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キング・コング

King Kong


KING KONG

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1933年・米 上映時間 100分
製作・監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シェードザック
製作総指揮:デビッド・O・セルズニック
脚本:ジェームス・クリールマン、ルース・ローズ
撮影:エドワード・リンドン、バーノン・L・ウォーカー
音楽:マックス・スタイナー 特殊効果:ハリー・レッドモンド・Jr
特撮技術:ウイリス・H・オブライエン 恐竜製作:マーセル・デルガド
出演:フェイ・レイ、ロバート・アームストロング、ブルース・キャボット
    フランク・ライチャー、サム・ハーディー、ノーブル・ジョンソン


 紹介するまでもない「キング・コング」を紹介します。公開当時、世界をまさしく驚嘆させた映画ですが、知ってるつもりになっているこの作品をきちんと知るのも一興です。.......と書き出すと、あんまりやる気ないなと思われるかもしれませんが、今回は関連話題も含めて力が入っていますよ。つまり、本題よりもそっちに流れる気配があるよというわけです......(^^) ここで扱う版は公開当時のものではなく、カットシーンを復活させた完全版らしいです。確かなことがわかりません。

 知らない者のいない「風と共に去りぬ GONE WITH THE WIND」(39年・米)のプロデューサー、デビッド・O・セルズニック David O. Selznick がその6年前に製作したのがこの作品。キング・コングの特撮の秀逸さが褒め称えれていますが、やはり「風と共に去りぬ」でもふんだんに特撮が用いられていることはよく知られていません。主に画面合成ですが、だれもそれと気が付かない見事さでしたね。

ストーリー

 物語は記録映画製作者のデナム(Robert Armstrong)が秘密のジャングル映画を作るのに女優を捜している場面から始まります。しかし、わけのわからない映画に女優を出すわけにはいかないとプロダクションから断られます。そんな状況の中、街中で万引きする女アン・ダロウ(Fay Wray)を助け、彼女を主役に抜擢することになります。こうして、東インド諸島の沖にあるらしい秘密の島、スカル島へと出発するのです。

 島に着くとちょうど原住民がコングへの捧げものである花嫁の儀式を行っているところで、それをのぞき見した一行は、アンを花嫁として差し出すように求められて一時退散することになりましたが、夜、船からアンは原住民にさらわれてしまいます。そして、コングの花嫁として繋がれたアンの前についにコングが姿を現すのです。

美女と野獣

 スクリーンではキャストとしてキング・コングの名前も出ており、「世界で8番目の驚異」と銘打たれています。世界7不思議にもうひとつ加わったわけです。そして、古代アラビアの諺が引用されて、「そして預言者は言った:そして見よ。野獣は美女の顔を見上げたが、その首を絞めようと伸びた手はとどまり、その日を境に野獣は抜け殻のようになった」と記されます。 映画の中でも「美女と野獣」は度々台詞に上がります。こうして、キング・コングが「美女と野獣」を下敷きにしていることが明言されています。

「美女と野獣」の1シーン

 美女と野獣は世界に広範に見られる異類結婚譚のひとつの形ですが、ヨーロッパでは日本の昔話と違って、獣が元々は魔法をかけられた人間で、娘の力によって魔法が解かれるという点で特徴的です。鶴が自分で人間になって恩返しをするというような日本型とはまるで違いますよね。「美女と野獣」という言葉が有名になるのは、こうしたヨーロッパの昔話をもとにフランスの童話作家ルプランス・ド・ボーモン夫人 Leprince de Baumont (1711‐80)が書いた作品を、1946年に詩人でもあったフランスのジャン・コクトー監督が自ら脚本を書いて映画化してからです。「美女と野獣 La Belle Et La Bete」(92分・仏)はオランダの画家フェルメールの画をもとにしたといわれる画調で華麗かつ幻想的に描き、美術担当のC・ベラールの衣装とセットで、娯楽の域を脱していなかった映画を芸術の域まで広げたと評価されている傑作です。しかし、この映画は「キング・コング」の13年後に製作されているので、「キング・コング」に出てくる美女と野獣の話題はこの童話を指していることになります。ちなみに91年にはやはり童話を原作にしてディズニーがアニメ化しましたね。

ウイリス・H・オブライエン

 スカル島は有史以前どころか、恐竜たちの闊歩する世界です。もうおわかりでしょう。この映画の背景にあるもうひとつの素材はコナン・ドイル原作の「ロスト・ワールド THE LOST WORLD」(25年63分・米)です。特撮はやはりウイリス・H・オブライエン Willis H. O'Brien (1886‐1962)でした。製作監督の二人はもともとはゴリラと大とかげを闘わせるやらせ記録映画を作るつもりでしたが、同じ映画制作会社RKOの技術部門にいた彼の仕事ぶりを見て、「キング・コング」は作られたのです。そういう意味ではこの映画はまさしく彼の映画です。社運が傾いていたRKOはこの大ヒットで会社を建て直すことができました。

「シンドバッド7回目の冒険」ビデオパッケージ

 ダイナメーションで有名な「シンドバッド7回目の冒険(「航海」と訳している場合もあり) THE SEVENTH VOYAGE OF SINBAD」(58年88分・米)などのシンドバッドシリーズのレイ・ハリーハウゼン Ray Harryhausen は彼の弟子です。彼は「キング・コング」に衝撃を受けてこの世界に入りました。骸骨剣士と闘う素晴らしいシーン(動きも素晴らしいがちゃんとあばら骨の向こうに風景まで見えていた)は、「ハムナプトラ THE MUMMY」(99年・米)でミイラと闘うシーンへと引き継がれていますね。しかし、この今昔二つのシーンを比べてみると、昔の人形アニメの方が今のCGより出来がいい。これは技術より感性の問題だと言えます。近年では「ロボコップ」(87年103分・米)でこの手法が使われました。ちなみに「ハムナプトラ」は「ミイラ再生 THE MUMMY」(32年72分・米)のリメイクです。この映画は当時のエジプトの風景が撮影されていて、その意味でも yu の貴重なコレクションです。また話が逸れますが、「世界の黄昏」の「ポンペイ」で触れた映画「ポンペイ最後の日」も特撮はオブライエンです。この映画を見たい!

 特撮についてもう少し触れます。「キング・コング」は33年当時まだ開発途上にあったオプティカル・プリンターや、ミニチュアによるモデル・アニメーション、リア・プロジェクションなどの当時のあらゆる方法を組み合わせて作られました。キンギ・コングは18メートルの設定になっていますが、コングのミニチュア模型は46cmでした。シーン画像で見るとおり実物大模型も部分的に使用されていますが、実物とミニチュア模型の合成が見事です。世界が驚くはずです。コングの表情の作り方も見事な造形です。そして、ほぼ完成されたオプティカル・プリンターはトラベリング・マット合成となって、39年の「オズの魔法使 THE WIZARD OF OZ」(102分・米)の一部で試験的に用いられました。40年代のファンタジー映画の代表作になった「バグダッドの盗賊 THE THIEF OF BAGDAD」(40年106分・英)で全面的に用いられることになります。

「キング・コング」

 では本題に入ります。あれ? もう読み疲れてうたた寝している。

 昔の映画を見て楽しいのは当時の風景が見られるところです。ニューヨークの表情が見れますよ。スカル島での砦は迫力いっぱいで、これも見物です。キング・コングは人間的な表情で人気が出ましたが、映画では凶暴そのものの姿をたっぷり見せます。暴れる時は人を踏みつぶすは食い千切るはの残虐ぶりです。だからこそ、ひょいと見せる人間的なところに惹かれたのでしょう。そして、次から次へと現れる怪獣たちとの闘い。一日にこんなに死闘を繰り広げていてはとても3日と身が持たないと思いますが、とにかく見せ場の連続になっています。

 映画の冒頭で製作者のデナムが観客は色香がないと満足しないと不満を言っていますが、そのあたりはキング・コングがアンの衣服をはぎ取りながら、鼻をクンクンさせてアンに触れた指の匂いを嗅ぐあたり(7段左端シーン)に反映されていますね。全くすけべなコングです。逃げ遅れた子どもの背景にコングが現れるシーンでは今でもよく使われる恐怖を盛り上げるひとつの基本ですが、このような今でもよく使われる常套手段がいろんなところで見られます。この後の怪獣映画や恐怖映画に与えた影響はとても大きなものです。

 しかしながら、この映画に出てくる人物はどれも魅力的ではありません。登場する中国人も時代が時代ですがやはりステレオタイプに描かれています。余談ですが、2001年アメリカでは法律でこういうステレオタイプな描き方は禁止されましたね。「キング・コング」は映像マジックの傑作ではあるけれど、人間の物語が語られていないから、心に残る傑作とはなっていません。これがハリウッド製SFの欠点となって未だに引き継がれている負の遺産です。ヨーロッパのSFが人間の物語ばかりでマジックがないというのとちょうど逆になっていますね。

「キング・コング」のスチールらしい

 もうひとつの大事なキャラであるエンパイア・ステート・ビルディングは31年に完成したばかりでした。しかし、この映画は近代文明を象徴するビルを祝福するものではありませんでした。近代文明がここまで成し遂げてきた一方で、人々は野生と情感を失ってきたことをはっきりと認識できる時代でもありました。ラストシーンでデナムは「飛行機のお手柄だな」と言われ、「いや飛行機じゃない。美が野獣を射止めたのだ」と応えます。観客の心を射止めたのは、野生と人間的な情感であったと言えます。飛行機からの機銃掃射を受けたコングは、何が起こったのかわからないながらも、墜落を覚悟してアンを屋根に置き、いたわるような仕草をします(最下段左から3番目のシーン)。少なくとも映画館の中で近代文明はこのシーンで敗北したのです。右の画像は映画のシーンとされているのですが、宣伝用のスチールのようです。飛行機は4機しか出てこないし、コングが大きすぎる感じです。

1933年

 この映画での一番の不自然は、コングが人間の花嫁を求めるというところでしょう。でも、思い出して下さい。これは「美女と野獣」の物語。コングはもともと怪獣ではなく、魔法にかかったひとりの男なのです。しかし、コングはアンに恐れられるだけで、同情されることもなく、キスを勝ち取ることもできませんでした。だから魔法が解けることもなく、近代文明に殺されていったのです。1933年は昔話も生きれない時代になっていたのです。

 1933年、アメリカでは無法時代を招いたと言われる禁酒法時代が終わりを告げます。そして恐慌から始まった経済を立て直すためにニューディール政策が始まった年でもあります。映画はフィルムを映すだけでなく、やはり時代をも映すものです。同じ年、ドイツではヒトラーが首相になってユダヤ人迫害が始まり、日本は国際連盟を脱退します。ソ連では翌年に大粛正が始まりました。近代文明が押し殺していた野生が目覚めていく時代でもあったと言えます。それはいい面で表現されることなく、凶暴という姿で現れてきたのです。いい面ではエラノス会議がこの年に初めて開かれています。深層心理学のキングであるユング(コングではないですぞ)もこの会議に参加しています。しかし、彼ら賢者たちもこの凶暴さをくい止めることはできませんでした。

 世界大戦が終わり、46年にジャン・コクトーが「美女と野獣」を復活させました。冒頭でコクトーは自らの手で字幕に書き込みをこう入れました。「世界はいま、あらゆるものを破壊し去ろうと熱中しているが、おとぎ話が天国へ寝そべったまま連れていってくれた、あの少年時代の信頼感と素直さとを取りもどしたい」

アメリカ

 「キング・コング」はその年のうちに続編が作られました。「コングの復讐 THE SON OF KONG」(33年69分・米)です。タイトル通り、コングの息子がスカル島で火山の噴火から命がけで人間たちを守るという滑稽なストーリーです。凶暴さはなくなり、白人をイメージしたのか白毛でした。凶暴さをなくして優しくなるという続編の作り方の過ちは、後の怪獣映画でいつも繰り返されるパターンとなります。過去に学ばない人間をコングは笑っていることでしょう。

着色「キング・コング」の1シーン

 アメリカではモノクロは嫌われるようで、過去のモノクロ作品がたくさんデジタルカラーになり、訴訟にまで発展しているくらいですが、「キング・コング」も着色されています。 (『月世界旅行』参照) カラー作品をモノクロで見てもつまらないように、一度着色されたのもを見たら、モノクロを見る気にはならないでしょうね。文明に逆らう我慢も時には必要です。モノクロで見てくださいね。コングの白い歯が印象的です。

 リメイク版(76年132分・米)とその続編(86年105分・米)については言及しません。末席を汚しているだけのことです。ただ、正編でジェシカ・ラングが美女役でデビューし、今では同一人物とは思えない素晴らしい演技を見せてくれているのはうれしい限りです。映画ではリメイクは本当に多いですね。このページに書いた作品のほとんど、つまり「ロスト・ワールド」、「キング・コング」、「美女と野獣」、「オズの魔法使い」、「ミイラ再生」。サルマネは日本文化、リメイクはアメリカ文化です。



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