲ですが、魚の口に見えるほどはっきりは見えません。賢治は『土神と狐』や『シグナルとシグナレス』で、環状星雲を「魚口星雲(フィッシュマウスネビュラ)」と記しているので、その連想を呼んだのかもしれません。この時代はまだ星雲についての研究が進んでおらず、銀河も星雲も同じく星雲とされていました。アンドロメダ座のM31は銀河なので、銀河系外星雲と呼ばれることもありますが、最近はアンドロメダ銀河と呼んで星雲と区別することが多いです。こうした時代背景もあり、M31も円盤状に見えることから環状星雲と同じく「魚口星雲」と考えても不思議ではありません

「大ぐまのあしをきたに五つのばしたところ」
大熊座の脚にあたる部分を5倍伸ばしたところに北極星(ボラリス)があるということですが、星空入門ではだれもそんなことは言いません。大熊座の腰にはまり込んでいるヒシャクの縁(α星〜β星)を5倍伸ばすと言います。あえて言えば腰を下半身(あし)に言い換えているのでしょう。とにかく詩情を損ねてはなりません......(^_^)

「小熊のひたいのうへはそらのめぐりのめあて」
小熊座も小さなヒシャクの形です。柄の先端が尾の先っぽに相当します。これが小熊座α星で、北極星(ポラリス)になります。ちょうど「額」とは反対方向になります。これも語感優先でしょうか。あるいは賢治の小熊絵は北極星を仰いでいるのかもしれません。それもまた美しい絵です。

結局、星めぐりの歌は西洋の星座を元にしているものの、そのままではなく、賢治なりの再解釈があり、想像があり、詩情があるということになります。間違いや勘違いではないと思います。これは科学ではなく文学です。あるいは歌です。空の目当てである北極星がメトロノームのようにフリフリ振られる小熊のシッポであってはならないのです。
ちなみに、この曲は1912(明治45)年発行の『家なき子』(春陽堂)の主題歌であるナポリ民謡『Fenesta vascia』、また1919(大正8)年の舞台カルメンの劇中歌『酒場の歌』からメロディーの一部が取り込まれている可能性があります。

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 銀河鉄道ツアー  星めぐりの笛 



「星めぐり」とは?


天の北半球

これは天の北半球を描いた図です。中央が北極になっており、登場する星座が一方に偏ることなく四方に散っているのがわかります。ここに登場していない蠍座は蛇座の向こうに沈んでいます。


『双子の星』を語っているのは「私」です。人が語っている話なので、「星めぐりの歌」と言われればついそれに共感して自分も星空めぐりをしているような錯覚に陥ります。しかし、物語をきちんと読めば「星をめぐる歌」ではなく、「星がめぐる歌」であることがわかります。

上図を見ると、『星めぐりの歌』に登場する星座が北半球で見られることがよくわかります。言うまでもなく、それは僕たちが北半球に住んでいるからです。『銀河鉄道の夜』では全天が舞台になっていますが、『双子の星』は日本の物語であると言えます。この図は天頂に北極星が来ているので、北極で見られる星空です。蠍座は北極では見られないわけです。

さて、先ほど「星がめぐる歌」だと記しましたが、星々が勝手にめぐるわけではありません。昼間は好きにしていいのですが、夜になれば「ふだんの所」に居なければならないのです。本文中には「空の星めぐりの歌」と3回も記されています。つまり、星空全体がめぐるのです。

歌は北極星を中心にして星座を順番に紹介していき、これらの星々は北極星を「そらのめぐりのめあて」にしていると物語っています。星座や星にひとつひとつ焦点を当てていき、最後にその中心を指摘することで空全体を俯瞰する見事な表現だと思います。

つまり、この歌は誰かが星空をめぐっているのではなく、また星座が空をめぐっているのでもなく、星空全体が自転軸を中心にしてめぐっているという科学的思考にもとづくものです。ファンタジーでありながら、科学的な基本を押さえるのは『銀河鉄道の夜』とも共通する賢治の構えです。



『双子の星』の天体とは?


『双子の星』の1章の舞台


『双子の星』は2章で構成されています。1章では大烏(おおがらす)と蠍(さそり)の争いが描かれいることから、舞台はこの星域と考えられます。このどこかの天の川の西岸辺(上側)に双子の星が住む水精のお宮があり、西の野原には泉(かんむり座)が湧いています。

あまのがはの にしのきしを、 すこしはなれた そらの井戸。
 みづはころゝ、そこもきらら、 まわりをかこむ あをいほし。


主に二つの説が唱えられています。ひとつは蠍座の鈎(かぎ)にあたるλ(ラムダ)星シャウラとυ(ウプシロン)星レサト。もうひとつはペルセウス座の頭部付近にある「二重星団」(h+χエイチカイ)という説で、ペルセウス(Perseus)が「ポウセ」の読みに似るという見方もあります。僕は似ているという範疇には入らないと思いますけれど。


蠍座全景シャウラとレサトペルセウス座二重星団
蠍座全景蠍座の鈎
シャウラとレサト
ペルセウス座
二重星団

『双子の星』からわかることは天の川の西の岸ですぎなの胞子ほどに小さい青い星ということです。『銀河鉄道の夜』で「双子のお星さまのお宮」が登場する場面は射手座付近になります。この二つを手がかりにすると、後者の説は誤りとなります。ペルセウス座はかけ離れた位置にあります。射手座付近は夏の星座ですが、ペルセウス座は秋の星座です。


花巻 8月20日20時30分の空
ペルセウス座と射手座の位置

白鳥座が天頂に登ると、南の地平線上に射手座が、北東の地平線上にペルセウス座があります。つまり、天の端から端まで離れています。


また、二重星団は多数の星の集まりです。星団の中のちいさな二つの星を指しているのだということであっても、それならば二重でなくても単独の星団でいいことになってしまいます。

では、前者の説はどうでしょうか。従来からこの草下英明氏の説はかなり受け入れられています。僕も「銀河鉄道ツアー」を制作した時はこの説を採用しました。蠍座ならほぼ位置が合うし、シャウラとレサトは青い星です。しかし、やはり問題があります。

キャッツアイズ 天の川の西の岸ではなく、天の川の真ん中に位置することです。『銀河鉄道の夜』では天の川の川筋が二本として構想されていたので、それが『双子の星』でも当てはまるならセーフというところです。

もっと大きな問題は星が明るくて大きいので、「すぎなの胞子ほどの小さな二つの星」とは言えないことです。そして、双子の星は蠍座の鈎に当たるので、登場人物である蠍の鈎が双子の星では都合が悪いです。物語の中で双子の星は傷ついた蠍に肩を貸して歩いているのです。

いまだに納得できる説がないということは、星探しが徒労であることを示しています。僕たちはもう一度きちんと原文を読んでみる必要があります。『双子の星』のテキストは上にあげた関連リンクに張ってあります。従来の説は賢治が記していることを信用していなかったと言えます。特に何を信用していないとかと言えば、「小さい」ということです。賢治は一貫してそういう描写をしています。

2章の物語では彗星に騙されて海に墜落してしまいます。ご存じの通り、彗星など恒星に比べれば塵(ちり)にも満たない大きさです。双子の星はそんな彗星の「しっぽ」につかまって旅をします。海に墜落すると青いヒトデと思われてしまいます。そんなあり得ないちいさな恒星なのです。『星の王子さま』の惑星よりも小さそうです。

土筆 つまり、双子の星は賢治が書くとおり、「すぎなの胞子ほどの小さな二つの星」だということを僕たちは信じるしかないのです。「すぎなの胞子」とは胞子嚢を意味する可能性もありますが、文脈からはやはり胞子のことでしょう。『双子の星』の初期形原稿では「すぎなの胞子」はなく、「小さな小さな二つの青い星」でした。このように極小であることを強調しています。

大きな星々は空めぐりしますが、双子の星は「星めぐりの歌」に合わせて銀笛を吹く役割を与えられた名もない二重星です。後に『雨ニモマケズ』に記されることになる、「クニモサレズ」な星々です。


蛇座中心の天の川


『双子の星』の正体は蛇座ちかくの天の川岸辺にある、名もない小さい二重星だと言えます。地上から仰ぎ見る人もいない星たちなのです。まさに賢治が書く物語の主人公にふさわしいチュンセ童子とポウセ童子なのです。


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(参考文献)
校本宮澤賢治全集(筑摩書房)     うたの旅人(朝日新聞社)
(参考サイト)
音楽図書館協議会・講演「宮沢賢治の音楽」=佐藤泰平