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エイリアン

Alien


ALIEN

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1979年・米 上映時間 118分
監督:リドリー・スコット 脚本:ダン・オバノン
原案:ダン・オバノン、ロナルド・シャセット ノヴェライズ:アラン・ディーン・フォスター
音楽:ジェリー・ゴールド・スミス 撮影:デレク・バンリント
エイリアンデザイン:H・R・ギーガー
出演:シガニー・ウイーバー、トム・スケリット、ベロニカ・カートライ、ジョン・ハート
    ハリー・ディーン・スタントン、イアン・ホルム、ヤフェット・コットー


 『エイリアン』は誰しも認める傑作SFホラー。この作品の公開前には雑誌等でエイリアンの化石(3段中央のコマ)のスチルが掲載されて、大いに期待させられた思い出があります。何を期待したかと言えば、どんな知性を、文明を描き出すのかという期待でした。この宇宙船や化石化した宇宙人のスチルはそういう好奇心を掻き立てるものでした。しかし、映画は期待を裏切り、好奇心を掻き立てるのではなく、恐怖心を掻き立てるのもだったのです。

 このページは『エイリアン』ページの第1部です。第2部は『遊星からの物体X』ページで、同作品と並べて考察していますので、そちらも参照してください。またスピンオフとも言うべき『プロメテウス』(2012年)は「シネマ短評」でコメントしています。

一歩踏み外す

 エイリアンからの電波を受け取った貨物船ノストロモ号は調査のためにある惑星に着陸しました。そこには宇宙船が不時着しており、化石化したエイリアンを発見しますが、なおも調査を続けた乗組員ケイン John Hurt にエイリアンの卵から孵化した幼生が張り付き、ノストロモ号に運び込まれます。幼生は変態して体外へ出ると、次々と乗組員を襲っていくことになります。

 映画の展開ははっきり言ってありきたりです。恐怖の館に招待されて、正体不明のものに、一人ずつ、独りになった場面で殺されていくという定番を宇宙船内に置き換えただけと言えます。そして、主人公もやはり恐怖ものの定番で女性です。ただし、「キャー」とは叫ばない女でした。パターンを一歩踏み外すかどうかで、新鮮か常套かの分岐になりますね。

 キャットフードのCMで机の上の猫が飼い主の本を覗き込むのは常套。そのあと、後ろ足を机から踏み外して落ちそうになり、ばつの悪そうな顔をする(そんな顔はしていないのでしょうけど)のは、やはりとても新鮮です。最近のCMでは一番のお気に入りです。しかし、あれよく撮れたなあ。偶然だったんだろうなあ。いつもちゃんと生活している人は退屈です。時には踏み外そうね。

エロティシズムとは死にまで至る生の称揚である

 この映画が傑作になりえたのは、ギーガーの斬新なデザインと主役のリプリー Sigourney Weaver のキャラに負うのでしょう。 そして、この映画が成功した一番の主役である『恐怖』がどこから来ているのかを今回は見ていきます。

『エイリアン』

 マザーコンピュータに守られた船員たちはまさに胎児です。冒頭で船員たちが目覚めるシーンはまるで孵卵器ですね。エイリアンの巣とそんなに変わりない。そして最後のシーンではリプリーはまた胎児に戻ります。エイリアンの幼生から生まれてきたのはまさにペニスとしか思えない形態だし、成体の頭部もそれらしきもので覆われています。ギーガーのデザインは明らかにペニスがモチーフになっています。また、エイリアンの体液過多にもこの映画が背景にエロティシズムを取り入れていることが見て取れます。

 エイリアンの頭部がもっともよく見える最後のシーンで、リプリーが下着姿になっているところもミソです。ホラーに使われる常套シーンである、シャワーシーンは男性サービス的な側面をあるのでしょうが、まったくの無防備な状態に置くことと、エロティシズムの両面から恐怖を煽るのに適した構成なのでしょう。ここでなぜエロティシズムと恐怖が関係するのかと疑問に思う方もいるでしょう。

 ※(2004/08追記)「アクターズ・スタジオ・インタビュー」で、シガニー・ウイーバーが語るところによれば、ベッドに入るときは乗組員は全員裸という脚本だったが、カトリックの国々の上映に問題が出るという配慮から申し訳程度の下着を着けることになったという。そのため、ラストシーンでも当然全裸という脚本になっていた。スモークの中をエイリアンはよだれを垂らしながら近づいてきて、全裸のリプリーを見て自分とは異なる肌色で柔らかな姿にとても驚くという設定だったという。脚本はもっとエロティックな雰囲気を持っていたと同時に、映画では見られないエイリアンの情緒的な側面も描かれていたことがうかがえる。

 エロティシズムとは人の根源的な本能から生まれてきているものです。ここには生と死が心深くで結びつき、その葛藤を昇華させようとしていると言えるかもしれません。この映画では、人の原初的な恐怖心に訴えるための布石として性的なイメージを援用しているのです。人類は昔、正体不明のものたちと地球上で暮らしていました。すでに眠っていた私たちの「いつわけのわからないものに襲われるかしれない」という太古の意識を目覚めさせたのです。宇宙船に持ち込まれた一匹の猫が見せる怯えは、そのシンボルとも言えるものです。

 作家ジョルジュ・バタイユ Georges Bataille は「エロティシズムとは死にまで至る生の賞賛である」と言い、エロティシズムの本質には暴力の側面があることについても触れています。

もう一歩踏み外す

 昔、フィルム何十コマのうちの一コマにメッセージを書いて観客に見せて、潜在意識に訴えるというコマーシャル手法がありましたよね。今では禁止されているはずですが、時々今でもこっそりやるのが後を絶たないようです。それだけにきっと効果があるのでしょう。サブミナル効果と言われますが、映画の視覚効果ばかりではなく、ロックでは今でもよく使われているようです。『エクソシスト THE EXORCIST』(73年米)ではBGMに使われたとも聞きました。

 『エイリアン』ではサブミナル効果は使われていないはずですが(BGMは常にサブミナル効果そのものだと言えますが)、観客に意識されない程度に、そして潜在的には強烈に働くエロティシズムを織り込んで、恐怖を作り出しているのです。ここがホラーの常套からもう一歩踏み外しているところです。映画館でサブミナル効果を用いたコカコーラ社は、こんなポスターを作っていたことがあります。その写真はどこにいったかわからないので記憶が不正確かもしれませんが、平面に置かれたコーラ瓶とその両側に卵ひとつずつという単純な構図のポスターです。心の中に何を潜ませようとしたのか、もうおわかりでしょう。潜在意識に人間の原初的なものを訴えることで、購買意欲を高めようとしたらしいです。コカコーラ社には「コラ、コーラ」と言いたい!

 『エイリアン』の成功は、潜在意識に働きかけてくる原始的な恐怖と、恐怖に怯えるだけではなく、乗り越えようとするリプリーの闘いに新しい時代の到来を見ることが出来たからです。というのが一般受けするところでしょうか。あるいは、リプリーがセクシャルな夢を見ていたのかもしれません。だって、宇宙船の旅って寂しいんですよ......(^^ゞ でもね、リドリー・スコット Ridley Scott って、そういう監督だと思ったりもする。

エイゴリアン

『エイリアン2』

 『エイリアン』の続編について触れておきます。 『エイリアン』の恐怖は、正体を明かさないというホラーのテーゼをきちんと守っているところにありますが、逆にそれが欠点となり、このシリーズが2までで評価が低下していくことの理由でもあります。正体が明らかになったものに恐怖など感じたりしないですから。どんなに面白いストーリーを組み立てても、『エイリアン』の恐怖は帰って来ないのです。

エイゴリアン

 知性を持たないエイリアン相手に我々人類はいつまでもお付き合いできません。メーテルリンク・モーリス Maeterlinck Maurice の『白蟻の生活』みたいに、『エイリアン3』がエイリアンたちの文明を描く方向へ転換を図っていたなら、もう少し生き延びることができたのかもしれません。そういう意味ではこの映画はとてもアメリカ的です。アメリカという国が外国をどう見ているかを知ることができます。日本人も英語を話す人間を「エイゴリアン」扱いしてますけど......(^^)

 この映画の登場は、『未知との遭遇 CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND』(1977年米)が登場して宇宙人は友好的であるという方向づけをまた逆戻りさせることになりました。次から次へと侵略的で残虐なクリーチャーが主役の映画の登場を促すことになります。この時代はソ連の脅威からアメリカが中南米諸国への侵攻を繰り返していた頃です。『エイリアン2』はまさに中南米を惑星LV426に置き換えた映画だと言って構わないでしょう。


ありんこの逆襲


 どこのページだったか、日本は猿真似文化、アメリカはリメイクの文化だと記しましたが、この映画もリメイクと言えます。よく知られている元映画が2本あります。これらの映画の紹介と、もう1本明らかに影響を与えていると思うものを紹介しましょう。これでエイリアンの正体がわかります。


『恐怖の火星探検 It!The Terror From Beyond Space』 58年 アメリカ 69分

『恐怖の火星探検』


監督:エドワード・L・カーン 脚本:ジェローム・ビクスビー
出演:マーシャル・トンプソン、ショーン・スミス、キム・スポルティング


『恐怖の火星探検』

 火星のことがまだ何も分かっていなかった時代の映画ですから、科学的には無茶な話です。人類初の火星探検船チャレンジ141号との連絡が途絶えたために救出船142号が火星に行きますが、生き残りはカルザース大佐 Marshall Thompson 一人でした。他の船員殺害の疑いがかかりますが、船内に浸入した火星人が142号の船員にも襲いかかっていくことになります。登場する火星人は一人です。船員の死因は脱水症状だったので、一種のバンパイアです。火星人に打ち勝つことが出来た武器は真空です。火星人はやたら呼吸量が多いらしい。火星人が酸欠で死ぬというのは今では苦笑いするしかないです。ハイ。火星人の姿は半魚人ですね。通路のハッチに挟まった火星人を、エアハッチを開放して酸欠にします。『エイリアン』のラストでエイリアンが宇宙へと放り出されてしまうシーンはやはりこの延長線上ですね。



『バンパイアの惑星 TERRORE NELLO SPAZIO』 65年 イタリア・スペイン 86分

『バンパイアの惑星』


監督:マリオ・バーバ 脚本:イブ・メルキオール、ルイス・M・ハワード
出演:バリー・サリバン、ノーマ・ベンゲル、エンジェル・アランダ

 不明信号を受信したアルゴス号とギャリオット号がある惑星オーラへと向かいます。しかし、強力な重力に引き寄せられ2船は惑星上に不時着することになります。そして船員たちはなぜか凶暴化して殺し合いを始めることになり、ギャリオット号クルーは全滅。アルゴス号での戦いも始まっていました。殺されたクルーはまた墓場から生き返ってくるので、バンパイアになっているのでしょう。昔に不時着した宇宙船も発見します。この船も罠にはまった異星人の船でした。この惑星の生命体は肉体を持たず、精神体になっています。人間の身体を乗っ取ることが目的なんですね。移住するために身体と船が必要なわけです。しかし、太陽の衰えのために滅亡が近いという理由は、肉体あってこそだと思うのですが......(^^) この惑星の生命体は最後には目的を果たして、地球へと向かうことになるという結末で、ここがやはりハリウッド映画とは違いますね。

『バンパイアの惑星』

 登場する罠にはまった異星人の死骸は『エイリアン』で登場する化石エイリアンとほぼ同じ大きさです。また地球の宇宙船は『エイリアン』に登場する罠にはまって着陸していた宇宙船にとてもよく似た形状です。不明信号による罠というアイデア、身体に寄生すること、異星人の宇宙船とその死体がエイリアンの採用されていますね。SFXはちゃちです。

 さて、最後の作品の舞台は地球です。この作品は上で紹介した2作品に先行する54年のものです。



『放射能X THEM!』54年 アメリカ 93分 白黒

『放射能X』

監督:ゴードン・ダグラス
原案:ジョージ・ウォーシング・イエーツ 脚本:テッド・シャードマン、ラッセル・S・ヒュージ
出演:ジョーン・ウエルドン、エドワード・グウエン、ジェイムス・ウイットモア、ジェイムス・アーネス


 後にタイトルだけ色彩をつけたようですが、白黒作品です。ニューメキシコの砂漠をたった一人でさまよっている少女 Sandy Descher。警官ベン・ピーターソン James Whitmore はこの少女を保護しますが、少女はショック状態で口も利けない状態になっていました。両親のキャンピングカーは破壊されており、その場には不気味な足跡が残されていました。そこで科学者のメドフォード博士 Edmund Gwenn とその娘パトリシア Joan Weldon が動員され、姿を現した謎の生命体は放射能により巨大化した蟻だったのです。キリキリキリ......(この蟻は鳴くらしい)

 この映画で『エイリアン2』との共通項を拾い出すと下のようになります。

1.家族が襲われて、女の子が一人生き残る
2.恐怖のために少女は口が利けない
3.女性科学者が主人公。ただし、キャーと叫ぶ......(^^)
4.怪物が巣を作っていて、女王がいる
5.巣を火炎放射器で焼き払う
6.蟻酸を武器とする(エイリアンでは血液が強酸)
『放射能X』

 『エイリアン2』はキャメロン監督の脚本なんですが、これをヒントにしたことは疑いの余地なしです。あるいは、『エイリアン』製作の時点ですでにこういう設定がなされていたと思えます。エイリアンの正体は何者か。それは今さら言うまでもなく、宇宙蟻です。蟻はキチン質の外骨格で出来ているので、身体が金属製のようにも見えますが、これがエイリアンにもそのまま適用されています。蟻の生態がそのままエイリアンに採用されているのです。罠にはまっていた宇宙船内部の表面を見てください。金属のように見えながらも、唾液でこねあげて作り上げたかのような造形は明らかに昆虫の巣です。そう言えば、エイリアンの口からは唾液が滴り落ちていましたよね。あれだけ唾液があれば、宇宙船の一隻や二隻はちょろいもんです......(^^)

 エイリアンは54年のこの作品から始まっています。しかし、最初から多数のエイリアンを登場させては話が続かないので、まずは一人のエイリアンから始めることにしたのです。つまり、リメイクした映画の対応は時間的には逆転して下表のようになるわけです。

邦題 原題 元ネタ原題
エイリアン ALIEN IT! 単数
エイリアン2 ALIENS THEM! 複数

 一見無関係に思えても、きちんとタイトルまで対応しているのがその証拠です。感嘆符(!)まで共通しているんですからね。『放射能X THEM!』はよく出来ていますよ。特撮も頑張ってます。焼き払われてしまう蟻たちの悲しみも伝わってくる作品です。こんなひどいことをする人類はいつかありんこに復讐されると思えてきます。きっと新手の『ありんこ』映画がまた現れて、人類を滅亡させることでしょう。



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