プリオシン海岸  プリオシン通信

うるうる

雪はオノマトペで降る


積雪
雪やコンコン。狸は何と鳴く?


中旬日曜日の積雪は翌朝に大渋滞を引き起こしていました。日本各地もかなり混乱したみたいですね。

童謡『雪』(作詞不詳)に「雪やこんこ霰やこんこ」と詞にはあるけれど、たぶん多くの人が「こんこん」と歌っていますよね。僕もずっとそう唄って育ちました。

たった今、「え!?」と思った人もいるんじゃないかな......(^_^) 

雪も霰も「こんこん」降るとは、変なオノマトペであるとはずっと思っていたけれど、そんな変なオノマトペは他にもいっぱいあるので気にするほどのことでもなかったのです。

ちなみに、「オノマトペ」とは日本語の「擬音語と擬態語の総称」ということになるのでしょうが、これに相当する言葉がないので、フランス語(onomatopée)を借用しています。日本語は外国語に比べるとオノマトペが異常と思えるほどに多い言語です。なのに、なぜか「オノマトペ」に相当する言葉がないのはなぜ?

『かはいい唱歌二冊目』(青木存義唱歌集) 童謡にはつきもののオノマトペですが、『どんぐりころころ』(青木存義作詞)も「どんぶりこ」のところを「どんぐりこ」と唄っている人もいるようですね。僕はそんなグリコな間違いはしていなかったけど、「どんぶりこ」ってなんじゃい? そりゃ、「どんぐりこ」と唄いたくなる気持ちはよーくわかります。でも、これは大きな辞書にはきちんと載っています。

しかしです。「どんぶりこ」とか「どんぶらこ」とかは、比較的大きな重いものが水に落ちたり漂ったりする様。丼だって茶碗よりでかいぞ。あっ、これはお呼びでない。

なんにせよ、「どんぶりこ」はドングリには無理があるでしょ? せいぜい「どんぐりころころ ちょぽりんこ」です。まあ、青木存義さんが韻を踏みたかったのはわかります。

そんなわけで、「こんこ」と言われると、「ちょっと待ってくれ」と言いたくなるんです。

ちょっとその雪や霰の降り方は変ではないの? 「こんこん」の最後の「ン」が鼻から抜けていく感じ。空から舞い落ちてくる雪片が積もった雪面に紛れて消えていく様子にこの「ン」が合っていたと思います。しかし、「こんこ」と言われると、「ここに置いていくよ〜」みたいな。

これにはさすがに「変だ」と思っている人が大勢いるようで「来む来む」や「来う此」説があるらしい。「来む来む」説なら「こんこん」になるけどね。どちらにせよ、これではオノマトペではないことになります。

「あめふり」(北原白秋作詞)みたいにどんどん雪よ降れという意味にも読めるし、単に降雪の風景を描いているようにも聞こえる。意味不明の童謡はたくさんありますが、これも作詞不詳だけあってわからないまま。まあ、これがいいのかな。

三好達治にも『雪』という、たった2行の有名な詩がありますね。

『雪』 三好達治著(童話屋) 太郎を眠らせ,太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ,次郎の屋根に雪ふりつむ。

こちらはまさに静寂の雪。あちらには躍動感がある。だから、やはり「こんこ」より「こんこん」というオノマトペにした方が良いと思う。だから、僕はこれからも「こんこん」と唄う。

ところで、写真の下で触れた狸ですが、大人になった狸は鳴かないそうです。子狸は「きゅーん」と鳴くことがあるらしい。甘え声でしょうかね。

ついでに罵声というか馬声の話。「プリオシン通信」で2回も取り上げたので「ついで」じゃないですけどね。

上げ馬神事 昨年(2010年)の1月と5月で取り上げた「上げ馬神事」の県無形民俗文化財指定の是非について結論が出されました。三重県としては、指定の取り消しをしないというものです。ただし、馬の走路や駆け上る坂の改善、馬に対する直接の虐待行為をしない等、改善要求も盛り込まれました。

指定をやめて放置するよりは、継続して監視と改善を続けることが望ましいと僕は思っているので、県もこれで一件落着ではなく、馬に対する罵声を退けて、馬の声に耳を傾け続けてほしいと切に願います。悲しいヒヒーンではなく、楽しいヒヒーンにしてください。

馬声のオノマトペは貧困だな。感情の書き分けができない。

朝日新聞土曜版「うたの旅人」 この下旬、朝日の土曜版に賢治の『星めぐりの歌』の特集が出ていました。「銀河鉄道ツアー」でも演奏させている曲ですが、大正7(1918)年には出来ていたそうです。童話『双子の星』からの引用です。

     あかいめだまの さそり
     ひろげた鷲の  つばさ
     あをいめだまの 小いぬ、
     ひかりのへびの とぐろ。

     オリオンは高く うたひ
     つゆとしもとを おとす、
     アンドロメダの くもは
     さかなのくちの かたち。

     大ぐまのあしを きたに
     五つのばした  ところ。
     小熊のひたいの うへは
     そらのめぐりの めあて。

歌曲としては6行2連に改められています。この詞もいろいろ議論があることで知られています。

特に「あかいめだまのさそり」と歌われる1等星アンタレス(「火星に対抗するもの」の意)。蠍座ではサソリの心臓とされている星です。アンタレスのラテン語は Cor Scorpii で、やはり「サソリの心臓」の意味です。なのに、なぜ目玉としたのか全く不明です。

『賢治の音楽室』 CDブック(小学館) オノマトペの達人である賢治はこの詩ではひとつもオノマトペを使っていません。星座の説明になっている歌ですから、そんなものを入れる余地はないので当たり前ですが、でもやっぱりちょっと寂しい.......(^^ゞ どこかで聞きたかったなという捨てがたい思いがあります。

新聞記事にはこの歌の旋律の一部が1919年の『酒場の歌』とまったく同じであるということが書かれています。『酒場の歌』は同年大ヒットした舞台『カルメン』の劇中歌ということです。作曲は中山晋平。

賢治が『酒場の歌』を咀嚼して『星めぐりの歌』に取り込まれたと考えて間違いないようです。デジタル時代で著作権が厳しい今なら盗作だと非難されることになるんでしょうけれど、「こんこ」でも「こんこん」でもどっちでもいいや、みたいな寛容さもほしいですね。

賢治の好きだった「うるうる」なんてオノマトペも、そうやっていろんなものを咀嚼して生み出したものなんでしょう。ある意味、このオノマトペ「うるうる」は万能です。見てください。

まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのようにうるうるもりあがって 『どんぐりと山猫』
……うるうる木の生えたなまこ山……  『早池峰山巓』
眼もうるうるしてふるえながら  『早池峰山巓』
百の碍子にあつまる雀/掠奪のために田にはいり/うるうるうるうると飛び  『グランド電柱』
うるうるひろがるち萱の芽だ  『水汲み』
穎果の尖が赤褐色で/うるうるとして水にぬれ  『塩水撰・浸種』
どんぐりと山猫 (宮沢賢治絵童話集) くもん出版 イラスト:司修、飯野和好 青ぞらばかりうるうるで  『〔今日もまたしやうがないな〕』
うるうるしながら赤い苹果に噛みつけば  『鎔岩流』
水はうるうるとはんぶんそらに溶けて見え  『休息』
青野うるうる川湧けば  『岩手山巓』
うるうるとした草山と  『三原三部手帳より 』

やはり「うるうる」の最高峰は『どんぐりと山猫』です。心がうるうるします。



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