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2013年04月


☆☆☆☆○
若草物語 邦題 若草物語
原題 Little Women
制作 1949年 上映 122分
監督 マーヴィン・ルロイ 地域 アメリカ
『若草物語』(1933年)のリメイク。見るのは初めてですが、TVで見たら20分以上もカットされていたのでDVDで見直し。TVの編集はかなり乱暴で、ユーモラスで面白いシーンや、心温まるシーンがいくつもカットされていました。原作としては『若草物語 Little Women 』と『続 若草物語 Little Women Married, or Good Wives 』に相当します。
ほぼ原作通りですが、三女のベスと四女のエイミーを映画ではキャラをそのままにして入れ替えています。つまり、猩紅熱を契機にして病弱になるのは四女のベスということになります。映画らしい脚色です。
近頃の映画では見ることができない家族愛が描かれていて、まさに聖家族です。女性向きと思っていましたが、原作者ルイーザ・メイ・オルコットの分身であるジョーに共感できて、楽しく見ることができました。鼻が低いエイミー役のエリザベス・テイラーが高い鼻に洗濯ばさみとは笑えます。
屋外シーンの背景を見ているとどうもセット撮影のようにみえます。照明による鮮やかな色の表現などを見てもそんな感じがします。アメリカ映画の底力ですね。
悪人が活躍するような映画ばかり見ている悪人には心洗われる一品でした。これからはもっと古い作品を見ようかな。


☆☆☆★○
ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮 邦題 ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮
原題 En kongelig affære
制作 2012年 上映 137分
監督 ニコライ・アーセル 地域 デンマーク
真実の物語という触れ込みですが、いつものことで当然フィクションです。推測でしかありません。18世紀後半のデンマーク王室スキャンダルやクーデターを描いた作品です。王妃と恋に落ち、王権まで物にしてしまうのはドイツ人医師ストルーエンセ。演じるのはマッツ・ミケルセン。はまり役です。
こういうスキャンダルは私利私欲が動機になって国をほしいままにするのが常道ですが、この作品ではストルーエンセの動機を正義感に基づくものとして描いています。歴史的に言えば、彼の作った法律が農奴を解放していく契機になったことは間違いないことなので、今のデンマークでは肯定的に評価されていることがわかります。一方、貴族や政治家は民衆の敵対者として描かれています。2時間超えの長編ですが、退屈することはありませんでした。
クリスチャン7世との交友や政治的な動きにかなり時間を割いているので、ロマンス部分は弱くなっています。また、ストルーエンセの行動規範となっているのは啓蒙思想なのですが、彼の思想についてもっと言動で語らせてもらいたかったと思います。歴史的なことを重んじているせいか、大胆な脚色ができなかったことが理由かもしれませんが、タイトル通り、人を描くというよりは騒動を描いた作品になったということでしょうか。


☆☆☆○○
ラストスタンド 邦題 ラストスタンド
原題 The Last Stand
制作 2013年 上映 107分
監督 キム・ジウン 地域 アメリカ
「ラストスタンド」というタイトルはサブタイトルでよく使われているのですが、メインで使われています。stand は基本語なので意味が多様ですよね。ここでは踏みとどまっての防御という意味で、その通りの作品となっています。
アメリカには西部劇の伝統と、車で暴走して逃げるという伝統?があります。前者からは市民の助けを借りて町を守る保安官という設定を借りて、犯罪者の暴走車を待ち構えるという構図になっています。その点ではバリエーションの組み合わせで新味はありません。そして、残念ながら演出においても新味がないことになっています。
麻薬王を逃がす方法とか、とうもろこし畑を暴走するとか、最後はタイマンで決着をつけるとか、みんなスタイルが古いです。しかも、タイマンの場所が見栄えのしない仮設橋の上でした。カッコ良くスポーツカーで逃げていた麻薬王はタイマンの前には金で保安官を買収しようとするのですが、カッコ悪ー。シュワルツェネッガーは大金持ちだし、元市長だからそんな手に乗りません......(^_^)
町で手下と戦う時にも作戦というか、工夫がない。この監督の『悪魔を見た』(2010年)も僕はダメだったのですが、これはシュワルツェネッガー復帰作で、久しぶりのシュワちゃんです。アクション作にもかかわらず、ポスターとは異なってほのぼの感があり、シュワルツェネッガーだけは良かった。
場面がバラバラしていて作品としてまとまりがなく、田舎のほのぼの保安官が悪党と戦うという古典的な作品にした方が似合う表情をしていましたよ。
オバマ大統領はいま銃規制を進めようとしていますが、やはり壁は厚いです。この作品も市民の銃マニアの助けを借りて武器を調達することになっていて、銃規制法案に逆行する内容です。田舎警官が粗末な武器でも工夫して戦う話なら、だれでも共感して楽しめたのに。シュワちゃんがスポーツカーで暴走してもちっとも魅力ありません。


☆☆☆○○
ジャッキー・コーガン 邦題 ジャッキー・コーガン
原題 Killing Them Softly
制作 2012年 上映 97分
監督 アンドリュー・ドミニク 地域 アメリカ
クライム物は苦手ですが、キャストが豪華なので見ました。出来はそこそこだと思いますけれど、やっぱり面白くないです.......(^^ゞ
主な登場人物は賭博組織の金を盗むチンピラのような男たちと、殺し屋、組織の連絡役のドライバー。物語の展開はごく普通なのですが、話の筋とは別にブラッド・ピット演じるジャッキー・コーガンと登場人物たちとの会話に重点が置かれています。ここが新味。そして、ブラッド・ピットらしい。
レイ・リオッタが襲われる賭博場の主マーキーを演じていて、犯人と疑われて暴行を受けるシーンが生々しいです。演技ではなく、人は殴られたら本当はこうなるというような描き方です。そして、殺されるシーンはスローモーションでじっくり描かれていて、レイ・リオッタは散々ですが本人は喜んで演じたそうです。スローな演出はスタイリッシュでしょ?と言いたいのでしょう。フランキー役のスクート・マクネイリーの怯えの演技は秀逸。うまい役者が揃っていた感じです。
米国大統領選の前の2008年が舞台で、オバマ上院議員がTVで演説しているシーンが何度かはまり込みます。そして最後に、きちんと支払いがなされないことにコーガンは腹を立て、独立宣言を起草したトマス ジェファーソンを皮肉り、「アメリカは国じゃない。ビジネスだ。さあ、さっさと金を払え」とドライバーに怒鳴ります。アメリカの裏面の生態を描きながら、皮肉を効かせた作品です。原題にもその皮肉が出てます。
この原題が単数形になるとヘザー・グレアムの『キリング・ミー・ソフトリー Killing Me Softly』(2002年)ですね。ついでに言えば、ロバータ・フラックの『やさしく歌って Killing Me Softly with His Song』(1971年)は名曲です。


☆☆☆☆○
セデック・バレ 第一部 太陽旗 邦題 セデック・バレ 第一部 太陽旗
セデック・バレ 第二部 虹の橋
原題 賽コ克・巴莱     英題:Warriors of the Rainbow: Seediq Bale
制作 2011年 上映 第一部:144分
第二部:132分
監督 ウェイ・ダーション 地域 台湾
台湾の原住民族が登場する映画を見るのは初めてです。たくさんの部族がいて、争いになると首を狩っていたとはびっくり。まあ、日本でも武将の首は狩られるし、首さらしもあり、切腹も斬首を伴っていたし、ですけれど、コレクションはしてませんね。織田信長は怪しいけど。
日本統治下の1930(昭和5)年に起きた抗日暴動事件「霧社(むしゃ)事件」を描いたものです。日本人がやってきて近代文明を注入されていくあたりは台湾人には関心のないところでしょうから、ほとんど割愛されています。決定的な反目が生じるところから描かれて事件が起こります。
暴動というような生やさしいものではなく、日本人の首が狩られまくりです。運動会が狙われて女子供も関係なし。暴動に参加したのはセデック族の6社300人。ところが、社間の積年の恨みもあって、日本軍と行動を共にする社もいるという、まさに恨みの複合汚染です。こういう構図は『ダンス・ウイズ・ウルブズ』(1990年)と共通するところがあります。
結果的には女子供の自害も含めて千人が死に、550人が投降したとのこと。村は滅ぼされ、日本軍の監視が届く場所に移住させれれることになりました。
日本軍はガス爆弾まで使って戦っています。襲撃戦のリアルさはハリウッドに負けていないです。戦闘シーンが多く、様々な描き方をしているので、これは戦争アクションという側面のある作品でもあります。ただし、日本軍は敗走するばかりですけれど。ここは台湾住民への配慮も働いているのでしょう。
台湾側の俳優はみんないいです。目つきがいい。セデック族マヘボ社の頭目モーナ・ルダオを演じたのはリン・チンタイ。このオヤジ、味があります。ビビアン・スーもキャストされていますが、ほとんど出番はありません。
誇りを傷つけることと、誇りにこだわることはどちらも危険なことです。モーナ・ルダオはセデック族のヒーローなのかもしれませんが、彼がヒーローでなかったらセデック族がここまで悲惨な運命に晒されることもなかったでしょう。憎しみと武力はいつも双方を傷つけます。
戦闘が終わった後で、日本軍の司令官が台湾の赤い桜を眺めながら、セデック族に日本人が失った武士道を見た、というようなことを言います。しかし、現代人の僕からみれば、あとは野となれ山となれみたいな男どもの死に方は迷惑千万に感じます。女も幼子もみんな運命を共にして心中させられるのです。おまけに太平洋戦争末期には高砂義勇隊として日本軍にその武勇を利用されることにもなります。
『猿の惑星』(1968年)でテイラーが宇宙船の中で「人類はまだ殺し合いしているのだろうか」と独り言をいう台詞がありました。あれは地球時間では2673年でした。
そろそろやめてほしいものです。リーダーが「誇りを持て」と言い出したら、みんなで止めましょう。武力で解決しようとするなら「猿の惑星」になります。
この作品は『ダンス・ウイズ・ウルブズ』とは異なってセデック族を讃えるだけではありません。二つの文明の間で苦しむ警官たちも登場します。彼らがそれぞれにどんな行動を選択したかも重要なメッセージとなっています。セデック族の歌が悲しくこころにしみる作品です。


☆☆☆○○
孤独な天使たち 邦題 孤独な天使たち
原題 Io eTe
制作 2012年 上映 97分
監督 ベルナルド・ベルトルッチ 地域 イタリア
ベルトルッチさん、ずいぶん若返りましたねという感じ。ストーリーというほどのものもなく、あるとすれば地下室生活へ二人のテーンネイジャーを送り込むための設定ぐらいのもの。
この手のものは苦手。多くを感性に委ねる作品は、感性がない人間には通じないのです......(^_^) 「孤独な」は理解し得ても「天使たち」とはどういうことなのかわかりません。「僕と君(Io eTe)」ならまだわかる。
人づきあいの苦手な少年が母親を騙して地下室で1週間の隠れ家生活をします。天国生活を満喫するつもりが薬中の義姉が押しかけてきて、反発したり共感したりしながら、他者と絡み合うことに何かしらの喜びを見いだしていくような話です。だから「僕と君」なんでしょう。こういう設定の話はよくありますが、同じく若い十代同士というのは珍しいかも。
この種の主人公の説明には「自閉症気味」とかよく出てきますが、自閉症という言葉の意味を誤解しています。引きこもりと混同しているのでは?この少年は引きこもりでもないのですが。


☆☆☆○○
ヒステリア 邦題 ヒステリア
原題 Hysteria
制作 2011年 上映 100分
監督 ターニャ・ウェクスラー 地域 イギリス・フランス・ドイツ・ルクセンブルク
電動バイブレーターの誕生秘話ということらしいけれど、フィクション部分が多そうです。映画の中でも裁判のシーンでヒステリーはフィクションだと語っているように。
「ヒステリア」は古代ギリシア語で子宮という意味だそうで、バイブレーターはヒステリー治療に使われたそうです。産業革命という時代が背景なので、大きな社会の変化が起こっていて、何でもありの時代でもありましたからね。へんな病気も人の発明のうちのひとつかもしれません。
でも、そんな話は本筋ではありません。ダリンプル診療所に対照的な二人の娘を配置しています。妹は上品で常識のある娘。姉は診療所の外で慈善活動をするじゃじゃ馬娘。この二人の娘に一人の若い医師グランヴィルを挟み込むことによって起きる騒動を描いて、社会や女性解放を見つめる作品です。
エッチな役も得意なマギー・ギレンホールは今回はそういう役どころではなくて姉シャーロットを演じています。展開にロマンス部分が弱いので、男女のありきたりな結末はいりませんでした。焦点がはっきりしない作品で、女性解放を象徴するような結末がほしかったです。


☆☆☆☆○
容疑者X 天才数学者のアリバイ 邦題 容疑者X 天才数学者のアリバイ
原題 X     英題:Suspect X
制作 2012年 上映 119分
監督 パン・ウンジン 地域 韓国
『容疑者Xの献身』(2008年)が面白かったので、韓国リメイクも鑑賞しました。リメイクはガリレオシリーズの流れで作っていないので、天才物理学者・湯川学に相当するキャラは登場せず、登場人物をシンプルに再構成しています。実にこれが良かった。天才物理学者は邪魔だったんです。
オリジナルのミステリー度を下げて、韓国らしく情緒面を強調した演出になっています。だから、「アリバイ」を強調した邦題は的外れです。邦題の堤真一ではカッコ良すぎてリアリティがなかった分、リュ・スンボムのいかにもモテそうにない男の暗い純愛が引き立っていました。タイトルから「献身」が落ちていますが、この男の献身は利己心と表裏一体のように見えるので、これはやはり「容疑者」ですね。そう、これは恋した女性に対する犯罪です。
東野圭吾の原作が傑作なお陰でオリジナルもリメイクも面白い作品になりました。


☆☆☆☆○
リンカーン 邦題 リンカーン
原題 Lincoln
制作 2012年 上映 150分
監督 スティーヴン・スピルバーグ 地域 アメリカ
エンターテインメントのリンカーン物はいろいろあったけど、正当派は作られていませんでした。ひょっとして『エイブ・リンカーン』 (1940年)以来でしょうか。 正当派がないのが不思議でした。映画化されるとなると今度はいったいリンカーンの何を描くのだろうと思いました。中心は奴隷制の廃止を保証する憲法修正第13条の可決をめぐる議会交渉でした。スティーヴン・スピルバーグ作品としてはかなり地味だと言えます。民主主義とはそういうものだと言われればその通りです。
しかし、知らないことばかりで勉強になりました.......(^^ゞ もちろん並行して南北戦争や家族問題、黒人の悲痛な思いもエピソードとして織り上げています。原作はあるものの、脚本に出てくる台詞には時々感動を覚えました。アカデミー主演賞のダニエル・デイ=ルイスの演技については申し分なしです。
差別問題を扱った作品がたくさん作られ、それがコメディとしても成立するアメリカですが、これまでにどれほどの犠牲を払ってきたかしれません。もちろん今でも平等は実現されていません。
日本では未だに差別をテーマにした芸術、あるいは娯楽作品は現在でもなかなか困難です。その一方でネットには差別的な偏見・中傷があふれています。差別を良しとする人たちは自らを差別していることに気づかず、仲間と罵詈雑言を言い合うことで自分を慰めているかのようです。きっと社会全体の差別の拡大再生産に手を貸しているという自覚もないのでしょう。
少しでも差別との戦いの歴史を学んで、差別する人間の人権まで守られている現在が、差別と戦ってきた人々の犠牲と努力にどれほど負っているか知ってほしいものです。歴史の重みとはそのことです。
プリオシン通信の「かわいそうな犬」で触れましたが、'government of the people, by the people, for the people' の訳は、「人民の人民による人民のための政治」という直訳より、丸谷才一の「人民を、人民によって、人民のために統治すること」という訳の方が好きです。人民同士で差別し合うなど愚の骨頂です。


☆☆★○○
カンパニー・マン 邦題 カンパニー・マン
原題 Cypher
制作 2002 上映 95分
監督 ヴィンチェンゾ・ナタリ 地域 アメリカ
2010年にベン・アフレックの『カンパニー・メン』がありましたが、こちらの邦題は単数形。SFというほどの作品でもないのですが、近未来サスペンスです。産業スパイのWエージェントがモチーフになっています。
考えてみればアイデンティティとWエージェントの結びつけ方というのは面白い設定です。そして同時に、 『トータル・リコール』 (1990年)の面白さの根幹もここにあるわけですよね。『トータル・リコール』は物語が複雑で骨組みが露わになっていませんでしたが、こちらはシンプルな話なのでそういう骨組みがよく見えます。映像もかなりシンプルで、『CUBE』(1997年)の監督らしいと言えるでしょうか。
しかし、そのシンプルさは少々退屈を招きます。そして、Wエージェントになったその動機がつまらない。あんな動機があったなら、それだけのラブ・ストーリーな伏線が早くからあってしかるべきでしょ。主演のジェレミー・ノーサムが主役によくはまっていたのが救い。


☆☆☆★○
エイリアンVS. プレデター 邦題 エイリアンVS. プレデター
原題 AVP: Alien vs. Predator
制作 2004年 上映 100分
監督 ポール・W・S・アンダーソン 地域 アメリカ
評価の低い作品です。見るのは2回目ですが、今回は地上波放送です。長い作品ではないのでほとんどカットはないと思います。タイトルからして人気シリーズにあやかろうという魂胆がみえてその出来は予想できます。しかも、アンダーソン監督ですから期待して見てしまった方が悪い......(^_^)
ところが、僕はコレ好きなんですよね。みんな悪く言うから僕はほめる.......(^^ゞ ツッコミどころ満載で荒唐無稽な脚本なのにここまでビジュアルに見せてくれたのは予想外。ツッコミどころが多いからこそビジュアルなシーンがたくさん作れたとも言えます。
タイトルには「エイリアン」と「プレデター」という二つの地球外生命体しか出ていないので、この二つのシリーズの合体物と思ってしまいますが、そうではありません。基本的にはプレデター・シリーズの1本です。続編の『プレデター2』の構図を敷き、『エイリアン』の女主人公リプリーに相当する女性冒険家のレックスが気が進まないままに、会社のスタッフとともに乗り込んでいくという『エイリアン2』の人物配置を取り入れています。
エイリアン・マザーが登場するのも『2』。『『2』のアンドロイド「ビショップ」役のランス・ヘンリクセンがこの作品でも「ビショップ」というミドル・ネームで登場しています。ここまでなら、確かに『エイリアン2』を取り込んだ『プレデター』なんだなと思います。しかし、ここは南極ですからね。
つまりは『遊星からの物体X(』1982年)が舞台になっているわけです。この作品で物体Xとは何かと言えば、物体Xほど古くはありませんが、古代に凍結されたエイリアン・マザーということになりますね。最後のレックスとの戦いの場面でも給水塔のようなものが出てきますが、『遊星からの物体X』でもあった場面です。『エイリアン』では宇宙船外へ排出されましたが、この作品では海中へ放り込まれます。南極の氷があんなに薄いはずはありませんけれど。
セバスチャンがこのピラミッドは3つの文明から出来ているとネタばらしをしていたように、この作品はヒットした3つの映画シリーズを組み合わせて作られたお祭りB級作品です。悪魔のような地球外生命体という共通項はありますが、まるで異なる3つの作品を大きな破綻もなくここまで織り上げた手腕はなかなかのものだと思います。
だれがこんなアホな企画を思いつきますか。それだけでもエライ。


☆☆☆☆○
天使の分け前 邦題 天使の分け前
原題 The Angel's Share
制作 2012年 上映 101分
監督 ケン・ローチ 地域 イギリス・フランス・ベルギー・イタリア
シリアス作品かと思っていたら、違いました。Angel's share とは聞き覚えのある言葉でしたが、なんのことだったか忘れていました。樽で酒が熟成する間に蒸発して目減りする分のことを、詩的に言う言葉でした。「天使の取り分」という訳の方が好きです。
なんとか更生しようと努力する主人公ロビーが社会奉仕活動で出会った中年ハリーにチャンスをもらいながらも、チンピラ達の執拗な攻撃に負けそうになります。しかし、妻子やハリーの気持ちに応えてなんとか努力していく更生物語かと途中まで思いました。ところが、なんとユーモラスな泥棒計画を思いつき、奉仕活動仲間と一緒にまさに「天使の分け前」をもらって更生のチャンスをつかもうという物語なのでした。
映像も俳優たちもリアルで初めのうちはシリアスドラマですが、徐々にユーモラスな風合いが出てきて、よく出来た脚本です。こんなにタイトルがビシッと決まっている作品は久しぶりです。ロビー役は新人だそうです。はまり役です。


☆☆☆★○
ライジング・ドラゴン 邦題 ライジング・ドラゴン
原題 十二生肖     英題:Chinese Zodiac
制作 2012年 上映 120分
監督 ジャッキー・チェン 地域 香港
「ジャッキー・チェン最後のアクション超大作」らしいですが、確かに大作です。ジャッキー・チェンという人は映画がどうのこうの言う前に観客を楽しませたいというのが全開の人ですね。ローラーブレード・スーツなんてのもそのひとつです。そういう意味では今回も誠実な一作です。カメオ出演も楽しいです。
作品としてのオリジナリティはなく、いろんなハリウッド作品からエッセンスを引っ張り出してきて紡ぎ上げたような冒険アクションになっています。しかし、アクションの人ですから、原題タイトルになっている「十二生肖」のようなトレジャーハンター的な、謎解きの面白みには欠けます。その中途半端さが邦題タイトルにも表現されてしまったみたいです。「十二生肖」とは十二支の動物のことです。
「最後の」と銘打たれているのは、これからはスタントを使うという宣言のようです。1954年生まれですから、かなりくたびれていますね。京劇出身で、『燃えよドラゴン』(1973年)に出演していますが、クレジットはされていない端役でした。彼の時代はもう少し後です。


☆☆☆☆○
海と大陸 邦題 海と大陸
原題 Terraferma
制作 2011年 上映 93分
監督 エマヌエーレ・クリアレーゼ 地域 イタリア・フランス
イタリアの小島が舞台。少年っぽい青年が主人公。漁師のおじいちゃんが脇に控える。もうこれだけで映画の雰囲気十分です。
漁業が振るわず、観光客の誘致でなんとか生活している島。その一方でアフリカ大陸からの難民も流れてくるという島でもあります。
島を出る希望を抱きながらも、青年フィリッポの家も自宅を観光客に貸し出し、一家は納屋で生活をするような生活。そんな状況にもかかわらず、漁に出たら難民と遭遇し、妊娠した母とその息子を納屋に匿うことになります。難民を助けた咎で漁船は差し押さえられ一家はさんざんな目に遭います。
観光客と難民という格差と、観光客の可愛い女の子と難民の子どもという配置など、物語の構成がよく出来ていて、青年フィリッポがいつまでも少年ではいられない状況に放り込まれる塩梅です。
この家族は結局は法を破って自分たちの良心を尊ぶ生き方を選びますが、日本では考えられない社会状況ではなくて、国内問題に十分当てはまるようなことですね。兵庫県小野市で生活保護を受けている人がパチンコやっていたら市民は通報しろというのはそういうことでしょ?東京町田市の小学校新入生への防犯ブザー配布に朝鮮学校児童を除外するのはそういうことでしょ? と思っていたら、町田市は除外を撤回したそうです。この映画を見たのかな......(^_^)


☆☆☆☆○
サイコ 邦題 サイコ
原題 Psycho
制作 1960年 上映 109分
監督 アルフレッド・ヒッチコック 地域 アメリカ
好きなタイプの作品ではないので見るのはこれが2回目です。しかし、サイコ・サスペンスの古典ですから、いろいろ工夫されています。ヒッチコックはネタバレしないように原作を買い占めたというエピソードが『ヒッチコック』(2012年)に出ていました。有名なシャワーシーンは当初は音がついていませんでしたが、妻のアルマがつけるべきだと主張したことも描かれています。
『めまい』(1958年)では前半をマデリンが、後半はジュディがヒロインになりますが、こちらは前半を姉マリオンが、後半は妹ライラがヒロインになります。『めまい』では同一人物ですけれど、ちょっと構図が似ています。車内を正面から撮影するドライブシーンもじっとり見せます。
初めて見たときはヒロインが早く殺されてしまうのでびっくりしましたが、これはヒッチコックの狙い通りです。しかし、その後の展開が物足りなく思います。ヴェラ・マイルズがあまり魅力的には見えないし、マリオンの恋人もどこか他人事みたいなところを感じるし、腕の良さそうな私立探偵は期待はずれだし。アンソニー・パーキンスはなかなか良かったと思います。
ノーマンの母親との対決ももっとサスペンスフルな描き方があったと思いますね。つまり、屋敷の内部に工夫がないのです。最後の精神科医の説明は時代を考えるとしかたないかと思いますが、回想シーンの映像で見せるとかもっと工夫があっていいと思います。内輪の試写会でヒッチコックも含めてみんなが失敗作だと思った片鱗が垣間見えます。
『ヒッチコック』(2012年)の検閲シーンで、トイレ場面の攻防が描かれていましたが、アメリカでは初めてトイレが登場した作品です。トイレ万歳!
僕がこの作品で一番印象に残ったのは小高い丘の上のベイツ邸です。母親はミイラになっていて生きていませんが、あの屋敷はやはり生きています。


☆☆☆☆○
めまい 邦題 めまい
原題 Vertigo
制作 1958年 上映 128分
監督 アルフレッド・ヒッチコック 地域 アメリカ
非常に評価の高い作品ですが、僕の評価は昔ほどではないです。今までに数回は見ています。そもそもジェームズ・スチュワートが主演しているヒッチコック作品はみんな好きですが、この作品には少々不満があります。
この作品ではヒロイン役のヴェラ・マイルズが妊娠のため降板してキム・ノヴァクが起用されました。『ヒッチコック』(2012年)でもエピソードとして描かれていた話なのですが、ヒッチコックはこれがショックでその影響がジュディ役に現れているような気がします。前半のマデリン役はいいけれど、僕はこの後半のジュディ役がどうも気に入らない。
まだ二十代の女性が初老の男を熱愛するだけの理由も理解しにくいし、ジュディの容姿も悪くいじりすぎです。殺人計画に加担した理由は金だと言いながらもそれほど贅沢な暮らしをしていないし、ジョディの人物像がきちんと描けていない。
種明かしも早くにするのではなく、最後まで引っ張ってほしかったですね。やはり主役のスコティとともに謎を解いていく方がジュディの言動を楽しめたはずです。要するに、すべてはジュディに問題があるのです。
幻影シーンのサイケデリックな色遣いはやり過ぎだと思いますが、カメラワークは面白いし、ストーリーもよく出来ていていい作品なんですけどね。追跡とかデートとか、ドライブシーンの多い作品でもあります。流れる音楽ととともに妙に魅力的です。ドライブ万歳!


☆☆☆★○
ヒッチコック 邦題 ヒッチコック
原題 Hitchcock
制作 2012年 上映 99分
監督 サーシャ・ガヴァシ 地域 アメリカ
楽しいです。『サイコ』(1960年)制作を思いつくところからヒットするまでを描く作品です。知らない話ばかりだったので、秘話的な面白みもありました。
アンソニー・ホプキンスが濃いメーキャップと口ぶりで演じていますが、全編をヒッチコック口調では疲れただろうな。映像に登場するヒッチコックのキャラそのままであるけれど、日常ではもっと違ったはず。
共演の俳優がヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン、トニ・コレット、ジェシカ・ビール、ダニー・ヒューストン、カートウッド・スミスなどと多彩。秘書役のトニ・コレットがあまり目立たなかったのが残念。ヒッチコックの幻影としてモデルになった実在の殺人犯エド・ゲインも物語に登場し、おまけ的な楽しみもあります。この役者さん、マイケル・ウィンコットは目つきがいい。
『サイコ』が失敗作だと自他共に認めた後で、妻のアルマが編集で練り直し、ヒッチコックが宣伝を企画してヒットさせていくなんて、映画というのは本当に最後までわからないものです。脚本家で編集技師でもあったアルマは『サイコ』では何もクレジットされていないみたいですけれど。
『サイコ』を制作するのに資金が集まらずに自己資金で制作したことも驚きでしたが、ヒッチコックのその動機が初心にかえって自由に映画を作りたいということだったとは。ヒッチコック万歳!『サイコ』でも見るか。


☆☆☆★○
君と歩く世界 邦題 君と歩く世界
原題 De rouille et d'os   英題:Rust And Bone
制作 2012年 上映 122分
監督 ジャック・オーディアール 地域 フランス・ベルギー
原題は「錆と骨」。殴られて口が切れた時の血の味のこと。映画の紹介を読んでいたら、オルカのせいで両脚を失った女性調教師が、そんな事に同情しない男と出会って新しい人生を掴むみたいな話かと思いました。
そこまでなら最近はよくある話。そんなよくある話なら「君と歩く世界」になります。しかし、この作品は原題通り、血を味わうような生き方を描いた作品です。ステファニーが両脚を失ったことは二人が出会うきっかけになるエピソードに過ぎない、とまで言えば言い過ぎになりますけれど。主役はアリという格闘技が好きな男です。
腕や脚を失った姿をCG合成した作品はたくさんあります。最近では『ソウル・サーファー』(2011年)がありました。鮫に食われた片腕のサーファーでした。この作品は膝下からの両脚がないのですが、いろんな姿で見せます。CGたっぷりの『トランスフォーマー』(2007年)なんかより、こういう作品の合成の方が感心してしまいます。
『ソウル・サーファー』は少女が主役なので彼女が描かれましたが、この作品ではアリを描くためにステファニーの視点を必要としていたと言えます。アリもステファニーも「愛すること」に躓いているという共通点を持っていましたが、最後は普通のハッピーエンドのように終わったのがなにかしら物足りない。アリを描くにはステファニーに比重が掛かりすぎ、ステファニーを描くにはアリに比重が掛かりすぎ、二人を描くには統一感が足りなかったという感じです。
ステファニーが脚を失ってから、巨大水槽のガラス越しにオルカとコミュニケーションを取ろうとするシーンは美しかったです。



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