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2013年05月


☆☆☆★○
一代宗師 邦題 グランド・マスター
原題 一代宗師      英題:The Grandmasters
制作 2013年 上映 123分
監督 ウォン・カーウァイ 地域 香港
映画紹介を読む限りでは葉問(イップ・マン)の人生を描く作品かと思いましたが、英題が複数形になっているようにそうではありませんでした。葉問については昨年の3月にドニー・イェン主演の『イップ・マン序章』(2008年)と『イップ・マン葉問』(2010年)、そしてキャストが異なる『イップ・マン誕生』(2010年)の3作品をコメントしています。
絵づくりに手間をかけている作品で、それが主体の作品とまで言えるぐらいです。あとは禅問答のような会話劇。カンフー・アクションばかりが宣伝されていますが、絵づくりが優先されてしまっているので眼を見張るのは一線天(カミソリ)役のチャン・チェンの迫力ぐらいでしょうか。アクションは細切れカットとスローモーションで勢いを削がれています。
僕が見た限りでは、この作品で完結的に人生を描かれているのは宮宝森(ゴン・パオセン)の娘、宮若梅(ゴン・ルオメイ)です。ほとんどの人が葉問役のトニー・レオンが主演だと言うでしょうが、僕はチャン・ツィイーが主演に見えてしまいましたね。じゃあ、主演にふさわしい活躍をしていたかと問われれば、この役は似合わなかったと思いました。それでも絵を主として楽しめましたので、高評価ならぬ好評価です。駅での戦いで、画面の半分を汽車が走り抜け、あと半分で戦いが繰り広げられるというシュールな絵は一見の価値ありです。ただし、いかにも合成ですという下手が残念でした。


☆☆☆☆○
オブリビオン 邦題 オブリビオン
原題 Oblivion
制作 2013年 上映 124分
監督 ジョセフ・コシンスキー 地域 アメリカ
トム・クルーズ主演のSF大作だと思っていましたが、それほどの大作感はありませんでした。話の規模は小さくはないのですが、演出は案外こじんまりしていました。
物語は2077年。過去に地球ではエイリアンとの戦争があって勝ちはしましたが、被害が大きくて生き残りたちは土星の衛星タイタンに移住しています。地球ではまだドローンと呼ばれる無人偵察機によってエイリアンの監視が続けられおり、そのドローンのメンテナンスをしているのが主人公のジャックです。
映像や物語の設定にはいろいろと既視感があります。例えば、ドローンは『2001年宇宙の旅』(1968年)の船外活動艇のようでもあり、飛行時は『ファンタズム』(1979年)の殺人飛行体であるシルバー・スフィアのようでもあります。しかも、『ファンタズム IV』(1998年)のサブタイトルは"Oblivion "でした。
戦争を終わらせるための方法もありきたりで尻すぼみの印象も拭いがたいですが、新しかったものもあります。それはラストシーンです。
Oblivion(忘却)というタイトルなので、当然「記憶」がモチーフになっているSFです。こういうややこしくなりそうなのは僕の好みです。しかし、この作品はそんなにややこしくなく、よくまとまっている話です。記憶にまつわるSFは必然的にアイデンティティにかかわってくることになりますが、この作品はそこにこだわらないところがいいです。
時代のせいか、年齢のせいかわかりませんが、もうアイデンティティにこだわるのは古くさいです。だから、この作品のラストは気に入りました。観客に結末の意味が伝わらないと心配だったのか、ちょっと説明的な台詞は気に入りませんでしたが。
この主人公の設定としてトム・クルーズは少々年齢が高いです。トム・クルーズに支払う報酬を節約して、もっと映像に金を掛けてもよかった気もしますね。でも、僕は楽しめました。


☆☆☆★○
セレステ∞ジェシー 邦題 セレステ∞ジェシー
原題 Celeste and Jesse Forever
制作 2012年 上映 92分
監督 リー・トランド・クリーガー 地域 アメリカ
トレンドなラシダ・ジョーンズが脚本にもかかわって主演したトレンドな作品です。日本ではまだこのような恋愛状況というか結婚状況はトレンドではないですけれど、女性には共感できる部分が多くある作品ではないかと思います。
子どもっぽさが残る夫婦が精神的な自立や社会的な自立に悪戦苦闘しながら大人になろうとする過程をコメディタッチで描いたドラマです。まだ若いカップルの物語ですけれど、自立の問題というのはいくつになってもくっついてくるものだと思えます。大人になるということは人生にとって「Forever」な課題なのでしょう。ラシダ・ジョーンズが光っている作品です。
2011年のプリオシン通信「宙返り」で取り上げたビクトール・フランクルの言葉が引用されていました。
When we're no longer able to change a situation, we're challenged to change ourselves.


☆☆☆★○
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命 邦題 プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命
原題 The Place Beyond the Pines
制作 2012年 上映 141分
監督 デレク・シアンフランス 地域 アメリカ
見る前に上映時間をみて、えつ?!と思いました。長いはずです。3部作になっていました。しかも、オムニバスというほどではないですけれど、かなりタッチが異なります。
特にライアン・ゴズリングのクライム・ムービーのような第一部は他の2部から浮き上がっているかのような趣。ライアン・ゴズリングのファンには面白いと思います。しかし、今時あんなずさんな銀行強盗が通用するとは思えないし、曲芸ライダーのルークが追い込まれていくあたりの脚本はうまくない。
この第1部はその後の部分が本筋で、本来なら回想シーンではまり込むようなエピソードです。それを始めにきちんと描いたところが成功だったのか失敗だったのかは観る人の判断です。第1部を重視する人にはその後の展開が失敗に見えてしまうのではないかと思えます。
第2部は第1部と第3部の接合部と言うべきで、レイ・リオッタ定番の悪徳警官も含めて描き方が弱いです。もっとテーマを絞り込んで、どこかにきちんと焦点を当てた編集にしてもらいたかったと思いますが、登場人物たちの心の機微は伝わってくる演技でした。


☆☆☆○○
私のオオカミ少年 邦題 私のオオカミ少年
原題      英題:A Werewolf Boy
制作 2012年 上映 125分
監督 チョ・ソンヒ 地域 韓国
この手の話はだいたい内容の見当がつくものですが、やはりそういう流れになりました。
ハリウッドの流行スタイルの狼男ではなく、タイトルからはちょっとほのぼの路線かもという予想もありました。回想する物語で始まっていくのでいかにも韓国らしいロマンスものになりそうと思いながらも、コメディ・タッチの展開なっていくのでこれはラブコメ的展開になるのかもと思ってみたり。
ところが、一転シリアスになってきて、狼男やフランケンシュタインの伝統というか、『シザーハンズ』(1990年)というか、モンスター扱いという定番の展開になってしまい残念。少女スニが老いてから再会するシーンでは、また少女の姿に戻してしてイメージさせたのも残念でした。老女のままで抱き合ってほしかったものです。
純愛とか宣伝されていますけれど、スニからみれば恋愛ではなくて、これはやはりペットへの愛にしか見えません。ソン・ジュンギの狼男演技もありそうな範囲内で、もっと新しいものが見たかったですね。ラブコメにしてもらった方が面白かったと思います。


☆☆☆○○
アンチヴァイラル 邦題 アンチヴァイラル
原題 Antiviral
制作 2012年 上映 108分
監督 ブランドン・クローネンバーグ 地域 アメリカ
タイトルから判断すれば、ウイルスの感染ホラーものかと思うところですが、偏執的な趣味をモチーフにしたSFサスペンスです。しかし、演出のサスペンス度は低く、偏執的な感覚を重視しています。
そんなわけで、こういう感覚が好きな人は面白いかもしれませんが、そうでない人には退屈な演出に見えるのではないでしょうか。時代設定は近未来ということになるはずですが、演出的には近過去というべき感じで、現代的な建築物も出てこないし、装置もハイテクではなくむしろローテクという趣です。
前半においては、セレブの病気ウイルスに感染して楽しんだり、セレブの細胞から増殖させた肉を味わったりという社会の状況が描かれ、中盤は企業の陰謀として展開し、最後は愛の所有についての物語へと移行していきます。この脚本の展開自体はよく出来ていると思いましたが、やはり趣味に合いませんでした。
この作品を見て思いだしたのはシェリリン・フェン主演の『ボクシング・ヘレナ』(1993)です。やはり偏執的な愛が描かれ、気分が悪くなる趣向の作品ですが、脚本・監督のジェニファー・チェンバース・リンチはデヴィッド・リンチの娘で、これがデビュー作品でした。
『アンチヴァイラル』の脚本・監督のブランドン・クローネンバーグは言うまでもなく、デヴィッド・クローネンバーグの息子です。そして、やはりこれがデビュー作です。


☆☆★○○
ポゼッション 邦題 ポゼッション
原題 The Possession
制作 2012年 上映 92分
監督 オーレ・ボールネダル 地域 アメリカ・カナダ
悪霊が取り憑くオカルト・ホラーものには実話とか実話に基づくとかいう宣伝が付きものです。嘘もほどほどにと思います。新しいものは何もなく、定番の展開で先が読めてしまいます。そんなものが実話であるはずがありません。
これは「ディビュークの箱」というユダヤの悪霊をモチーフにしているところが新味で、ユダヤ教のの悪霊払いが登場します。ところが、ユダヤ教のことはわからないようで、儀式というようなものもなく悪霊の名前を叫ぶだけの演出でした。ホラーの怖さよりも家族愛に少しシフトしている感じもあります。
なぜこんな作品にサム・ライミが制作にかかわったのか意味不明です。邦画タイトルも「〜の箱」の方が良かったのでは。
「ポゼッション」はよく使われるタイトルです。特に思い出すのはイザベル・アジャーニの『ポゼッション』(1981年)。これもホラーでした。タコのような魔物とアジャーニが絡んでいました。


☆☆☆☆○
きっと、うまくいく 邦題 きっと、うまくいく
原題 3 Idiots
制作 2009年 上映 170分
監督 ラージクマール・ヒラニ 地域 インド
ボリウッド作品は日本公開がかなり遅れますね。原題通り、3バカ大学生が騒動を繰り広げる学園ものと、その十年後を描いたコメディ・ドラマです。3バカの一人は天才なんですけれど。
ボリウッドはハリウッドの影響を受けて、ダンスシーンの減少と短時間化が進んでいるらしいですが、これはほぼ3時間。時間はやはり長いですが、ダンスシーンが少なく、エンディングにもダンスはなし。こんなのは始めて見たかも。しかし、ダンスシーンに手を抜いているわけでもなく、演出にあらゆる工夫を凝らして楽しいです。
ハリウッドの影響については表面的なことよりも、この作品は内容に強い影響を受けています。バカ学生のコメディはハリウッドの定番ですからね。それ以外にもあらゆる場面の演出に影響が見えて、インドらしさはほとんどありません。キャストをアメリカ人にはすればそのままハリウッド作品です。
ただし、インド社会の現状を反映した社会的な風刺が織り込まれています。もっとも生活レベルの高い層の現状だと思います。そこから希望を持つための魔法的な言葉が邦題のタイトルになっていて、'Aal izz well' (All is well.) がキーワードになっています。
3時間を退屈させない脚本というだけでなく、時々いい台詞があって、よく出来ています。甘めの4つ星評価です。しかし、ダンスシーンが少ない分ストーリーもそれだけ長いわけで、やはり日本人に3時間は長いです。ダンスシーンで時々気分転換したいです.......(^^ゞ
言葉はヒンディー語、ウルドゥー語 、英語です。


☆☆☆★○
後宮の秘密 邦題 後宮の秘密
原題        英題:The Concubine
制作 2012年 上映 122分
監督 キム・デスン 地域 韓国
宮廷を舞台にした陰謀がごめく権力闘争を、政治ではなく愛憎をめぐるドラマを描いた作品です。ラブストーリー的な側面もあるのかと思いましたがほとんどありません。
ヌードはありますが、そんなにエロイ作品ではありません。主演のチョ・ヨジョンは悲痛な表情の場面が多いので、演じるのは大変だったのではないでしょうか。王の側室にされてしまったことから始まる悲劇のヒロインは生き延びるために策略家となって、最後には権力を奪い取るところまで行き着いてしまいます。チョ・ヨジョンが可哀想な娘から冷徹な女へと変貌していく過程を、美貌というよりは愛らしい容貌で演じていきます。そういう作品なので、ちょっと不自然なほど女の怖さを強調しています。それが魅力でもあり、欠点でもあります。
主役のファヨンの周りの人々もみんな一癖ある人物たちでなかなか面白かったです。


☆☆☆★○
愛さえあれば 邦題 愛さえあれば
原題 Den skaldede frisØr
制作 2012年 上映 116分
監督 スサンネ・ビア 地域 デンマーク
ベタな邦題です。物語の設定というか構成自体もよくあるものです。やはり、こういうロマンティック・コメディには美しい風景がつきものなので、イタリアのソレント半島が主な舞台となります。しかし、ほんとに美しい。
出だしからそういうありきたりの設定でくるので、うーむという感じなのですが、次第にありきたりから外れていきます。なかなかピアース・ブロスナンも良かったですが、イーダ役のトリーヌ・ディルホムがいい味を出していました。
デンマーク語、英語、イタリア語の作品です。隣と仲良くできないアジアとは違って、ヨーロッパは垣根が低くてうらやましい。それだけの苦難の歴史があったわけですけれどね。アジアでこういう作品が作れるようになるのはいつのことでしょうか。


☆☆☆○○
モネ・ゲーム 邦題 モネ・ゲーム
原題 Gambit
制作 2012年 上映 90分
監督 マイケル・ホフマン 地域 アメリカ
『泥棒貴族』(1966年)のリメイクですが、オリジナルとは舞台も人物設定も変更されています。シナリオはコーエン兄弟。キャストはオリジナルのマイケル・ケインとシャーリー・マクレーンがコリン・ファースとキャメロン・ディアスに置き換わりました。それらしいキャスティングではあります。
オリジナルの時代に面白かったものを現代にもってきてもやはり面白くなるものと、そうでないものがあります。これは後者です。話が小粒に感じられるというか、こざっぱりしていて面白くありません。
当時はドタバタ・コメディがたくさんありましたが、それだけの役者が揃っていたということもあります。登場する日本人の設定も古くさくて、もっと時代にあったものに作り替えてほしかったのもです。キャメロン・ディアスはもうコメディよりもシリアス・ドラマの方がいい。


☆☆☆☆★
 邦題 アラバマ物語
原題 To Kill a Mockingbird
制作 1962年 上映 129分
監督 ロバート・マリガン 地域 アメリカ
ハーパー・リー Harper Lee 原作『ものまね鳥を殺すには』を映画化したモノクロ作品です。この邦題もなんじゃらほいです。魅力的な原題も台無し。見るのは3回目でしょうか。すでに「オードリー・ヘプバーン」のページで紹介しているのですが、今月のプリオシン通信で触れるので見直してみました。
原作が素晴らしいですが、映画もいいキャストを得ていい作品になっていて、グレゴリー・ペックがやっとアカデミー主演賞をもらった作品です。娘スカウト役のメアリー・バダムのキャラ造形も素晴らしいですが、助演女優賞ノミネートしながらも残念ながら賞は『奇跡の人』のパティ・デュークに渡りました。兄ジョン・バダムはこの妹の縁故がきっかけで監督にまでなりました。
設定は不況下の南部アラバマ州。弁護士アティカス・フィンチは男やもめで、息子と娘の三人暮らしをしています。白人の策略でレイプ犯にされた黒人トムの弁護を担当する日々を背景に、子ども達が隣家の異常者ブーに好奇心と恐怖を抱く姿も描かれていきます。この二つのエピソードがそれぞれ大人の世界と子どもの世界を描く視点として置かれ、最後には見事に融合していく構成です。
裁判では白人側をことさら悪い態度に演出しているように思えて気になりますが、1930年代のアラバマならそう描くべきだったのかもしれません。そんな中、悪く言えばアティカスを通じて白人の良心を描いたとも見えます。登場する黒人は被告と家政婦以外はほとんどセリフがありません。子ども達の黒人への偏見のなさも含めて、アティカスと黒人の交流にもう少し説明描写があっていいようにも思えます。
この作品の肝は「相手の靴をはいて歩く」です。小学校に上がったばかりのスカウトは学校で他の子どもと衝突を繰り返します。その時にアティカスが人付き合いのコツとして教える言葉です。それが作品全体の基調となって、スカウトの隣人ブーへの理解へとつながっていきます。
この作品は時々スカウトの視点が入り込んできます。それを象徴するかのようなオープニングタイトルは今見ても斬新です。おすすめ作品です。


☆☆○○○
フッテージ 邦題 フッテージ
原題 Sinister
制作 2012年 上映 110分
監督 スコット・デリクソン 地域 アメリカ
イーサン・ホークの出演なので見ました。この監督の前作『地球が静止する日』 (2008年)はつまらなかったけれど、これも同様で、原題通りの邪悪なだけで中身はありません。ダメな演出です。
邦題は原題とは無関係な footage 。この作品で8ミリフィルムが話の牽引役として使われているので、このフィルムリールのことを指しているらしい。そんなことを知っている日本人はどれだけいるんだろう。
スランプのノンフィクション作家が一家惨殺現場の家へと家族に内緒で引っ越してきたことから起こるホラーです。話の筋も演出も既視感のあるものばかり。僕が嫌いなモキュメンタリー手法も使われています。話の転がり方も、次の演出というかシーンの描き方も予想がついてしまいました。しかも、こういう邪悪な作品に子どもがたくさん使われているのが不快。
イーサン・ホークはいつも通り頑張っていますが、もっと作品を選べよと言いたいです。あなたが選んだ作品は僕はたいてい見ちゃうんだから。


☆☆☆★○
ハートレス 邦題 ハートレス
原題 Heartless
制作 2009年 上映 114分
監督 フィリップ・リドリー 地域 イギリス
ゲーテの『ファウスト』のように悪魔との契約の話はたくさんあります。これもそのバリエーションのひとつです。しかし、今までの作品とは少し趣を異にするところがあって、ダークなファンタジーの感があります。
最初はホラー・サスペンスのように見えて、徐々にサイコ・スリラーに傾いていきます。登場人物の重複や名前、そしてセリフの重複など、たくさんのキーが埋め込まれているので、謎解きはそれほど難しくはありません。そして、残る余韻でファンタジーとなります。
悪魔たちの造形や擬音が安っぽいのと、ホラーの要素があるため僕の苦手な残虐シーンが嫌だとかはありますが、面白い脚本です。この作品が青春ドラマとして作られていたら、もっと良かったと思いますね。音楽の挿入の仕方もいい。
カメラが重要な引き回し役を果たしていて、Heartless というタイトルがうまく二重に写し込まれています。


☆☆★○○
恐怖と欲望 邦題 恐怖と欲望
原題 Fear and Desire
制作 1953年 上映 62分
監督 スタンリー・キューブリック 地域 アメリカ
スタンリー・キューブリックのデビュー作品という触れ込みなので、見なくちゃね。公式サイトでコメントを見れば評論家たちも絶賛しているではないか。公開当時も評論家には好評だったとか。しかし、自ら「アマチュアの仕事」と言って封印してしまっただけあって、アマチュア作品のにおいがしました。そもそもこのタイトルがアマチュアではないですか。僕はキューブリックの意見に賛成です。結局この作品は赤字興業になってますし。
確かに後の作品に発展するような要素を見ることができても、作品自体はつまらない。コメディでもないのにそれ並にリアリティがないし、ばからしい脚本や演出。特に敵の殺害シーンの演出は赤面ものだと思います。音楽も耳障り。キューブリックの芽を味わいたい人向けです。
キューブリックは何がきっかけで跳躍することができたんでしょうか。


☆☆☆★○
ビトレイヤー 邦題 ビトレイヤー
原題 Welcome To The Punch
制作 2013年 上映 99分
監督 エラン・クリーヴィー 地域 アメリカ・イギリス
この邦題は betrayer のことなんでしょうけど、わざわざこんなタイトルにする感覚がわからない。いつまで続くか迷走邦題のぬかるみ。
因縁のある犯罪者と刑事が陰謀に舞い込まれるという展開は飽きるほど見てきました。いま流行のスタイリッシュなクライム・サスペンスです。
無機質な絵とスローモーションというのはこういう作品の定番になってきました。スタイリッシュも見慣れれば古くさいスタイルになります。しかし、その中でもなかなか美しい絵作りで、標準を超えたものになっています。ストーリーも工夫があって退屈させません。
対立と共感の狭間にある二人の主人公たちがほぼ同時に愛する者の死を知るというのは今までに見たことがないシーンでした。ジェームズ・マカヴォイとマーク・ストロングの二人の演技の妙が面白いです。


☆☆☆○○
L.A. ギャング ストーリー 邦題 L.A. ギャング ストーリー
原題 Gangster Squad
制作 2012年 上映 113分
監督 ルーベン・フライシャー 地域 アメリカ
ギャングの抗争物みたいな邦題ですが、ギャングではなくて特別捜査班の話なんですよね。邦題では主役が逆さまです。
「アンタッチャブル」(1987年)みたいな作品を想起するところですが、まあその通りです。「アンタッチャブル」を倣った人物配置や有名なシーンをなぞったようなのもあります。大きく違うのはこちらは警官を捨てたも同然の立ち回りで、遵法精神との葛藤がほとんどありません。
この監督作品で以前見たのは『ゾンビランド』(2009年)。ヒット作でしたが、ゾンビものはあまり好きではない僕は低評価。銃を撃ちまくる展開は今作も似たところがあります。どちらにもエマ・ストーンが出演しているし......(^_^) 「アンタッチャブル」では緊迫感の漂う静かなシーンがたくさんありましたが、こちらはアクションが中心になっているのでかなり趣が異なっています。
砂煙の舞うカーチェイスの場面は撮影も含めて見応えがありましたが、アクションとして他に特筆できるものがあるわけでもありません。見慣れたものです。ショーン・ペンのボスギャング役も短気で残虐でよく吠えるという定番です。ミッキー・コーエンが実際そういう男だったからしかたないですけれど。ショーン・ペンはむしろチンピラ役で映える人。案の定、エマ・ストーンの情婦役はまるで似合わないです。
しかし、主演のジョシュ・ブローリンが良かったのと、ミレイユ・イーノス演じる妻コニーの扱い方が新鮮でした。期待したほどではなかったけれど、残虐なシーンを除いては楽しめました。R15+です。
先週のニュースでメリーランド州ボルティモアの刑務所をギャングが支配していたというのがありました。刑務官が4人も妊娠していたというのは日本人の理解を超えています。日本では暴力団と警察の攻防の歴史がほとんどないので、任侠物とか暴力団同士の抗争物ばかりで残念。北野武も旧態依然の抗争物でなく、警察プラス市民VS暴力団という構図のエンタテインメントを作ってくれないからしら。彼なら何でもギャグで通じるから、伊丹十三ほどの覚悟はいらないと思う。
ミッキー・コーエンはイタリア系ではなく、ユダヤ系ギャングです。ボクサーでは日の目を見ず、夢破れてギャングです。L.A.ではそんな選択ができるほどギャングがのさばっていたのでしょう。彼は映画スターたちとも幅広く付き合っていました。彼のボディ・ガードはラナ・ターナーと関係があり、ターナーの娘に刺殺されています。娘は無罪でした。
犯罪者がメディアの寵児になること自体が狂っていますよね。映画とは異なって、現実のコーエンも他のギャング・ボスと同様に脱税で逮捕されています。
映画も銃を讃美し、犯罪者を面白がる側面があることはどうしようもなく否定できない事実です。



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