プリオシン海岸  プリオシン通信

『銀河鉄道の夜』と読書感想文

非すいせん図書 『銀河鉄道の夜』


猫の昼寝
黒猫の昼寝:エアコン2台でも暑い!エアコン2台だから暑い?


いよいよ学校は夏休みに入り、子どもたちの毎日が天国になっていることを願っています。

毎年夏休みも後半になると、『銀河鉄道の夜』の読書感想文を書こうとする子どもたちがうちのサイトを訪問するようになります。でも、「枯れ木も山のにぎわい」ですから役立つような情報はなにもありません.......(^^ゞ

しかし、せっかく「プリオシン海岸」を訪問してくれたからには、やはりちょっとぐらいは海辺の涼しい風を送ってあげましょう。そんな気持ちで今夏はとうとう上のタイトルを掲げてみました。このページを読むのは小学生と中学生だと思うので、その年齢に合わせて書きます。

選べるコースは3つあり、それぞれコース名をことわざにしてみました。上から順番にむずかしくなるので、コース1から読んでください。

コース1: 牛を馬に乗りかえる

白旗 白旗(しらはた)を掲げるコースです。降参(こうさん)するという意味です。つまりは、感想文を書くのをあきらめます。最初からテンションが下がる提案(ていあん)です。涼しくなるでしょ?

読書感想文というのはほんとうにむずかしいものです。大人にとってもむずかしいです。『銀河鉄道の夜』を選ぶ人の中には短くて易しそうな文章だからと考えた人がいるでしょう。僕も感想文の宿題ではそんなことばかり考えていました。あなたもふだん本を読まない人らしいですね。

たくさん本を読んでいる人でもむずかしいのに、ふだん本を読まないで感想文を書くことがいかにハードルが高いかだれでもわかります。本を読ませたいから感想文を宿題にしているなら、その考えは正しくありません。こういうのを本末転倒(ほんまつてんとう)といいます。めったにしない読書に感想文がついてきたら、ますます本ぎらいになります。

だから、読書感想文をみんなに書かせる宿題はそもそもがむちゃくちゃです。感想文コンクールがあるからとか、そういうほかの大人の事情(じじょう)のための宿題になっているのではないでしょうか。だったら、子どもの都合(つごう)で作文してもいいはず。

作文 「牛を馬に乗りかえる」ということわざにならって、読書感想文はさっさとあきらめて、毎日の生活の中でおもしろかったこと、悲しかったこと、感動したことなどを書いてはどうでしょうか。先生もつまらない感想文を読まされるよりもそんなあなたの作文の方が楽しいと思ってくれるかも。あるいは、しかられるかも.......(^^ゞ

だから、おしかりを受けないように、ちゃんと本を1冊は読んでおきましょう。「本は読みましたけれど、感想文は書けませんでした。だから、夏休みのできごとについて作文しました。」と書いておけば、むやみにしかられはしないでしょう。こういうのは希望的観測(きぼうてきかんそく)といって、アテにはなりませんけれど。

先生に「いい作文だな」と思ってゆるしてもらうには、夏休みにそれだけの価値(かち)がある体験(たいけん)をしなければなりません。ぼんやり夏休みが終わったなら、作文なんて書けませんから。作文の技術(ぎじゅつ)よりも毎日の生活をみがくことが大切です。歯みがきも忘れないでね。

コース2: 急がば回れ

『銀河鉄道の夜』を選ばないというコースです。これもまたテンションが下がる提案です。だいぶ涼しくなってきたでしょうか......(^_^)

『銀河鉄道の夜』は完成していない物語です。つまり、「書きかけ」のままで、宮沢賢治は人に読んでもらえるような形にまで作り上げることができませんでした。それは生きる時間が足らなかったからではなく、たぶんまとめることができない物語だったからです。

がんばってみてもなかなかまとまらないあなたの感想文みたいなものです。

原稿 研究者たちは長年にわたり残された原稿(げんこう)とにらめっこして、原稿がどういう順番に並んでいて、どの語句が消され、どの語句が残されているのかを調べました。

その結果ようやく現在のような読める形になったもので、ふつうなら出版されるような作品ではありません。

教科書で読んだことがあるように、賢治は他にもたくさんの詩や童話や小説を書いていて、そのおかげで『銀河鉄道の夜』も読まれるようになりました。もちろん、読んでみたら「書きかけ」でもおもしろかったからでもあるでしょう。

賢治は「詩」を書いたと記しましたが、賢治本人は「詩」とは考えず、「心象(しんしょう)スケッチ」と呼んでいました。なんのことかわからないでしょう......(^_^) こころに(うつ)るイメージをスケッチするというようなことらしいのです。

手帳 じっさい賢治はいつも手帳を持ち歩き、風景をスケッチするみたいに心に湧き上がる言葉を逃さないよう手早く書きとめていきました。

それと同じようなことで、賢治の(くせ)や他の作品を読まないと『銀河鉄道の夜』はわけのわからないところがいっぱいあります。しかも、「書きかけ」なのですから、よけいにわけがわかりません。

おまけに登場人物の気持ちがくわしく描かれることはないので、物語の全体やその場面のようすなどからていねい読み取って自分で考えなくてはなりません。

僕もうちのサイトで『銀河鉄道の夜』についてたくさん書いてきましたが、今でもさっぱりわからないありさまです。

「短くて易しそう」の半分は正しいですけれど、長くなくてもむずかしい作品なのです。こんなややこしい作品を選ばなくても、もっとわかりやすい作品を選んだ方が感想文を書きやすいです。

「急がば回れ」は人生の多くの場面で役立ちますが、感想文も同じです。楽するために短い作品を選んでも、むずかしければ長いも同じ。自分がおもしろく読めそうな本を選ぶことが一番の近道です。

コース3: 好きこそ物の上手(じょうず)なれ

「感想文をあきらめなさい。こんな物語はよしなさい」と話してきたのに、それでもこのコースを選ぶあなたはきっとこの物語が好きなのでしょう。あるいは僕みたいにただの天の邪鬼(あまのじゃく)なのかもしれませんけどね。

宮沢賢治童話集II(岩波書店) 『銀河鉄道の夜』は「書きかけ」なので、いろんなバージョンがあります。教室の場面から始まり、カムパネルラのお父さんと別れる場面で終わるバージョンを選んでください。書店で売られている本はほとんどこのバージョンですが、図書館では左のような古い本もあるので注意してください。

そのバージョンでないといけないというわけではありませんが、物語としてまとまりがあってわかりやすいからです。そして、「書きかけ」のいちばん最後の形でもあるからです。

角川文庫 うちのサイトにも物語の全文を掲載(けいさい)していますが、かなづかいが古いし漢字がむずかしいので、フリガナつきの本を選ぶのがいいと思います。文庫本なら角川文庫の新版がお勧めです。

ただし、賢治が「ハルレヤ」とわざと書いたのに、角川文庫はそれを書き間違いとして「ハレルヤ」と修正されているのが残念です。

まずはあらすじを書くのはやめましょう。あらすじでスペースをかせごうという考えはコース3にはありません。真剣勝負(しんけんしょうぶ)です。

あらすじを書くなと言われる前に、そもそもあらすじをまとめることさえできないという人もいることでしょう。あなたはコース3をあきらめる.......ひつようはありません。この物語が好きだという気持ちさえあれば書けます。

好きなことは「するな!」と言われてもつい熱中してしまうので、自然と上手(じょうず)になります。上手になれなくてもなにしろ楽しい。これが一番。

メモ帳 はぎ取れるメモ帳に1枚ずつ好きなところや心ひかれるところをかんたんに書き出しましょう。場面でも登場人物でもセリフでもなんでもいいです。メモ帳がなければチラシの裏を使いましょう。ハサミで切り離せばいいだけです。それをみんな並べていきます。

書き出したらみんな悲しいところばかりになったということもあるでしょう。それでもいいのです。悲しみのあるところには人として大切なことがふくまれているから、心ひかれます。わざわざ悲しい物語を読んでしまうのはそのためでしょう。

次に並んだメモの順番を置きかえます。作文はひとつのまとまりが必要ですから、始まりから終わりに向けて、メモがつながって流れができるように並べ替えます。この時にどうしてもはずれてしまうものは思い切って捨ててしまいます。

あとはメモを見ながら、どんなところが好きなのか、なぜ心ひかれるのか書いていけばいいだけです。ただ、最後にはまとめの文章がひつようなので、なぜ作者がこの作品を書こうとしたのか自分なりに考えて書くといいかもしれません。

あるいは、なぜあなたはこの物語にひかれるのかを考えてみるのも、最後のまとめになります。

コース0: あってもなくても猫のしっぽ

コース3で流れからはずれるメモは捨てると記しました。でも、それがどうしても気になるものだったら、それを拾って他をみんな捨ててしまうのもありです。

どうしても好きなものはなんとしても捨てちゃだめです。それがふつうからはみだしていたとしても、はみだしていることは素敵(すてき)なことだと思います。

人は「あってもなくても猫のしっぽ」とバカにしますが、人にはどうでもいい猫のシッポでも、猫にとってはなくてなならないシッポです。喜びも悲しみもいつもシッポといっしょです。まるで自分が猫だったみたいなことを言いますが、子猫だった時には大切な遊びともだちでもあったのです。

虔十公園林(けんじゅうこうえんりん) ほとんどの人は主人公のジョバンニを中心に感想文を書くことになると思いますが、たとえばザネリについて書いてもいいわけです。きっとだれもが登場人物について書くでしょうが、人間ではなく、風景や鳥や花のことだけで書いてもいいのです。

はみ出すことは新しいことに挑戦(ちょうせん)するということです。賢治もいろんな作品で、はみだし者を応援(おうえん)しています。それは新しい世界を生み出す人たちだからです。

どんぐりと山猫 賢治の『どんぐりと山猫』という童話では、だれが一番えらいかを争うドングリたちに、一郎から意見をもらった判事(はんじ)の山猫が判決(はんけつ)をこう言い渡しました。

「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」

ドングリの背比(せいくら)べをするぐらいなら、はみ出す方がかっこいいです。

猫はよく()ます。「猫」ということばは「寝子(ねこ)」がもとになっているという(せつ)があるそうです。「猫は長者(ちょうじゃ)の生れかわり」とも言いますね。長者とはお金持ちのこと。

せっかくの夏休みです。猫のように、長者の昼寝も楽しんでください。

参考(さんこう)
文章がむずかしいですが、調べたいことがある時は『銀河鉄道の夜』ガイドをどうぞ。

2013.07

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