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2013年03月


☆☆☆★○
グッバイ・ファーストラブ 邦題 グッバイ・ファーストラブ
原題 Un Amour de Jeunesse
制作 2010年 上映 110分
監督 ミア・ハンセン=ラヴ 地域 フランス
フランス映画です。恋愛をテーマにしているので、よけいにフランス映画だなあという作品です。ドラマチックな展開はなく、淡々と少女から大人になっていくカミーユの成長を追いますが、初恋は消え去るのではなく、心の中で温められていきます。
カミーユ役のローラ・クレトンを見ていたら、若き日のイザベル・アジャーニを思い出しました。そういう魅力を持った女優なので、特にストーリーらしきものがなくても見続けられました。ちょうど、カミーユから青春時代のアルバムを見せてもらったような感じです。
初恋は成就しないと言いますが、ほんとうは成就しなかったからこそ初恋となったわけですね。この作品を見ていると、自分が若かった頃のいろんな恋を思い出して、カミーユといっしょにせつなくなります。しかし、彼からもらった帽子が風に吹かれて川を流れていくラストシーンは爽やかさを残します。 追いかけないで、カミーユ......(^_^)


☆☆☆○○
チャイルドコール 呼声 邦題 チャイルドコール 呼声
原題 Babycall
制作 2011年 上映 96分
監督 ポール・シュレットアウネ 地域 ノルウェー・ドイツ・スウェーデン
ドメスティック・バイオレンスをモチーフにしたサイコ・スリラーです。そこにベビーモニターという小道具を取り入れて新味を出しています。サイコ・スリラーの流行の手法が使われていて、同じ年に制作されたダニエル・クレイグとレイチェル・ワイズの『ドリームハウス』も同じ系統です。これは昨年11月にコメントしています。
だいたいこの手のスリラーは話の整合性にあまり頓着しないので、スリラーとしての面白さよりも、何か別の面白みを出す必要があると思います。それをやろうとしている感触はあるのですが話にまとまりがない感じがあって、主人公アナの困惑や少年たちの悲しみ、そしてアナを見守ろうとする電気店店員のヘルゲの思いが中途半端にしか描かれていません。最後のアナの行動もすっきりしないです。スリラーへのこだわりを捨てて、あと十分ぶん丁寧に描いてほしかったですね。


☆☆☆○○
アンナ・カレーニナ 邦題 アンナ・カレーニナ
原題 Anna Karenina
制作 2012年 上映 130分
監督 ジョー・ライト 地域 イギリス
言うまでもなくトルストイの傑作の映画化です。過去の映画化作については「カムパネルラの切符」の「レフ・トルストイ」のページで解説しています。
幾度も映像化されていますから、同じような手法では面白くないということもあったのか、舞台演出の手法を採っています。女優がキーラ・ナイトレではイメージが合わないと僕は見る前に思いましたが、こういう風変わりな手法ならアリだなと納得。
しかし、この演出手法に気が取られて、なかなか物語に入っていけませんでした。特に前半部分。後半はちょっと控えめになります。何の話をしているんだか......(^_^) いったいどういう意図があって?と考えているうちに話が進んでいる.......(^^ゞ
ラスト近くになってやっとこれはやはり「アンナ・カレーニナ」の話だったんだなと思い出させてくれるような塩梅。要するに「「アンナ・カレーニナ」を見る映画ではなくて、演出を見る作品でしょうか。


☆☆☆★○
パラノーマン ブライス・ホローの謎 邦題 パラノーマン ブライス・ホローの謎
原題 Paranorman
制作 2012年 上映 92分
監督 クリス・バトラー 地域 アメリカ
アニメは久しぶりです。『コララインとボタンの魔女』(2009年)のスタッフが手がけている作品です。監督は違いますけれど、今作も魔女にかかわる話で、魔女狩りがモチーフです。アニメ映画は今や表現の実験場になっていると言っていいほど、いろんな技術が投入されていますね。
『コラライン』にも感心させられましたけれど、今作もなかなか面白い造形です。手法の基本となっているのはストップモーションらしいですが、光と影が効果的な場面の存在感は素晴らしいものがあります。顔の表情もマスクを取り替えて撮影しているのだそうです。エンディングクレジットの後で、主人公ノーマンの人形制作過程を早送りで見せてくれています。席を早く立って、見逃してしまわないように。
ノーマンは『シックス・センス』(1999年)の少年コール・シアーと同じような悩みを抱えた少年です。魔女の呪いから街を救うために魔女の秘密を解き明かし、ほんとうに救い出すべき相手はだれなのかに気づくことになります。世の中には理不尽な死を強いられた人はごまんといます。神を崇めるのも人間なら、人を貶めるのも同じ人間です。時々、その心の根っこは裏返しになっているだけであって同じもののように僕には見えます。
アニメ作品ということで少々幼稚な展開ではありますが、この作品にもやはり『シックス・センス』と通じるようなカタルシスがあります。子どもはこういう作品をどのように楽しむのでしょうか。


☆☆☆★○
ザ・マスター 邦題 ザ・マスター
原題 The Master
制作 2012年 上映 138分
監督 ポール・トーマス・アンダーソン 地域 アメリカ
前宣伝では新興宗教がモチーフになったものだと思っていたけれど、メソッドの印象が強いです。前世療法という印象でしょうか。アメリカのサイエントロジーという実在の教団をモチーフにしているとのことですが、そんなことはほとんど関係ありません。
第二次大戦後、元水兵でアル中で、セックス依存症でもあるらしい男がどうやって生きていったらいいのかわからない中で一人の男に出会います。そして、彼のメソッドよりもマスターが自分を好いてくれたことを拠り所にして、マスターへの疑念や反発と戦いながらも自分の足場を見いだしていく物語だと思いました。そこにはマスターの方にも共通する依存関係があったのですが、教団が巨大になっていくとともに二人の生き方に違いをもたらしていきます。
時代を考慮したのか、映像の色調はコントラストが高く、鮮明です。航跡で泡立つ外に広がる海の色が真っ青で、それが主人公フレディの心の色調のように見えました。ホアキン・フェニックスの演技は凄まじいというほどの入れ込みです。一部で傑作という高い評価も耳にしますが、気持ちはわかります。でも、僕は好きかどうかです。


☆☆★○○
キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け 邦題 キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け
原題 Arbitrage
制作 2012年 上映 107分
監督 ニコラス・ジャレッキー 地域 アメリカ
大物投資家と聞くだけで、それはもう悪役と相場が決まっている映画界です。もちろんこの作品も例外ではなく、ここに愛人の事故死を絡めて少々事情をややこしくして新味を出していると言えるでしょうか。
主演はリチャード・ギア、妻にスーザン・サランドン、刑事にティム・ロスと人気俳優を並べていますが、主役のロバート・ミラーがつまらない男なので、作品に魅力を感じません。落ち目になった投資家の「泣きっ面に蜂」状況を見て楽しむほどの恨みもないし、裁判での行方もご都合主義的だし、ラストの括り方も楽しくありませんでした。
退屈だったのでリチャード・ギアの熱演も空々しく見えてしまいました。


☆☆○○○
ダーク・タイド 邦題 ダーク・タイド
原題 Dark Tide
制作 2011年 上映 113分
監督 ジョン・ストックウェル 地域 アメリカ・南アフリカ
舞台は南アフリカ。ホホジロザメと一緒に泳ぐシャークダイビングをモチーフにした作品です。アカデミー賞女優が動物パニックものに出るなんて、大丈夫かハル・ベリー?という興味だけで見ました......(^_^) ところがどっこい、動物パニックというよりもタイトル通りのクライマックスシーンがあって、いったい何を描きたかったのかよくわからない中途半端は作品でした。
「最愛のものは慎重に扱え。でないと、いつか痛い目に遭う」という父の警句に逆らうような行動を主人公ケイトに取らせるために、いろんなもめ事を起こして海に放り出す。人々が癇癪を起こしているのを見ても面白くないし、どうでもいい話がはまり込むし、なぜこんなクライマックスシーンになったのかよくわからないし、おまけにこのクライマックスシーンはダークで影絵を見ているようなものだし、まあ、退屈。どうしようもありません。
こんなことなら動物パニックものの方がましだったのではないでしょうか。ハル・ベリーは名前だけの人寄せパンダで、まるで魅力なし。こんなんじゃ鮫も食いつきません。


☆☆☆○○
チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ 邦題 チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ
原題 Chandni Chowk To China
制作 2009年 上映 155分
監督 ニキル・アドヴァーニー 地域 インド・アメリカ
下の作品コメントに記したとおり、ディーピカー・パードゥコーンの別の作品を見ました。舞台はインドと中国。しかし、制作に中国は入っていません。ディーピカー・パードゥコーンは双子役で中国とインドで別れて育った娘を演じていますが、中国娘役はクンフーを演じているのでびっくり。モデルの前はバドミントンをやっていたそうですから、やはり身体能力も高そうです。しかも中国娘役も違和感がほとんどないというか、かえって魅力的です。この人は目の演技がうまいのでしょう。チャイナ服で踊るシーンはエキゾチックだし、チャイナ服で激しく踊るために太股が露わになり、エロイです。
実はもっと驚いたのは『七人の侍』を下敷きにしていること。ギャングに苦しむ中国のある村。村人二人が伝説の英雄の生まれ変わりを探しにインドへ向かう。しかし、七人の英雄が登場するわけではありません。インドの料理人、しかも野菜切りという下ごしらえ料理人らしい......(^_^) ギャングの悪玉は「北条」と呼ばれているのでやはり日本人という設定でしょうか。
コメディとはいうものの、かなりマンガ風演出になっています。特に最初の方がかなりバカバカしい演出なので、リタイアしてしまいそうな誘惑もありました。ボリウッドのコメディに、若き頃のジャッキー・チェンのクンフー映画を取り入れたという塩梅の作品ではありますが、予想よりは楽しめました。ちなみに野菜切り拳法ですな。最後もやっぱりバカバカしい。
ボリウッド特有の歌とダンスは後半はなくなります。時に目障りに感じるダンスも長時間出てこないと一抹の寂しさを感じるのはなぜでしょうか。味わいはインド映画というよりは香港映画です。


☆☆☆★○
恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム 邦題 恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム
原題 Om Shanti Om
制作 2007年 上映 169分
監督 ファラー・カーン 地域 インド
ボリウッドは遠い。今頃公開です。今月は長編が多いですが、これはほぼ3時間。見ようかどうか迷っている『汚れなき祈り』(2012年)も2時間半。こんなに長編ばかりだと気軽に映画を見れません。ボリウッド作品なので、歌と踊りでかなり時間を費やしてはいるものの、それでも無駄なシーンが多いです。
ソープオペラ的展開のエピソードをいくつも組み合わせて、コメディ風にうまくアレンジしています。新味はまるでありませんが、豪華なセットを背景に軽快な音楽とともに楽しく過ごせる3時間です。しかし、やはり途中で早送りしたくなる気分ではあります。監督は女性で、元々は振り付け師だったそうです。振り付け師が監督になれるというのはいかにもインド特有ですね。最後で顔見せもしています。後に女優にもなったので出たがりなんだな。
ボリウッド作品を見ていると、インドでは映画は民衆に今でも夢の世界を与えているのだとわかります。社会にそれだけの厳しい現実があるからでしょう。日本でこんな作品を作ったら、バカらしくて見ていられません。ボリウッド作品だという前提で見るから楽しく見られます。その一方で、ハリウッドの影響を受けてボリウッド風味が減じて洗練されてきている感じも受けます。悪い意味でのグローバル化がこういうところにも現れているようで、この作品はちょっと屈折した手触りです。
この作品は少々韓国ラブコメ的な雰囲気もありますね。ヒロインのディーピカー・パードゥコーンが単に美人というだけでなく、デビュー作にもかかわらず、達者で魅力的な演技を見せています。ハリウッドとの合作で、彼女の出演作『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』(2009年)を見たくなりました。これも生まれ変わりの話なのですが、駄作らしいです。


☆☆★○○
ダイナソー・プロジェクト 邦題 ダイナソー・プロジェクト
原題 The Dinosaur Project
制作 2012年 上映 83分
監督 シド・ベネット 地域 イギリス
タイトルからわかるように『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)の亜流作品で、ロストワールド編とも言えるもの。モキュメンタリーという手法の作品は見る気が起こらないので、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』も見ていませんけれど。これは恐竜のCGがどうなっているか関心があったので見ました。
『ブレア』は81分作品で、これは83分です。短時間になるのは中身がないからだと思います。予想通り、中身がありません。
恐竜CGはよく出来ていて中々の臨場感が出ています。監督の得意分野のようです。しかし、動物行動学的なことも含めて科学的かと言えば、それはないようです。サスペンスだから『ジュラシック・パーク』(1993年)ほどに恐竜を見せてはくれないし、不満が残ります。


☆☆☆★○
クラウド アトラス 邦題 クラウド アトラス
原題 Cloud Atlas
制作 2012年 上映 172分
監督 ラナ・ウォシャウスキー
アンディ・ウォシャウスキー
トム・ティクヴァ
地域 アメリカ
小説を原作にした長編作品です。なにしろエピソードを6つも詰め込んだ上に、過去から未来までの時代も場所も異なるエピソードに関連を持たせて構成した作品なので大作にもなっています。
単に順番に6つのエピソードを並べていくのではなく6つが同時進行的に進み、あるエピソードから別のエピソードに飛ぶ時にもなんらの境界もありませんから、自分の頭の中で観客は再構成する必要に迫られます。おまけに、ひとつのエピソードの中でも過去から未来へ進むとは限らない編集になっているので、この作品の編集は大変な作業だったろうと思います。それは同時に観客にも再編集を強いることになるので、これは一種の前衛映画であって、のほほんと楽しむ作品とは言えないですね。
さらに、主な俳優はひとつのエピソードだけでなく、他のエピソードにも登場して何役もやっているので、俳優のコスプレや演技を楽しむことはできるものの、ややこしいことは否めません。こういう編集や配役はすべては繋がっているというテーマを補完するためのものなのでしょう。
しかしながら、それほどに6つのエピソードがきっちりと絡んでいるかと言えばそんなことはなくかなり緩い結合で、時間を経て化学反応してくるのを待っているかのような塩梅です。残念ながら、僕の場合は化学反応が生じてくる前に忘れてしまうと思います......(^_^)
ところで、ウォシャウスキー兄弟は今はウォシャウスキー姉弟になっています。兄のラリーが姉のラナになっています。交代ではなくて性転換です。映画制作に好影響が出てくることを期待します。この作品でも性別と関係なく俳優が演じているので、すでにその影響が出ているのかもしれません。最後にキャラの紹介シーンが付属していて、気がつかなかった扮装も教えてくれます。
事前に誰が何の役をしているか情報を仕入れてから見た方が面白かもしれません。長い時間の作品ですが、話の展開が速く、途中で立ち止まって考えている暇はありません。のんびり屋さんや天然さんには向かないです。


☆☆☆★○
オズ はじまりの戦い




邦題 オズ はじまりの戦い
原題 Oz the Great and Powerful
制作 2012年 上映 130分
監督 サム・ライミ 地域 アメリカ
『オズの魔法使い』(1939年)の前日譚となるストーリーを、やはりオリジナルの手法に倣って描いた作品です。ですから、冒頭から約20分はモノクロでスタンダード画面、その後は過剰なカラーと2.35:1のシネスコ画面となります。オリジナルを調べてみたら、なんとやはりモノクロ場面は約20分でした。もっとも画面サイズはスタンダードのままで変化はありません。1939年の作品ですからね。戦争の影響で日本公開はずっと後になりました。
今作品は話自体はそれほど面白く思いませんでしたが、「オズ」らしい結末にしてあったのが良かったですね。魔女役の、ミラ・クニス、レイチェル・ワイズ、ミシェル・ウィリアムズの3人ともに好きな女優だし、ジェームズ・フランコも役柄に似合っていて楽しめました。
レイチェル・ワイズはインタビューでリアルな役の方が好きだと語っていましたが、率直にそう言ってしまうところも含めていかにも彼女らしい。僕もリアルな役柄の彼女の方が好きですね。『スターリングラード』(2000年)とか、社会派作品とかの方が生き生きしている。『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』 (1999年)が彼女の出世作であったにもかかわらず、『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(2008年)には出演しなかったのもそういう訳だったのかもしれません。ミシェル・ウィリアムズは魔女と言うよりは可愛らしい王女という雰囲気ですね。
オリジナルは記憶に残るキャラが多く登場しましたが、今回はそういうキャラはひとりだけです。その一人とは陶器の少女です。陶器のキャラを見るのは初めてかも。動きの元はマリオネットだそうで、これがCGアニメと見事に融合してなんとも言えない風情です。声はジョーイ・キングという子役。これがまたうまいんだな。オズを泣き落とす場面は笑えます。
この作品も2時間超えですが、オリジナルはなんと102分です。2時間半近くある作品だと思っていました。それぐらいの豪華さがあったんですよね。年を取ると時間の経過が速くなりますが、そればかりではなく、昔はやはり時間の経過が遅かったのでしょう。プリオシン通信の「極楽浄土と時間」でこの問題は扱いましたが、今の子どもよりも昔の子どもの方が時間がゆっくり進んでいたと思うのは僕だけではないでしょう。
オリジナルがまだ未見の方はぜひ。竜巻の嵐のシーンはオリジナルの方が迫力があります。ちなみに、オリジナルはミュージカルですが、今作はミュージカルではありません。


☆☆★○○
ベラミ 愛を弄ぶ男 邦題 ベラミ 愛を弄ぶ男
原題 Bel Ami
制作 2012年 上映 102分
監督 デクラン・ドネラン 地域 イギリス
モーパッサンの古典作品で、何度か映画化もされていますが、こういうロクデナシは映画向きだと言えます。
原作を読んでいないのでなんとも言えないですが、映画はつまらない話です。生まれに恵まれなかったから女を誘惑してのし上がる。そのどこが悪い?上流階級の人間に俺の気持ちがわかってたまるか、みたいな開き直りは何の説得力ないです。主演のロバート・パティンソンのにやけた表情ばかりが印象に残ります。
女優陣はユマ・サーマン、クリスティン・スコット・トーマス、クリスティナ・リッチと有名どころを揃えていますが、その恋愛模様も型通りで面白くない。クリスティナ・リッチがパリの社交界の華なんていうのはどうのも似合わない。彼女の役のクロティルドだけは他の女とは少し異なる印象がありましたが、結局そこからの展開もなし。
主役のジョルジュ・デュロワという男の魅力が笑顔だけではどうにもなりません。そしてやはりどうにもダサイ「愛を弄ぶ男」という邦題は中身に似合う。


☆☆☆★○
魔女と呼ばれた少女 邦題 魔女と呼ばれた少女
原題 Rebelle     英題:War Witch
制作 2012年 上映 90分
監督 キム・グエン 地域 カナダ
シリアスな作品が続いています。こちらはコンゴを舞台に少年兵たちの過酷な運命と希望を描いたものです。この主役は少女兵コモナで、12歳で掠われてから14歳で少年兵マジシャンの子どもを出産するまでを追います。
映像自体はリアリティがあるように見えて、その実は物語も含めてファンタジー的な側面もあります。両親殺しをさせられるような過酷な場面がある一方で、結婚条件としてマジシャンに求めた白いニワトリを二人で探しにいく可笑しい場面もあります。
コモナは幽霊が見える「魔女」なので、これが幸運を招いたり、不幸を招いたりもします。コモナを探しに来たゲリラにマジシャンも殺されます。殺した両親の幽霊も故郷に帰ってきて埋めてくれとコモナを悩ませます。この幽霊が砂人形みたいな造形なのですが、いかにもアフリカの幽霊のようで面白かったです。
そんな悲惨な日常の中でも、時には人の親切や優しさに触れる時があり、またそのお陰で生かされたこともあり、コモナは新しい命とともになおも生きていきます。愛した両親の葬送と愛した夫の子どもの誕生という二つのエピソードを重ねて生命の循環が表現されてもいるようです。つまり、少年兵という陰惨な社会問題だけをテーマにした作品にしてはいません。
主役のラシェル・ムワンザにベルリン国際映画祭女優賞が与えられていますが、この少女はストリート生活をしていたそうで、キム・グエン監督が抜擢したそうです。演技の世界というのはプロとアマの垣根が時々なくなるのが面白いですね。もちろん、これは映画マジックの力があればこそ。マジシャン役のセルジュ・カニアンダのあどけない笑顔やコモナに向ける眼差しも良かったです。


☆☆☆★○
メッセンジャー 邦題 メッセンジャー
原題 The Messenger
制作 2009年 上映 112分
監督 オーレン・ムーヴァーマン 地域 アメリカ
日本では洋画不振で何を持ってきてもダメなので、過去に地味ということで見送った作品も公開対象になってきたのでしょうか。3年遅れです。この作品はすぐ下のハネケ作品ほどではありませんが、長回しのカットがいくつもあります。そのリアルなシーンに引き込まれてしまいます。
アメリカでは戦争で傷ついた軍人の生活を描いた作品はたくさんあります。この作品はそこにプラスαということで、なんと兵士の訃報を遺族に伝えるメッセンジャーを務めるというダブルパンチのような設定です。ところが、遺族の一人の女性との交流を通じて生きることを取り戻していく希望を見いだすことになります。
登場する俳優さんたちがみんな揃って泣きの演技がうまいので、もらい泣きします。日本は敗戦後には憲法のお陰もあってこんな涙を流すことはなくなりましたが、敗戦するまでは毎日いたるところで繰り返された光景でした。母の実家も2回経験しています。
これは大義なき戦争と言われたイラク戦争が背景になっています。日本はイラク戦争を遂行するアメリカを支持し、自衛隊も派遣しました。戦闘で亡くなった自衛隊員はいませんでしたが、派遣中に亡くなった自衛隊員は35人です。内訳は2010年8月のプリオシン通信に書いてあります。すでに日本とは無縁の光景ではありません。
今年に入ってからも政府によって武器輸出三原則の緩和がなされ、これから国会では憲法9条改正へとつながる憲法96条改正が俎上に上りそうです。


☆☆☆★○
愛、アムール 邦題 愛、アムール
原題 Amour
制作 2012年 上映 127分
監督 ミヒャエル・ハネケ 地域 フランス・ドイツ・オーストリア
苦手なハネケなのに、もう次は見ないとか言っていたのに、また今回も見てしまった。しかし、今まで見たハネケ作品の中では好印象と言えます。老老介護をモチーフにした作品です。
カメラが走りまくり、細かく次々とカットが投げ出されるのが嫌いな僕としては、ハネケのようにカメラがどっしりと構えて1ミリも動かず、普通なら数秒のカットで終わるシーンでも延々と数十秒も続くという映像は好きになってもいいようなものですが、やっぱり嫌いですね。じれったいんだもの.......(^^ゞ 俳優も大変だろうな。
そんなわけでハネケは長編になりますが、他の監督が撮ったら1時間半で収まるのではないでしょうか。仲の良い老夫婦の日常と、それ故もあって妻アンヌの変貌ぶりに恐れおののきながらも献身的に世話をする夫ジョルジュの生活が描かれていきます。
しかし、ここに描かれている介護生活の辛さや病人の変貌ぶりは、ある年代になれば多くの人が経験することになることで身近なことです。家族内のことを含めて特別なことが描かれているわけではありません。身近でないのはラストだけのことで、とは言っても時々ニュースで見るようなことではあります。そういう意味ではドキュメンタリーを見ている趣で、まだ若くて老いの現実を知らない人たちは心をつかまれるかもしれません。
パルム・ドール受賞など、数々の賞を受けている作品ですが、僕はこの作品よりもこの作品に高い評価を与える人々の方にこそ興味があります。ジョルジュの為したことを愛と受け止めるのかどうか、それがタイトルに答えが出ているのかどうか、あるいはラストのラストですでに答えが描かれているのか、などと考えながらも、高い評価を与えた人々の答えはやはり「愛」だということなのでしょうから。ジョルジュの行為が愛だとするなら、ジョルジュの愛は犯罪であり、祈りでもあったと言えるでしょうか。
僕がまだ戸惑いながらも好印象を持てたのは最終カットのお陰です。しかし、僕の印象は「感動」ではなく、ファンタジー的な「面白い」です。
作品の冒頭でラストの現実が描かれます。そして一気に過去に遡って物語は展開していきます。夫婦の深い愛情も老いに抗うことはできません。現実の老いの前では愛も無に帰っていきます。部屋に舞い込む鳩を愛おしむジョルジュは、妻の愛も自分の愛も相手にもう届かないことを悟ったかのようです。その鳩は象徴であって、ラストの幻影と重なっているように思えます。そんなところに僕はファンタジーを見たのでした。ほんとうにそんな世界があったらいいなと思いました。
ジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァの演技は言うまでもなく素晴らしい。特に85歳のエマニュエル・リヴァはヌードにもなって辛い役柄に挑戦しています。演ずるという行為はどういうことなのか、映画とは何なのか、時々わからなくなります。


☆☆☆★○
ザ・ワーズ 盗まれた人生 邦題 ザ・ワーズ 盗まれた人生
原題 The Words
制作 2012年 上映 96分
監督 ブライアン・クラグマン 地域 アメリカ
パリで買った古鞄の中から傑作原稿を見つけてしまった作家志望の男ロリ-の希望と絶望と、そしてその傑作を書いた男の悲しい人生という二つの物語を、初老の作家クレイが自作朗読会で語り、そこに魅力的な若い女性が絡むという、少々ややこしい構造を持った作品です。
普通の作品なら、盗作ということで作家になった男は言い逃れ、本当の著者は男を追及するということになるところですが、二人共にそんな気はありません。また、普通なら朗読する作家は引き回し役で終わるところですが、この作品は時々若い女が絡んで、しだいに物語の中の人々と交錯し始めることになります。
ジェレミー・アイアンズじいさんがいい。ゾーイ・サルダナもいい。ブラッドリー・クーパーはあまり作家志望に似合わないけれど、まあいい。デニス・クエイドがなんでしょうかねえ、ミスキャスト? 何かこのキャストには意図があるようにも思えるけれど。
小説とは何かということをモチーフにした作品と言っていいでしょうか。誰か書いたかなどということはどうでもよく、それが誰の物語なのかということにこだわっています。読者にとっても、物語は誰か書いたかなんてどうでもいいことで、それが誰の物語になるのかが面白いところ。実際、書かれてから百年も経てば、ほとんど作品は作者のことなど名前しか知りません。
なかなか面白く見ましたが、もうひとつ詰め切れていないというか、主役ロリーの苦悩と決意があいまいでわかりにくい。若い女性ダニエラをオリヴィア・ワイルドが演じていますが、このキャラも中途半端。朗読会が終わってから、クレイの自宅での交わされる会話がもっと魅力的だったら良かったのに。


☆☆★○○
キャビン 邦題 キャビン
原題 The Cabin in the Woods
制作 2011年 上映 95分
監督 ドリュー・ゴダード 地域 アメリカ
「あなたの想像力なんて、たかが知れている」というキャッチコピーなんですけどね、確かにこんなバカなことは想像しません。ジャンルはコメディーかと思いましたけれど、SFホラーになっていました......(^_^)
若者がキャンプに行って惨殺される。未来社会の殺人ゲーム鑑賞。ゾンビの襲撃。鄙びた村の悪魔の儀式。地底に囚われた大魔王の復活。そんな過去作品のいろんなネタをシャッフルして組み立てたような作品。アイデアの一発勝負で作っただけ。日本向けのサービスでしょうか、日本のホラーも登場します。
しかし振り返って見れば、日本にはいろんな妖怪たちがいるわけで、これは『妖怪百物語』(1968年)から始まるシリーズがヒントになっているのかもしれません。2005年には『妖怪大戦争』がリメイクされているし。
ダメなのは世界を守るためのシステムの安全装置がまるでないも同然の安易さ。そして、システム自体にも職員にもリアリティがないために、ラストのディレクターの言葉に説得力がありません。なのに裏付けもなく何でも信じてしまう主人公がバカに見えます。監督は「クローバーフィールド」(2008年)の脚本の人ですね。この作品はパスしました。
今回も見るつもりはなかったけれど、予告編を見たらSF的味付けがあって面白そうに思えて見ました。しかし、たかが知れている想像力の作品でした。一番驚いたのは魔物たちが暴れ回っている途中で突然シガーニー・ウィーヴァーが出てきたこと。こんなことで驚かしてどうする?隠しキャストだったのか。
ところで、僕はシネマ短評をあまりネタバレを考慮せずに書いていますけれど、それなりの配慮はしているつもりです。予告編が映画を選ぶ参考になるように、ある程度のあらすじを知ることは映画を面白くします。情報があふれる現代において『猿の惑星』(1963年)のオチを知らないで見ることは難しいです。それでもオチとなる名場面が見たくて『猿の惑星』を見る人もいることでしょう。その一方で、『シックス・センス』(1999年)はオチを知ってしまうと、面白さが半減してしまう作品です。つまり、配慮とはそのあたりのさじ加減のことです。
そうは言っても、あらすじは面倒くさいからほとんど書いていませんけどね.......(^^ゞ 他のサイトやブログで書かれているし。
まとめ。この作品はカウチで楽しみましょう。


☆☆☆○○
野蛮なやつら&nbspSAVAGES 邦題 野蛮なやつら SAVAGES
原題 Savages
制作 2012年 上映 141分
監督 オリヴァー・ストーン 地域 アメリカ
長編の作品が続いています。退屈はしなかったけれど、長すぎます。不要な残虐シーンなど、カットできるところはたくさんあると思いますね。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)系のクライム作品です。
女一人に男二人という恋人たちと麻薬カルテルとの戦いを描いた作品ですが、作中で引用される『明日に向かって撃て』のような傑作にはなりませんでした。新しい部分と古い部分の両方を持った作品で、青春映画として見れば面白いかも。
しかし、クライマックスシーンとなるラストの構成はずっこけるぐらい好きではありません。スタイリッシュな青春犯罪物の方が楽しかったかも。それじゃあ、オリヴァー・ストーンではありませんけれど。


☆☆☆★○
フライト 邦題 フライト
原題 Flight
制作 2012年 上映 138分
監督 ロバート・ゼメキス 地域 アメリカ
ノミネートはありましたけれど、アカデミー賞とは無縁でした。妥当な線です。冒頭で飛行機事故が迫力いっぱいに描かれますが、アルコール依存症の話です。
ロバート・ゼメキス監督が飛行機事故をモチーフに描くなら面白くなったかもしれませんが、アルコール依存症がメインではどうもね。とにかく時間が長すぎます。依存症から自力で抜け出すのは至難のことですが、実際そのとおりで、公聴会までの明暗とともに延々とダメ男の行状を鑑賞することになります。
結局あっさりと自分の罪を認め、刑務所で依存症から立ち直り、息子との関係も修復されるというラストの甘さは感心しません。それでも水準は越えているでしょう。それでも冒頭のヌードはいらないのでは?ナディーン・ヴェラスケスには申し訳ないですけれど、画面をちょろちょろと横切って目障りです。


☆☆☆☆○
ジャンゴ 繋がれざる者 邦題 ジャンゴ 繋がれざる者
原題 Django Unchained
制作 2012年 上映 165分
監督 クエンティン・タランティーノ 地域 アメリカ
クエンティン・タランティーノは残虐なバイオレンス描写が苦手なのでそんなに好きじゃないです。しかし、脚本でアカデミー賞をもらったように、面白い西部劇です。
『続・荒野の用心棒』(1966年)の原題が「Django」。主演はフランコ・ネロ。そのためか、懐かしいフランコ・ネロが差別者の白人としてカメオ出演しています。ジャンゴ役のジェイミー・フォックスが「Django」のDは発音しないとフランコ・ネロに説明し、フランコはそんなことはわかっている!といらつくシーンがあって笑わせます。
その後もこのジャンゴ・シリーズは続きました。一方、『荒野の用心棒』(1964年)はその正編みたいなタイトルですが、まるで関係がないという変なことになっています。こちらの主演がクリント・イーストウッド。黒澤明監督の『用心棒』(1961年)が原作です。
『荒野の用心棒』の続編は『夕陽のガンマン』(1965年)、そして『続・夕陽のガンマン・地獄の決斗』(1966)へと続きます。ところで、クリント・イーストウッドの出世作は『荒野の用心棒』でしたが、監督としての出世作は『許されざる者 Unforgiven』(1992年)。同じく賞金稼ぎがモチーフになっているので、タイトルにもエピソードにも影響が見られます。
先月の短評の最後は『女盗賊プーラン』を取り上げました。また、先月のプリオシン通信「殺しのライセンス」でインドの暗黒についても書きましたが、アメリカもかつては先住民族への抑圧と並行して奴隷制があった暗黒大陸でした。この作品は南北戦争勃発前の設定になっています。痛快な西部劇であるとともに、差別への眼差しと、悲痛な復讐が渾然一体となっている、アメリカらしい作品となっています。
やはり先月のプリオシン通信で触れたアレクサンドル・デュマへの言及もドイツ人のキング・シュルツからなされています。デュマには黒人の血統が入っていて、それを知らない農園領主カルビン・キャンディを皮肉る時に出てきます。キング・シュルツ役のクリストフ・ヴァルツは助演男優賞を取りました。『三銃士・王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』 (2011年)では悪役でしたが、この作品では好人物を演じています。
この作品での工夫は黒人執事スティーブンですね。サミュエル・L・ジャクソンがキャスティングされているだけあって、奴隷制を単純な色の違いだけでは描いていません。スティーブンという人格が深そうに見えて、そうではなかったのは残念でしたけれど。
3時間近い上映時間ですが、退屈しません。音楽もいいです。しかし、キング・シュルツとカルビン・キャンディの呆気ない最期は不満です。タランティーノらしいと言えばそれまですが、ラストのダイナマイトという派手な結末と、コメディ的ハッピーエンドの演出には感心しませんでした。
もちろん、西部劇というエンターテインメントがメインですから、復讐への喝采ばかりで内省的な考察もありません。復讐される白人たちも単に差別者というだけでなく、悪党というレッテルを貼ることで殺しの許可証が与えられているので、良心があまり痛まないよう巧妙に構成されています。



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