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2013年09月


☆☆☆☆○
ジャイアンツ 邦題 ジャイアンツ
原題 Giant
制作 1956年 上映 201分
監督 ジョージ・スティーヴンス 地域 アメリカ
新作ばかり見ていても気分が晴れません。映画らしい作品が見たくなります。僕がまだ生まれていない時代の大河ドラマです。「ジャイアンツ」と言えば複数ですが、原題は単数です。テキサスの歴史を背景にベネディクト家の三十年が描かれるのですが、あるじのジョーダン(ビッグ)が社会を映す鏡のようになっていて、彼の変貌ぶりがこの作品の主題になる形です。ですから、やはり単数なんですよね。
牧場主ビッグがロック・ハドソン、妻レズリーはエリザベス・テイラー、使用人ジェットにジェームズ・ディーン、娘はキャロル・ベイカー、息子はデニス・ホッパー。みんなが二十代なので、いくら老けメイクしても違和感が拭えないところで損をしています。特にジェームズ・ディーンは若い時代のはにかむ様子がいいのですが、年老いてからのシーンは頭に剃り込みが入っていても老けて見えない。せっかくの演技も宙を舞っている感じです。
この作品は始めから終わりまで一貫してメキシコ人差別を背景として描いていて珍しいです。その一方で黒人差別には一切触れていません。こうした線引きがどうして可能なのかちょっと不思議でもあります。
大河ドラマなのでいろんなエピソードが入っているのですが、あまりまとまりがいいとは言えません。ジョーダンの姉のラズはレズリーと対立しますが、話の邪魔だと言わんばかりにさっさと死なせています。レズリーの進歩的な魅力もしだいに見えなくなってくるところも残念。多くの登場人物をうまく整理しきれなくて、散漫になった嫌いがあります。これが傑作とはいえない理由でしょうか。
主役の3人は鬼籍、娘役も息子役も老人になっています。ジェームズ・ディーンはこの作品の完成前に事故死、ロック・ハドソンはエイズで亡くなっています。エリザベス・テイラーは撮影当時24歳で、すでに二度目の結婚中。この後まだ6回結婚します。お相手は合計7人ですけれど。『クレオパトラ』(1963)の超美人はいくつになっても忙しいです。
昔の作品を見るといつも時の流れのはやさを感じます。この作品は次世代への希望を描いているのにもかかわらず、なにかいっそう人生の儚さを感じさせるものもあります。でも、若い頃に見た時はそんな感慨はあまりなかったのかもしれません。もしまだ未見ならばお勧めします。


☆★○○○
ロード・オブ・セイラム 邦題 ロード・オブ・セイラム
原題 The Lords of Salem
制作 2012年 上映 101分
監督 ロブ・ゾンビ 地域 アメリカ
あまり好きなタイプの作品ではないのですが、1692年の魔女狩り裁判で有名なセイラムが舞台がなっているので見てみました。この事件につていはプリオシン通信の「マリア様」で触れています。ナサニエル・ホーソンの先祖が判事としてが魔女裁判に参加しています。その罪の意識から『緋文字』が書かれたと言われています。
それで見てみたらなんとホーソンのこのエピソードがネタになっていました。ネタバレにならないようこれ以上は書きません。たいしたネタでもありませんが。しかし、この事件の関係者にとっては不愉快なことでしょう。
主人公不在の作品と言っていい流れで、作品の大半はサタンを主題にした数十年のホラーというような感じでしょうか。終盤はすっかり転調して宣伝通りサイケデリックな味付けになっていて、これも数十年前の絵です。要するに演出も筋も古くて稚拙、何を今さらという感じでしょうか。当時のホラーのお気に入りシーンををそのまま使い回しているのではと思うほど。終盤はバカらしくてため息。
ブルース・デイヴィソンがめずらしく好感を持てるオヤジで出演していますが、最後はやはり悲惨な結末。納得がいかない使い捨ての役でした。僕が見た作品ではこの人はたいてい面倒なヤツで最後はその報いを受けることが多いのですが、『X-メン』 (2000)のケリー上院議員なんかはその典型です。この俳優さんが幸せそうに結末を迎える作品が一度見てみたいです。
この人は学園紛争を描いた有名な『いちご白書』(1970)で主演しています。僕は中年になってからの彼とこの青年が長らく結びつきませんでした。この作品ではちょっと痩せて70年当時の面影があります。


☆☆○○○
サイトシアーズ 殺人者のための英国観光ガイド 邦題 サイトシアーズ 殺人者のための英国観光ガイド
原題 Sightseers
制作 2012年 上映 88分
監督 ベン・ウィートリー 地域 イギリス
『ロンドンゾンビ紀行』(2012)系の邦題ですね。ブラック・コメディらしいのですが、僕のような常識もないのに常識人ぶっている人にはちっとも笑えないですね。イギリスらしい、シニカルな笑いだとは思いますけれど。主演のふたりが脚本も書いています。
車をバックさせて人をひき殺しても罪を問われないという序盤からして確かにコメディでしかありえない展開なのですが、行く先々できかん坊な二人が激情にかられて殺人をしていくだけの話。ただし、殺しの主導権を反転させていく趣向があります。あとはただ適当に背景をつけくわえただけ。でも、いろんな賞を受けている作品らしいです。
'No Country for Old Men' が身にしみる作品です。


☆☆☆★○
イップ・マン 最終章 邦題 イップ・マン 最終章
原題 葉問 終極一戦    英題:Ip ManThe Final Fight
制作 2013年 上映 100分
監督 ハーマン・ヤオ 地域 香港
ドニー・イェンの『イップ・マン 序章』(2008年)から何作目になるのでしょうか。今作は時期的には『イップ・マン 葉問』(2010年)と同じく第二次大戦後の香港を描いたものです。ハーマン・ヤオ監督の前作はデニス・トーの『イップ・マン 誕生』(2010年)です。これは青春時代を描いたものでした。先述の2作はウィルソン・イップ監督作品です。ややこしい。
今年の5月見たのがトニー・レオンの『グランド・マスター』(2013年)。これは戦争前夜の時代でした。クンフーに関心があるわけじゃないけれど、みんな見ています。しかし、なかなか同一人物として結びつきません.......(^^ゞ
アンソニー・ウォン主演のこの作品は過去作のようなエンターテインメントを重視したものではなく、伝記的側面が強くなっています。同監督の前作はあまり面白くありませんでしたが、今回は安っぽさが抜けてなかなか良かったと思います。
イップ・マンの息子のナレーションで物語られる趣向なので、アクション主体ではなく、イップ・マンの人柄や交遊が中心に描かれます。それゆえ、前半は少々退屈かもしれませんが、人情劇として楽しめました。
イップ・マンの映画はいつも「ブルース・リーの師匠」という宣伝がついてきますが、ブルース・リーの「心」について言えば不肖の弟子ではないかと思います。映画界では遙かにブルース・リーの方が有名なのに、彼の精神性を描く作品が作られないところにそれがあらわれています。


☆☆☆★○
クロニクル 邦題 クロニクル
原題 Chronicle
制作 2012年 上映 84分
監督 ジョシュ・トランク 地域 アメリカ
モキュメンタリー手法を用いた作品です。でも、HDカメラであったり超能力が絡んでいることもあって、カメラの揺れやノイズが少ないので見やすいです。撮影者が死ぬことになるので、ファウンドフッテージというヤツですね。何度も書いていますが、こういうのはわざとらしいので好きではないです。こんな時に撮影するわけがないでしょうという場面や別のカメラの映像まで取り込んでいます。モキュメンタリーはその設定上、編集で自由なカット割りができずに流すしかないないので、無駄の多い映像になりますよね。あれも嫌ですね。
前半は超能力を手に入れた若者のたちのありふれた生活やおふざけばかりで退屈ですが、後半は低予算とは思えないようなリアルな映像の作りになっていて見ものです。制作費が180億円だった『トランスフォーマー』(2007年)よりもリアルです。映像の規模がこぢんまりしているから却って臨場感が増すようです。雲がもくもく漂う空を飛ぶシーンは青空を飛ぶシーンとは異なって臨場感たっぷりです。雲があるとこうも違うものかと思いました。
鬱屈した高校生が超能力を手にして身を滅ぼしていくという展開の背景はありきたりな描き方なので、主人公アンドリューの悲劇には共感を覚えにくいです。この作品の面白さはやはり超能力場面の映像になるでしょう。映像だけとも言えます。
モキュメンタリーは箱の穴から外をのぞいているような息苦しさを感じます。それはどことなく自分だけの人生を生きる息苦しさと似ています。しかし、映画はモキュメンタリーに限らずみんなカメラという箱のレンズ穴からのぞくものです。それなのに映画は人生を生きる息苦しさから解放してくれる気がするのはなぜでしょうか。


☆☆☆★○
ウォーム・ボディーズ 邦題 ウォーム・ボディーズ
原題 Warm Bodies
制作 2013年 上映 98分
監督 ジョナサン・レヴィン 地域 アメリカ
今週は死の匂いのするものが続きます。マイノリティだったゾンビもついにアメリカでマジョリティになったのか、ゾンビが主人公になりました。予算の関係なのか、登場人物が少なくて映像的には少々さびしいのですが、今まで見たゾンビ映画では一番面白かったです。ラブコメ・ホラーのように見えて、実は奥が深い。
しかし、これはゾンビ映画ではないのかもしれません。テリーサ・パーマーがヒロイン役です。『アイ・アム・ナンバー4』で見た人ですが、この作品はまったくつまりませんでした。この人はクリスティン・スチュワートに感じが似ていて、スチュワートと言えば『トワイライト』シリーズです。考えてみれば、ヴァンパイアとゾンビは似ていますね。しかし、ヴァンパイアはマイノリティでも恐ろしいですが、ゾンビはマジョリティにならないと怖くない。
この作品の展開はロマンスだけでには終わりません。そこが導火線になり、自尊心の芽生えやゾンビへの偏見が解けていくというおかしなことになります。しかし、悲しいことにそれには生け贄も求められるのです。現実の人間世界の隠喩であることは明らかです。
ニコラス・ホルトが演じるゾンビ「R」はもう自分の名前が思い出せなくて「R」しか覚えていません。ヒロインはジュリー。だからRはRomeoです。ネタバレはやめてくれですって?いえ、そんなことは映画の中では一言も言いません。最後までただの「R」です。これが粋でいいです。褒めてる割には評価は高くないですが、所詮ゾンBですからAにはなれません。


☆☆☆○○
エリジウム 邦題 エリジウム
原題 Elysium
制作 2013年 上映 109分
監督 ニール・ブロムカンプ 地域 アメリカ
マット・デイモンにジョディ・フォスターで、『第9地区』(2009年)のニール・ブロムカンプのSFととくれば期待も高まるところです。しかし、今回はアイデア不足です。
『第9地区』は差別問題を伏在させたSFでした。今回は格差社会の差別です。やはり今月公開された『アップサイドダウン 重力の恋人』も、去年の『トータル・リコール』も格差社会を描いたものでした。昔からよくあった設定ではあるものの、近頃の近未来ものには定着した社会像でしょうか。
地球の住民が苦しみ、上空のスペース・コロニーはエリジウムと呼ばれ、その名のとおり楽園です。しかし、その楽園は万能の医療装置だけがピックアップされて、社会のありさまはよくわかりません。そこに防衛長官デラコートが非情にエリジウムの守護神を演じているのですが、これがまったく中途半端。こんな役をよく名優ジョディ・フォスターが承知したもんだと不思議です。ジョディ・フォスターのカッコイイ悪役ぶりを見たかったのに、残念。
エリジウムの住民たちの意識もわからないし、寿命の残りが少ない主人公マックスを演じるマット・デイモンはエクソ・スーツを着用して、重そうな身体でキレの悪いアクションをしています。エリジウムのシステムを乗っ取るプランもあまりに安易。話の面白さがなく、アクションばかり重視した映像になりました。


☆☆☆★○
ビザンチウム 邦題 ビザンチウム
原題 Byzantium
制作 2012年 上映 118分
監督 ニール・ジョーダン 地域 イギリス・アイルランド
同監督の『狼の血族』(1984年)も公開当時見ています。言うまでもなく、狼男がモチーフ。最近ではジョディ・フォスターの『ブレイブ ワン』(2007年)ですね。これはチャールズ・ブロンソンの『狼よさらば』(1974年)のジョディ版なので「女一匹狼」でしょうか。 今や時代はヴァンパイアですから、やはり『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)と同じくヴァンパイアで帰ってきました。『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年)やそのリメイク作『モールス』(2010年)に構成が似ています。
ヨーロッパ風の哀愁感がただよう雰囲気で始まります。アイルランド詩人イェイツの『塔』の巻頭詩「ビザンチウムへの船出」がモチーフになっています。思い出すのはコーエン兄弟の『ノーカントリー No Country for Old Men』(2007年)です。これはタイトルにまで使われていました。

それは老いたる者たちの国ではない。
恋人の腕に抱かれし若者たち、樹上の鳥たち
その唄と共に、死に行く世代たち、
鮭が遡る滝も、鯖にあふれた海も、
魚も、肉も、鶏も、長き夏を神に委ね
命を得たものは皆、生まれ、また死ぬのだ。

引用は冒頭の6行だけです。主人公エレノアの犠牲になる人々が普通人ではなく、安楽な死を願っているような人ばかりというところにも反映しているようです。
犯罪を犯した母と一緒に逃亡を続ける娘という人間の話だったものをヴァンパイア色に染めたという趣の演出です。血に染まる滝などの陳腐な演出で退屈して眠気がしたものの、シアーシャ・ローナンとジェマ・アータートンに噛まれて目が覚めました。全体的には標準作ですが、ところどころで面白い部分があります。
出だしはファンタジー色が強いのですが、しだいにその色が褪せていくのが残念。



☆☆☆○○
スーサイド・ショップ 邦題 スーサイド・ショップ
原題 Le magasin des suicides
制作 2012年 上映 79分
監督 パトリス・ルコント 地域 フランス・ベルギー・カナダ
ヨーロッパのアニメなのでやはり絵本をめくるような美しい深みのある映像です。自殺用品専門店の家族を中心に据えた作品なので、かなりマニアック。とは言っても、生まれた末っ子が笑顔いっぱいなので、展開に明るさが見えてほぼ予想通り。しかし、子ども向け作品ではありません。当然ブラック・ユーモアの味付けがなされます。
同監督の『髪結いの亭主』(1990年)でもマチルドの自殺が描かれていましたが、あれは一種のファンタジーでした。『スーサイド・ショップ』では幾人も自殺しますので、さすがにアニメでも工夫がいります。そこでミュージカル風の演出がなされたように思えます。しかし、このアニメには深みが欠けています。原作のある作品ですが、人間の描き方が表面的です。
この店の主人はミシマです。言うまでもなく三島由紀夫が由来です。自殺グッズの中にも日本文化が反映しています。自他共に自殺大国日本とか揶揄されることもありますが、たしかに日本には独特の死の文化がありますね。外国でも、そしてその影響を受けて日本でも切腹はいつの時代でも人気がありますが、自殺を強いるとは恐ろしい侍文化です。あまり美化しないでもらいたいものです。


☆☆☆○○
あの頃、君を追いかけた 邦題 あの頃、君を追いかけた
原題 那些年,我們一起追的女孩。    英題:You Are the Apple of My Eye
制作 2011年 上映 110分
監督 ギデンズ・コー 地域 台湾
『アメリカン・グラフィティ』(1973年)の系譜に純愛を絡ませた作品です。目新しさは感じないので110分が長く感じましたが、台湾の青春は日本の長い統治の影響か、日本と共通するところが多く、興味深く見れました。
監督の原作・脚本で自分の青春を描いています。前世紀の話なのでノスタルジーの味付けもあり、青春から遠ざかった人々にはこころを掴まれるところがあるかもしれません。これを見れば、だれでも学生時代の恋を思い出しますから。
しかし、仲間たちとの関係や恋愛のエピソードが弱いのが残念。特にマドンナのシェン・チアイーが主役のコートンと別れた後、好きとは思えない別の仲間と付き合うのもわかりにくいです。


☆☆☆○○
私が愛した大統領 邦題 私が愛した大統領
原題 Hyde Park on Hudson
制作 2012年 上映 94分
監督 ロジャー・ミッシェル 地域 イギリス
ルーズベルト大統領の従妹デイジーの死後に日記や手紙が発見されて、それにもとづく実話ものです。みんなそれぞれにいい味を出す俳優たちなので退屈することはありませんが、どこに焦点を当てているのかわかりにく展開でエピソードの組立に問題があったのではないでしょうか。
ルーズベルトの愛人となった従妹デイジーとのドラマがテーマのはずなのに、英国王ジョージ6世夫妻の訪問をかなり丁寧に描いているために展開が散漫になってしまいました。しかし、デイジーだけにとどまらず、ケネディもクリントンもびっくりの裏話も出てきて、それでもルーズベルトが周りから愛されたところに彼の人間性の豊かさを見るか、偉大な男でも所詮はただの男と思ってしまうのか、複雑です。英雄色を好むの類いでしょうか。ローラ・リニーは、フランクリンは憎いけれど愛さずにはいられないという中年女性を演じてキュートです。しかし、その内面はあまり掘り下げられていません。


☆☆☆○○
ウルヴァリン:SAMURAI 邦題 ウルヴァリン:SAMURAI
原題 The Wolverine
制作 2013年 上映 125分
監督 ジェームズ・マンゴールド 地域 アメリカ
僕の好きなシリーズなのですが、これは外伝のようなものらしいです。洋画のシリーズもので日本が舞台になるとつまらなくなるのが相場なので、この企画を知った時から残念に思っていましたが、結果はやはり残念。
演出がつまらない異国趣味に引っ張られることになるのが一番の理由ですね。しかも、この異国趣味は『007は二度死ぬ』(1967年)と同じような古めかしい構図です。『007は二度死ぬ』は45年も昔だから仕方ないし、それほどつまらなくはありませんでしたが、今作は「X-MEN」のマイノリティの悲しみと闘いというテーマから外れて、なんと『ボディガード』(1992年)になってしまうお話。前半部分にはコメディ風味まであります。すでにハリウッドに進出している真田広之の役はなくても全然問題ないぐらい意味がありません。
ローガンの不老不死を狙って、恩を仇で返すという厭な結末で、おまけにこれは恩返しだという屁理屈までついてきます。なんとも後味が悪い。長崎のイメージまで悪くなります。単独映画としての出来は標準ですが、シリーズとしては忘れてしまいたい1作です。


☆☆☆○○
大統領の料理人 邦題 大統領の料理人
原題 Les Saveurs Du Palais
制作 2012年 上映 95分
監督 クリスチャン・ヴァンサン 地域 フランス
実話物だそうです。『大統領の理髪師』(2004年)という韓国映画がありましたが、理髪ではそのものの面白さを描くことは難しく、朴正煕の時代でもあり政治色が濃い作品でした。
こちらは料理が素材なので有利です。しかし、これといって事件もなく平板な作りになっています。たぶん脚色が少なく、実話に沿ったためでしょう。
ミッテラン大統領がこてこてした料理が厭になってプライベート・シェフとして女性を雇うところから始まる物語です。男社会の官邸厨房に民間の女性が飛び込んでいく筋はもう展開が見えてしまうものの、こういう闘いは面白さがあるのでいいのですが、なんとも中途半端。疲れて2年で辞めてしまうことも含めて、結局ミッテランに一時の慰めを与えただけに思えてしまうところが残念です。
主人公オルタンス・ラボリの料理への愛情や料理を愛する人々への心遣いが丁寧に描かれていますので、「大統領の料理人」などは一つのエピソードにして民間での活躍を含めた全体像を描いた方が面白かったのではないかと思います。他にもっと面白いエピソードがあったのでは?


☆☆☆☆○
Upside Down 邦題 アップサイドダウン 重力の恋人
原題 Upside Down
制作 2012年 上映 99分
監督 ファン・ディエゴ・ソラナス 地域 カナダ・フランス
今までにありそうでなかったSF作品です。ファンタジーに近い。格差世界となっているトップとダウンの2つの世界が逆さまに接していて、重力はその物質が属した世界の影響を受けているという新しい世界です。その境界線では反重力物質が存在しているかのような事態が生じることになります。
絵的にも面白い世界が展開することになるわけですが、この作品のテーマが恋愛というのがまたいい。SF作品では恋愛はいつもサブテーマにしかならないので、ロマンスを基軸にしようという試みがいいのです。
ところが、そのラブストーリーがきちんと描けていないという大失態。二人が愛を育む過程を詩的にロマンティックに表現することで、いびつな世界が溶け始めるところを見たかったのに、駆け足で恋愛しているかのよう。いつの間にか妊娠していてびっくり。記憶喪失という安っぽい手を使ってしまったことも一因ですが、もうあと15分使って楽しいデートや悲しいケンカを描いてほしかったものです。ひょっとして編集でバッサリ切られちゃったのかなと思うほど粗いです。
キルスティン・ダンストはやはりこういう作品に合います。主演のジム・スタージェスもいいです。彼はナレーションもやっていて、冒頭ではこの世界を説明しています。ところが、ただの説明なのにその語り口調も含めて詩情が漂っています。映画の硬質な色調もよく合っています。久しぶりに面白い絵のSFを見た気がします。評価は4つ星ですが、今年の必見作。


☆☆☆★○
サイド・エフェクト 邦題 サイド・エフェクト
原題 Side Effects
制作 2013年 上映 106分
監督 スティーヴン・ソダーバーグ 地域 アメリカ
新薬の副作用を利用した犯罪スリラーです。いろいろと怪しいと思うものの、どういう展開の話になるのか見当が付かない良い出だしです。なぜ見当が付きにくいかと言えば、動機や犯罪計画がかなり突飛だからです。
この突飛な話を成立させるために話の筋はかなり複雑に考えられていて、そのあたりは面白いと思えるかもしれません。しかし、完全犯罪の基本はひそかにやるものであって、世間の耳目を集めるような完全犯罪は無理があります。おまけに赤の他人同士で共謀するというハイリスクも。それに逆らうようなことをやったということで面白いと感じる人もいるかもしれませんけれど、それだけにツッコミどころも多くなり、リアリティ度はかなり低いです。
同一犯罪で二度処罰できないという問題を扱ったアシュレイ・ジャッド主演の『ダブル・ジョパディー』 (1999年)がありましたが、この作品ではこのために後味の悪い結末になっています。もっともこの後味の悪さがこの作品の要らしく、始めと終わりのシーンが印象深いです。主人公の精神科医ジバンクス博士が被害者だけには収まっておらず、いったい本当に狂っているのは誰かという風刺が効いてきます。それで3つ星半としました。
ジュード・ロウは禿げ具合といい、ますます医者役が似合うようになってきました。キャサリン・ゼタ=ジョーンズの医者役は色香がありすぎですが、レズシーンがあるための起用でしょうか。『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)の印象が強いルーニー・マーラは今作でも強い印象を残します。



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