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トータル・リコール

Total Recall


TOTAL RECALL

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1990年・米 上映時間 113分
監督:ポール・ヴァーホーヴェン 製作総指揮:マリオ・カサール、アンドリュー・バイナ
脚本:ロナルド・シュゼット、ダン・オバノン、ゲイリー・ゴールドマン
原案:ロナルド・シュゼット、ダン・オバノン、ジョン・ポーヴィル
原作:フィリップ・K・ディック「追憶売ります」
撮影監督:ジョスト・バカーノ 特殊視覚効果:ドリーム・クエスト・イメージ・クルー
SFX監修:エリック・ブレヴィック 編集:フランク・J・ユリオステ
音楽:ジェリー・ゴールドスミス 音響効果:ジョン・ポスピスル、アラン・ホワース
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、レイチェル・ティコティン
    シャロン・ストーン、ロニー・コックス、マイケル・アイアンサイド


 映画のタイトルは2画面にわたって出てきます。シーン節約のため、合成して1画面に収めました。RECALL とは「思い出すこと」というような意味です。TOTAL RECALL で「完全記憶能力」という意味になりますが、この映画では全人格を取り戻すことを指している言葉ですね。前回のフィリップ・K・ディック原作に続いて、今回も同じ作者が原作の作品を取り上げました。ディックは着想もテーマも面白い。脚本のストーリーもとてもよく出来ていて、特に出だしは絶好調です。始めの15分見て、つまらんと見るのをやめてしまうことはできないでしょう。

 西暦2084年、建設作業員ダグ・クエイドは毎晩のように火星の悪夢にうなされています。彼はたまたま地下鉄のTVCMで見たリコールマシーンで火星旅行を体験しようとするのですが、マシーンが作動する前に諜報員としての火星の記憶が蘇り、自分がコーヘイゲンに殺された諜報員ハウザーであることに気づくのです。火星は地球の入植地となっており、統治者コーヘイゲンはエネルギー鉱石による経済力で圧制を敷いていました。クエイドはハウザーの遺志を継ぎ、やり残したことを果たすため火星へと向かいます。そして、火星の地下には古代にエイリアンが空気を作り出すリアクターを設置していており、コーヘイゲンがこれを隠していることがわかってくるのです。

 ここまで読んで、??と思ったことでしょう。思わなかったら、いいかげんに読んだ証拠です。クエイドの人格がハウザーに移植された単なる記憶だとしても、その記憶を移植した本体のハウザーは死んでいるのです。いったい誰の脳に移植されたのか。主人公クエイドもこのことについて気づいていません。こういうちょっと抜けた役はシュワルツェネッガーがぴったりです。ハウザーからのメッセージには嘘があることをここでは見破れないわけです。抜けていたからこそ、物語は進行していくのです。観客もここで2つのグループに選別されます。ひとつはハウザーの遺志を果たすために頑張るんだと思っているグループ。もうひとつはハウザーに操られて、コーヘイゲンの手下となるんだなあと思っているグループ。映画を楽しむためには前者のグループの方が得だな。

 エイリアンの古代文明があったというあたりは「禁断の惑星」を想起しますが、この映画の与えた影響はやはり大きいです。多くのSF映画にこのアイデアは取り入れられています。しかし、この古代文明の描き方については「禁断の惑星」を超えるものはないような気がします。この映画でもテーマから外れるので、さらりと描かれています。

 「ちょっと抜けた役はシュワルツェネッガーがぴったり」と書きましたが、この映画での彼の表情はマンガ的で、人間離れしています。なんかマペットが演技しているみたい。もちろんその部分もあるけれど、彼のはまり役です。シャロン・ストーンが悪女役で出てきていますが、とってもキュートです。以前にTVドラマで可憐な役柄をしているのを見たことがありますが、そういう役も似合うんです。主役を張った「氷の微笑」はこの映画の監督のポール・ヴァーホーヴェンです。もう一人の悪役リクター役はマイケル・アイアンサイドですが、この映画ではマヌケでしたが、同監督の「スターシップ・トゥルーパーズ」ではいい役をもらっていました。でも、やはり嫌な癖を引きずっている部分があります。 yu は嫌な悪役を見ると、ついいい役をやっている姿を見たくなるんですが、悪い癖でしょうか。ポール・ヴァーホーヴェンはロボット映画も作っています。わかりますか?その名もずばり、「ロボコップ」です。製作にマリオ・カサールの名がありますが、「ターミネーター2」、「スターゲイト」もこの人です。「ショーガール」ではヴァーホーヴェンと組んでもいます。評価はともかく、話題作ばかりです。最近は「ロリータ」の指揮を執っていました。音楽のジェリー・ゴールドスミスは「エイリアン」も担当していましたよ。

 ちょっとケチをつけましょう。建設現場での作業風景は現代のままです。作業服が宇宙服みたいに大げさなだけで、工作機械もビルの骨組みもそのままです。手抜きも甚だしい。地下鉄のTVは大きなブラウン管が垂れ下がっていて、家庭の平面テレビやホログラムとは大違い。S・ストーンがホログラムを使ってテニスのフォーム練習をしているのにブラウン管はないでしょ。これは手抜きというより、なんも考えていないんでしょうな。それにしてもこんなTVだらけの目障りな地下鉄に乗りたくないもんだ。

 火星では大気が薄いので当然密閉されているのですが(ちなみに、マリナー4号の観測により地球の約1/200と判明している)、ガラスが割れると危ないというのがなんともリアリティがない。安全装置が何もない。手動でボタンを押さないと扉が閉じないという現在でも考えられないセキュリティなんです。あとは差別的な表現と暴力表現が嫌です。アメリカ映画は人権大国なのに、こういう矛盾がありますね。この感覚の違いは何なんだろう。暴力については殺しの描写がとてもえげつない。この映画にとって重要でない殺し方をここまで執拗に考えるというのは、理解に苦しむ。もっと考えるところあるでしょ。ハウザーの人格がクエイドに現れているのだと理解すべきなんでしょうか。違うね。しつこすぎる。殺し方を楽しんでいるんでしょうなあ。

 「ちょっとケチ」が膨らみすぎましたが、ストーリーはとっても面白いのでお勧めです。セリフもよく練られています。リコール社で社員が「旅行に行っていつも変わらないものがひとつだけある、それは何か」というようなクイズを出していました。それは「自分」だというのが答えなんですが、この映画の結末はそうはなりませんでした。また火星ではミュータントが「未来を占うかい?」と呼び込みをしてきたのに「過去はどうだ」と応えるやりとりなど、テーマを暗示したり、モチーフをひねったような気の利いたセリフがよく出てきます。

 「トータル・リコール」はSF映画選ではもうお馴染みの「記憶もの」の一本。ハウザーという人間は、完全にクエイドという人格に入れ替わってしまうというお話。自分探しの旅に出かけたつもりが、自分を完全に見失って他人になり、「めでたしめでたし」になったわけです。自分探しの旅もほどほどにしておきましょう。「めでたしめでたし」とは限りませんぞ。


(2012年追記)
リメイクのトータル・リコール(2012年)はシネマ短評でコメントしています。オリジナルを未見の人は先にリメイクを見てから鑑賞するとオリジナルの面白さが引き立ちます。


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