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2013年02月


☆☆☆★○
邦題 女盗賊プーラン
原題 Bandit Queen
制作 1994年 上映 115分
監督 シェカール・カプール 地域 イギリス・インド
今月のプリオシン通信「殺しのライセンス」でプーラン・デヴィに触れたので、これを機会に見ました。インドの低位カーストに生まれ、女性として生きたプーランが虐待とレイプが犯罪にならない社会で耐え、誘拐されたことを契機についには盗賊の頭となり、義賊の一面を見せながらも復讐に駆り立てられていく姿を描いています。
11歳で嫁がされるところから1万人の前で投降するところまでです。映画には「実話」と出ていますが、プーラン・デヴィは事実に基づいていないと監督を訴えていたそうです。しかし、プーラン・デヴィが言う真実もやはり彼女の真実です。
唯一彼女を尊重してくれた盗賊のリーダーで、後に恋人となる男も別のリーダーに殺されます。彼のアドバイスで、一人を殺しても殺人者として処刑されるだけだが、二十人殺せば有名になるという台詞が出てきます。これは創作ではなく事実だと思いますが、チャップリンの『殺人狂時代』(1947年)で出てくる「一人殺せば犯罪者になるだけだが、百万殺せば英雄になる」と重なるところで、これがプーランの復讐に影響を与えているところが悲しいところです。
凄惨な事実が含まれているので、作品としてどうのこうのいう気持ちが失せます。単なる事実の羅列に終わることなく、人生を俯瞰するような視点が印象を残す一方で、プーランや家族の内面を描く力が弱かったように思います。


☆☆☆○○
マーサ、あるいはマーシー・メイ 邦題 マーサ、あるいはマーシー・メイ
原題 Martha Marcy May Marlene
制作 2011年 上映 102分
監督 ショーン・ダーキン 地域 アメリカ
今月見た『レッド・ライト』(2012年)で助手のような役をしていたエリザベス・オルセンが主演です。来月は彼女が主演の『サイレント・ハウス 』(2011年)というホラー作品の公開もあります。しかし、面白くなさそうなので見る予定はありません。
この作品は受賞したりノミネートされたりして評価が高いのですが、僕はダメでした。サスペンスとされているのですが、そうは思えなかったです。主役のマーサは社会から逃避したカルトの村での生活習慣に心をむしばまれて、またその村から逃げ出して疎遠になっていた姉夫婦の元に転がり込みます。しかし、村での生活の残像が追いかけてきて苦しむ様を観客は追体験していくことになります。
そんなわけで面白いわけがありません......(^_^) いえ、もちろん面白いと思う人がたくさんいるから受賞してもいるのでしょう。おまけに不安感を高めるために不快な効果音やノイズが適宜流されます。ますます憂鬱になる一篇です。それだけのリアリティはあるということで評価できましょうか。
カルトの村がいい加減な描写だし、代表者の台詞も陳腐だし、ちっとも魅力的じゃないカルトです。カルト村での居心地の良さがもっとわかりやすく描かれていれば、そこから逃げることの苦しさにもっと共感ができたようにも思います。
村から逃げてからの生活と、村へ入り込んだ時からの生活が交互に描かれて、その境界があいまいになるように編集されています。この編集がなかったら、この作品自体が陳腐になったことでしょう。撮影もはっきり写さずにフォーカスを外すような撮り方をしています。それは物語自体にも言えます。


☆☆☆★○
世界にひとつのプレイブック 邦題 世界にひとつのプレイブック
原題 Silver Linings Playbook
制作 2012年 上映 122分
監督 デヴィッド・O・ラッセル 地域 アメリカ
「プレイブック」は脚本ではなくて、アメフトのチームそれぞれが持っている作戦というかフォーメイションの図らしいです。 Excelsior! というのが New York 州の標語で、まるでどこかの企業みたいに Still Higher, Ever Upward 「さらに高く、つねに向上」とかいう意味だというのも知りませんでした。
アカデミー賞のノミネート数が多いので話題になっている作品ですが、演技には感興がわいても話にはそれほどの魅力は感じませんでした。反発し合う中から始まる恋があるというのもよくある話です。そこにルナティックな状況を持ち込んだ辺りには新鮮味があると言えるでしょうか。
しかし、これはパットとティファニーだけの話ではなくて、パットの父も併走するような展開で単なるラブコメではありません。それぞれが希望を探してあたふたと生きていく姿を、俳優たちの演技を通じて楽しむ作品でしょうか。そういう意味では俳優に大きくウエイトがかかっている作品です。ジェニファー・ローレンスは少し遅れての登場ですが、彼女が登場すると作品が生き生きしますね。何をやらせてもいいです。X-MENのミスティークみたいに濃いマスクがあっても魅力的です。しかし、この作品では若すぎてリアリティがないのが残念。夫に死なれて苦しんだという歴史をその顔の中に見いだすのは難しそうです。まだ22歳ぐらいですからね。
クライマックスの核になるだろう「ダンス」という素材がうまく使いこなせていないために感動へと結びつきません。もっともそうなったらなったで、よくある感動作の展開でありきたりになります。映画の制作もだんだんハードルが高くなるので大変です。
最近のロバート・デ・ニーロはあまり面白くありませんでしたが、こういう役はいいですね。刑事とか『レッド・ライト』(2012)のようなファナティックな役はもう見飽きたので、作品を選んで面白いキャラを演じてほしいものです。
ところで、英語の諺で好きなのはこれ。 Every cloud has a silver lining.


☆☆☆☆○
十戒 邦題 十戒
原題 The Ten Commandments
制作 1956年 上映 232分
監督 セシル・B・デミル 地域 アメリカ
下の23年版の「出エジプト記」のパートをデミル監督自らリメイクした超大作です。現代のパートはなくなり、モーゼの出生から神の啓示を受ける部分が新たに加えられています。
昔の「超大作」は今で言うのとは異なって、ほんとうに超大作でした。僕にとっては祇園祭よりもお祭りですから、超大作はいつどこで見たか覚えています。これを初めて見たのは70年代末。リバイバルではなくて特別上映という形で京極の大きな劇場で見ました。映画館ではありませんでした。近くの席にシスターたちがいたのを覚えています。
超大作には序曲・間奏曲・終曲が入っていますが、この作品には序曲の前になんと劇場の舞台が映し出されて、挨拶するみたいに作品説明があります。スクリーンはビスタサイズです。堂々たる4時間足らず。
今回は初めてブルーレイとプロジェクター大画面で見ました。今見れば特撮は稚拙に見えますが、この作品のひとつのウリだった紅海が真っ二つに割れるシーンは大画面で見れば今でもなかなかの迫力があります。画面の迫力と言えば、やはりオベリスクを建設する場面は好きですね。オベリスク建設のシーンは実写部分と特撮部分がありますが、実写部分の迫力がすごいです。アメリカ映画ならではの資金力を感じます。
オリジナル版の方で記した通り、この作品のモーゼはかなり若いです。チャールトン・ヘストンはまだ三十過ぎです。旧約聖書を信じる人々はみんな驚いた年齢ではないでしょうか。『出エジプト記』を大幅に脚色しているのでこういう設定にならざるを得なかったのでしょう。そもそも『出エジプト記』自体が大きな脚色で出来ているはずですから、オリジナル作品の柔軟さを引き継いでいると言えるかもしれません。神の啓示を受けた時に髪が白くなり、かなり老けて見えるようになるエピソードを加えて調整しています。しかし、あの時のシスターたちはどんな感想を持ったのか聞いてみたかったです。
オリジナルに比べると宮廷場面が豪華絢爛になり、女性の登場人物も多彩になっています。かなり時代考証がなされているようですが、白人ばかりの俳優なのでやはり違和感は拭えません。また、奴隷扱いのヘブライ民族がエジプトを出る時にたくさんの財産を持っていて不思議に思う人もいるのではないかと思います。これは『出エジプト記』で神がエジプト人にヘブライ人へ譲るようにさせると記されているからです。略奪のように見えるのを怖れてか、そういうシーンは出てきません。
旧約聖書に限らず西洋の神はなかなか東洋人には理解不能というか、共感しにくいものですが、この作品は出エジプト部分に限定されているので面白く見ることができます。とは言うものの、面白いのはやはりエジプトを出るまでですね。チャールトン・ヘストンとユル・ブリンナーという重量級の俳優があり得ない話を神話にしてくれます。それにしてもユル・ブリンナーという俳優は後にも先にもいないですね。映画とは違って、ユダヤの血が入っているのはこの人の方です。
チャールトン・ヘストンは『『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)には出演したくて出たわけじゃないですけれど、マイケル・ムーア監督に騙されてコケにされていました。民主党支持者が多い映画界で彼は共和党支持者で全米ライフル協会会員でもありましたが、公民権運動に参加したりして人種差別と戦いました。彼の『大いなる西部』(1958年)も『ベン・ハー』(1959年)も『猿の惑星』(1968年)も大好きです。


☆☆☆☆○
十誡 邦題 十誡
原題 The Ten Commandments
制作 1923年 上映 136分
監督 セシル・B・デミル 地域 アメリカ
第1部はモーゼがイスラエルの民を連れてエジプトを脱出するという、旧約聖書の「出エジプト記」にもとづくパートで、第2部は信心深い兄とそうでない弟を対比して描く現代編になっています。第1部が約50分ありますが、第2部の序章になるとも考えられるぐらい第2部がしっかりした構成になっています。見るのは今回が初めてです。90年も昔の作品ですが、プリントはとても鮮明です。もちろんサイレント。

   

第1部のエジプトセットはさすがにすごいです。これだけのものを作ったならもっとたくさん見せてくれたらいいのにと思うぐらいですが、あまり有効に使われていません。リメイク版よりもすごいのはセットだけでなく、馬車の疾走場面などのアクションシーンの迫力もすごいです。下手したら死ぬと思う場面がありますし、実際けが人が多数出たそうです。映画は「出エジプト記」をすべて描くのではなく、ファラオとの対立から石版を与えられた後の金の子牛の場面までです。
120歳で亡くなったとされるモーゼですが、エジプトを出てから荒野を40年さまよったとされていますから、ファラオと対立した時は80歳ぐらいです。映画でもそれぐらいの年齢に見えます。リメイク作は一気に若返り、イスラム教で想定されている40歳ぐらいに近づきます。
第2部は宗教くさい話だろうと身構えて見ましたが、たしかにそうでした。しかし、そんなことが気にならないほどによくできた構成で、面白かったです。リメイクと同じ評価点になってしまいますけれど、こっちの方がドラマとしては面白かったです。結局この映画は旧約聖書を扱っているけれど、そのスピリットは新約聖書になっていました。
兄弟が大工で兄の名前がジョン。兄と弟の二人が愛する女性で、弟の妻となるのがメアリーです。老母は聖書に対しては原理主義者と言っていい人で、弟ダンはそれをバカにしてます。メアリーにも信仰心はありません。その間を取り持つのが兄。兄が象徴しているのは教条主義ではないキリスト教だということになりますね。
十戒を次々と破る人生を歩む弟は不正で財をなし、その不正建築の教会崩壊で死ぬことになる母は死ぬ間際に兄ではなく弟を招き寄せ、神を愛しなさいと教える代わりに神を畏れなさいと教えた自分の過ちだったと詫びます。旧約から新約へ、つまり愛の宗教こそキリスト教だというわけなのでしょう。しかし、弟は人生を修正することができずに、自滅します。神を畏れたまま死んだようにも見えます。
ラストで兄は絶望したメアリーに新約聖書を読んで光を与えます。それはイエスが「レプラ」の女性を癒やす場面です。イエスは背中だけの登場です。そんなわけで、これは旧約の十戒だけを描くのではなく、新約も取り込んだ、愛と赦しのキリスト教物語でした。


☆☆☆○○
邦題 アイズ
原題 The Eye
制作 2008年 上映 97分
監督 ダヴィド・モロー 地域 アメリカ
2002年のオリジナル『the EYE 【アイ】』(原題:見鬼)は見ていません。こちらはアメリカ映画特有のリメイク。評価が良くないのですが、僕は楽しめました。「百聞は一見にしかず」が原題の意味でしょうか。「目は口ほどに物を言う」というのもありますが、角膜移植したことでそうなってしまうわけですね。
臓器移植によって記憶が伝わる例があることで、記憶が脳だけにあるわけではないことがわかりつつありますが、さすがに角膜移植の例は聞いたことがありません。しかも、この作品では記憶以上のものが伝わってしまったわけで、それが判明してからはTVドラマ『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』での定番コースになっていきます。だから『ミディアム』が好きな人は楽しめます。
しかし、死者が分け隔てなくみんな黒い影に引かれていくのは悲しいですね。怖がらせの場面や霊との遭遇シーンとかは見慣れた手法なので、もうすこし工夫がほしかったです。ポスターもずいぶんホラー色が濃いですが、ホラーを薄めてもっとドラマ部分を強めてほしかったと思います。バイオリンももっと活用してほしかったです。
クロエ・グレース・モレッツとレイチェル・ティコティンが端役で出ています。レイチェル・ティコティンは『トータル・リコール』 (1990年)のメリーナ役でした。今はTVで活躍しているみたいです。


☆☆☆★○
上意討ち 拝領妻始末



邦題 上意討ち 拝領妻始末
英題 Samurai Rebellion
制作 1967年 上映 128分
監督 小林正樹 地域 日本
この映画は評価が高いので以前から見たかったモノクロ作品です。先日、同じく橋本忍の脚本で、タイトルも同じTVドラマが放送されました。良い機会だったので両方を見比べて見ました。
史実を元にした原作である滝口康彦の『拝領妻始末』には「上意討ち」はありませんから、この作品はまさに映像向けにアレンジされたものです。TVドラマは映画ではカットされた場面も復活させたそうで、もう少し丁寧な情景描写になっていました。したがって、ドラマの方が少し長い時間になっています。
事は会津藩主の松平正容が自分の側室を家臣に下げ渡していたという「拝領妻」が発端です。笹原家の場合は、正容の嫡子が急死したために世継ぎとなった菊千代の母であるお市を返上せよという理不尽な命が下り、ドラマになるしかないという展開を見せます。
事実は藩主に従うことはなくとも討って出ることはありませんでしたから、処分は蟄居とか追放で収まっています。それにしても大した親子ですし、拝領妻であったお市の方(本妙院)も内に激しさを秘めた方だったんでしょう。お市の方は16歳で笹原忠一の拝領妻となっていますが、映画の司葉子もドラマの仲間由紀恵も年齢が高すぎです。二人とも三十路を越えていますよね。しかし、仲間由紀恵はなかなか良かったです。それは本人たちの演技力によるものというよりは演出の違いによるものが大きいです。
映画もTVドラマも基本的には同じ台詞でしかもカメラ位置までよく似た感じでした。異なるのは嫁いびりの具体的描写やクライマックスに近づいてからの場面や演出の変更です。それは映画の方で納得できかねる部分がドラマでは修正されていたという感じです。物語の展開としてはドラマの方が良かったと言えます。それは展開だけではなく演出においてもです。
妻に尻に敷かれている養子の笹原伊三郎役が三船敏郎で、やはりその表情は『椿三十郎』と変わらないというのではなんとも話に合いません。しかも、その友人役の仲代達矢がまたずっとギョロ目のままで、日常の穏やかさの中でのくつろいだ人間関係が表現されません。TVドラマでは田村正和と松平健でそこをきちんと押さえていて、型通りの演技ではなくドラマを生んでいます。
そうは言うものの、怒りの場面になれば本領発揮の三船と仲代になるわけですし、モノクロということもあり光と影に注意が払われて絵の面白さがあります。ズームは要らなかったけれど。そして、何よりもこの脚本には時代劇としてのリアリティがさっぱりありませんが、それは意図したものであって、1967年という制作当時の世の中に向けてのメッセージ性があります。その点において、TVドラマは2013年という時点でのメッセージ性に欠けたということもできます。
この橋本忍の脚本は表面的には一介の藩士が藩主の横暴に抗議するという形を取りながらも、その裏には女の世の中への抗議という真のテーマが隠されています。小林正樹監督の映画は三船と仲代というキャストもあってサムライ映画になってしまった一方で、藤田明二監督のTVドラマは夫婦愛や女の立場など家庭にも重きを置いた演出になっています。
そんなわけで映画は勘違い作品だと思える部分があります。それは映画のポスターを見ても一目瞭然です。だから脚本が切られた部分もお市の方の想いを描く場面が多かったと思います。1967年に、サムライ映画ではなくホームドラマとして演出されていたら、もっと画期的な作品になったことでしょう。たぶんウケは悪くなったに違いありませんが。


☆☆★○○
ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀 邦題 ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀
原題 Hindenburg
制作 2011年 上映 110分
監督 フィリップ・カデルバッハ 地域 ドイツ
劇場公開は110分ですが、オリジナルは3時間です。そんなにカットして大丈夫かと心配になるところですが、まったく問題なしです。近頃は2時間超え作品は珍しくないのに、そこまで削っているのはよほど退屈なシーンが多い証拠。
どうもTVムービーのようで、かなり時間を引き延ばしている感じです。見るべきはヒンデンブルグの勇姿とその内部に尽きます。サスペンスのくせに緊張感のない展開で、爆弾探しに必死になるべき時にラブシーンが入るという暢気さ。
グレタ・スカッキを久しぶりに見ました。ジョディ・フォスターの『フライトプラン』(2005年)以来です。ずいぶん老けていてびっくり。ハリソン・フォードの『推定無罪』(1990年)では出世のためなら誰とでも寝る野心家の女性検事補を演じていました。美しかったですね。


☆☆○○○
ジャッジ・ドレッド 邦題 ジャッジ・ドレッド
原題 Dredd
制作 2012年 上映 95分
監督 ピート・トラヴィス 地域 アメリカ
『ジャッジ・ドレッド』(1995年)のリメイクかと思いきや、むしろインドネシアの『ザ・レイド』(2011年)の方に近い。アジトになっている高層ビルの中での攻防です。しかし、今作の方が原作コミックに忠実なんだそうです。前作もそんなに面白くなかったけれど、今作も面白くないです。
前作よりも未来感がなくなりました。バイクもスーツもヘルメットもみんなデザインがつまらないです。ジャッジはヘルメットを被っているために口元しか見えません。目は口ほどにものを言うとか言いますが、目の演技を封印することは余程の覚悟がいります。そんな覚悟はありませんから、ロボットが主人公みたいです。後から登場して戦うことになるジャッジたちも同じ出で立ちですから、誰がだれだかわからない有様。
『ザ・レイド』のような生身のアクションはできませんから撃ち合いだけのアクションだし、絵もストーリーもありきたり。ダメな監督だな。
主役ドレッドのカール・アーバンは『ボーン・スプレマシー』(2004年)の暗殺者役が記憶に残ります。すでに記した通り、今回は容貌がまったくわかりません。悪のボス役のレナ・ヘディは最近では『ブロークン』(2008年)で見ましたが、今回の役は迫力不足。ドレッドの相棒役のオリヴィア・サールビーは昨年12月の『ダーケストアワー 消滅 』で見たばかり。これも『ブロークン』もあまり面白くなかったです。『ブロークン』は11年11月に短評しています。


☆☆☆☆○
ゼロ・ダーク・サーティ 邦題 ゼロ・ダーク・サーティ
原題 Zero Dark Thirty
制作 2012年 上映 158分
監督 キャスリン・ビグロー 地域 アメリカ
『ハート・ロッカー』(2008年)のキャスリン・ビグロー監督作品ですから、この作品の演出もリアリティたっぷりです。オサマ・ビンラディン暗殺までの経緯をCIA女性分析官を主人公にして描いた作品です。我々日本人には想像も出来ないことですから、見ていてしんどくなるところがあります。
日本の政治家もよく口にしていたような反テロリズムなどというような綺麗なことではなく、これは紛れもなくアメリカの戦争です。過去もそうだったし、これからもそうであるだろうアメリカの戦争を描いた作品です。
よその国に無断で侵入して人殺しをして帰ってくるなんてことはアメリカにしかできないことです。そして、どこまで事実に合致しているかは不明ですが、取材してここまで明るみに出来てしまうのもアメリカだけです。その重みは主人公のCIA女性分析官の活躍や想いを希薄にしてしまうほどです。
『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2011年)で愛すべきキャラのシーリアを演じたジェシカ・チャステインはこの作品ではまるで違うキャラを演じていますが、場面場面で違う表情を見せてやはりいいです。ビンラディンを追い詰める一方で拷問も許容したこの分析官に対してアメリカ人はどのような思いを抱くのでしょうか。作品テーマとはあまり関係があるとは思えない潜伏先攻撃の様子も克明に描き出すあたりも含めて、複雑な思いがします。


☆☆☆○○
レッド・ライト 邦題 レッド・ライト
原題 Red Lights
制作 2012年 上映 113分
監督 ロドリゴ・コルテス 地域 アメリカ・スペイン
超能力とイカサマという今時珍しい題材です。日本では70〜80年代でしょうか。『アウェイクニング』(2011年)でも女性が超常現象のインチキを暴くという題材の作品がありましたが、あれは1921年のお話。キリスト教徒と奇跡は切り離せないので、アメリカでは今でもこういう話題が尽きないのかもしれません。しかし、この作品は本物か偽物かというのがテーマではありません。
キャストを見てだれが主役になる映画なんだろうと思いましたが、キリアン・マーフィでした。主役だと思っていたシガーニー・ウィーヴァーは途中でお亡くなりになります。キリアン・マーフィの役柄については予想外の展開でなかなか面白かったのですが、ロバート・デ・ニーロの超能力ぶりは少々やり過ぎ感があって、いかにもイカサマ師の雰囲気が漂っていたのが失点です。そして、そのオチも。
登場人物たちの造形が今ひとつ。超能力のシーン演出がみんな古くさい。退屈はしませんでしたが、イカサマの臭いが消えません。


☆☆☆○○
悪人に平穏なし 邦題 悪人に平穏なし
原題 No habrá paz para los malvados
制作 2011年 上映 114分
監督 エンリケ・ウルビス 地域 スペイン
2004年のマドリードでのテロ事件をヒントにしたサスペンスで、酔いどれの悪徳刑事がバーで3人を殺してしまい、逃げた目撃者を捜索しているうちにテロ組織と対決することになるという、少し屈折した展開です。
警察からの逃走劇とテロ組織の追走劇がドキドキもののの展開かと予想しましたが、そういうのはあまりありません。緻密な構成がされてはいるものの生ぬるい展開です。ゴヤ賞で主要部門を独占した作品なのですが、スペインにはもっと面白い作品があるのでは。
タイトルはイザヤ書57章21節にある神の言葉だそうです。映画のキャッチコピーは「正義か邪心か」となっていましたが、どちらも関係なし。「悪人に平穏なし」というよりは、悪人は平穏なんかいらない!という感じでしょうか。


☆☆☆★○
ムーンライズ・キングダム 邦題 ムーンライズ・キングダム
原題 Moonrise Kingdom
制作 2012年 上映 94分
監督 ウェス・アンダーソン 地域 アメリカ
12歳の少年少女の愛の逃避行がモチーフになっている作品です。こう来れば当然思い出すのはワリス・フセイン監督の『小さな恋のメロディ』(1971年)です。こちらは11歳。しかし、話の展開は子どもたちだけに限ればかなり似ている。大人たちからも子どもたちからも孤立した二人が一転して子どもたちの応援を得て結婚式を挙げてもらって逃げる。最初のボーイスカウトまで共通している。
監督はトリュフォーの『思春期』(1976年)とかケン・ローチの『ブラックジャック』(1979年)の影響に言及しているけれど、なぜ『小さな恋のメロディ』には触れないの?
ストーリーの展開はいろんな作品からの既視感のあるものが組み合わされていて大したことはありません。子どもたちのキャラにもあまり魅力を感じませんでした。大人の豪華俳優陣が子どもたちの魅力を隠してしまった感じもあります。タイトルになっている月がのぼる王国がどんなところか大いに期待していたのに、タイトルにするほどの場所にもなっていません。この作品はかなり期待していただけに残念。
『小さな恋のメロディ』は現実とロマンスのバランスが絶妙に描かれていたけれど、この作品は現実もロマンスも薄く、ファンタジー色が強い作品です。そしてレトロとキッチュなテイストが好きな人には高評価になるかもしれません。僕もそこだけはそこそこ気に入ったので作品の雰囲気にプラス点を入れました。


☆☆☆☆○
プラトーン 邦題 プラトーン
原題 1986
制作 1986年 上映 120分
監督 オリヴァー・ストーン 地域 アメリカ
公開当時に一度見たきり。今回は地上波放送です。正味15分ぐらいカットされていますでしょうか。今回見て驚いたのは有名俳優が勢揃いしていますね。今一番低調なのはだれかと言えば、主役のチャーリー・シーンだと言えるぐらい。ここからみんなが飛躍していったとも、監督が俳優を見る目があったとも言えます。
『エルム街の悪夢』(1984年)に出た後の若きジョニー・ディップがベトナム語で通訳をしています。似合うのはネイティブ・アメリカンの血が入っているせいでしょうか。今はふてぶてしい役が似合うフォレスト・ウィテカーも幼い表情をしています。
アカデミー作品賞を取ってるぐらい戦場シーンもすごかったし、ベトナム戦争を題材にしている数ある作品の中でも忘れられない佳品だと思います。しかし、その後の戦争を扱ったたくさんの映画の中で徐々にその衝撃度が薄れたことも事実。今回は淡々と見ている自分がいました。
主人公の最後のモノローグの通り、あの戦場に敵はいませんでした。ベトナム戦争を通してアメリカという戦場を僕らは見ることになりました。あれから数十年が経ちますが、今もアメリカは戦場から離れることができず、兵士だけでなく市民も銃を手放すことができません。


☆☆☆★○
命をつなぐバイオリン 邦題 命をつなぐバイオリン
原題 Wunderkinder
制作 2011年 上映 100分
監督 マルクス・O・ローゼンミュラー 地域 ドイツ
バイオリンが目立ちはしますがバイオリンばかりが主役ではありません。原題は「神童」の意味で、ユダヤ人のバイオリン少年とピアノ少女の組み合わせです。そこにもう一人ドイツ人のバイオリン少女が加わります。
年にユダヤ人迫害の映画は十本以上見ますが、今年の1本目です。この作品の特徴は音楽と子どもたち3人の友情というだけでなく、舞台もそのひとつです。ドイツ国内でもなく、ナチス占領下の地域でもないソ連のウクライナです。
ナチスの宣戦布告によってソ連の敵となったドイツ人家族がユダヤ人家族に助けられ、侵攻後は逆にドイツ人家族がユダヤ人家族を助けようとする展開になります。こうした立場の逆転はヨーロッパの歴史では珍しいことではなかったからEUやユーロへの原動力のひとつとなったくらいですが、ユダヤ人迫害がモチーフになっている作品では珍しい設定です。人間の愚かさが浮き彫りになる作りだと言えるでしょうか。
なかなか魅力的な物語で、3人の主役もいい感じです。演奏も自前の腕ですからたいしたものです。子どもの世界の描き方が少々物足りなかったのと、最後のクライマックスとなるコンサートのシーンの演出がやはり少し寂しかったのが残念。ここではバイオリンではなく、ピアノがキーになっています。一番丁寧に丁寧に描いてほしかった場面なのに。


☆☆☆○○
奪命金 邦題 奪命金
原題 奪命金
制作 2011年 上映 106分
監督 ジョニー・トー 地域 香港・中国
ギリシャ債務危機が引き金になった金融恐慌を背景にして強欲がうごめく香港を3つのエピソードで絡めて描いた作品です。サスペンスということなのですが、むしろドラマ色が強いです。
少々異色の味わいのある作品なので、時間軸も普通ではありません。好きじゃないタイプです.......(^^ゞ 3つのエピソードが平行して描かれるのではなく、時間が債務危機の前までまた戻って描かれ、最後に3つの時間が合流する編集になっています。
長い作品ではないのですが、始まって1時間ぐらいが長いこと。3つが平行していれば場面が切り替わるので退屈することはありませんが、それぞれのエピソードでどうでもいいようなシーンがあるために退屈しました。
面白い話なのでもっと素直な編集で良かったのではないかと思ったりもしますが、そうするとただのサスペンスになってしまったかもしれません。サスペンスとしてはなんてことない話ですから。やはり編集で面白みを出すという1編でしょうか。


☆☆★○○
Your Highness 邦題 ロード・オブ・クエスト ドラゴンとユニコーンの剣
原題 Your Highness
制作 2011年 上映 102分
監督 デヴィッド・ゴードン・グリーン 地域 アメリカ
下ネタ満載の剣士もの御伽噺コメディ。やっぱり笑えない。日本公開がなかったのは、下ネタと笑えないところが理由でしょうか。
アカデミー女優であるポートマンがTバックの可愛いお尻を見せてくれていますが、なぜ剣士なのにTバックかという謎を最後に解き明かしてくれます。バカバカしい。


☆☆☆★○
マリーゴールド・ホテルで会いましょう 邦題 マリーゴールド・ホテルで会いましょう
原題 The Best Exotic Marigold Hotel
制作 2011年 上映 124分
監督 ジョン・マッデン 地域 イギリス・アメリカ
アラブ首長国連邦
アラブ首長国連邦の資金が入り込んでいるのでしょうか。『ウェイバック 脱出6500km』(2010年)にも名が並んでいました。最近、映画に力を入れているみたいですね。
好きな『恋におちたシェイクスピア』(1998年)のジョン・マッデン監督作品です。豪華メンバーでインドロケです。イギリス人の熟年から老年までの7人がインドでの高級リゾート生活を楽しもうと訪れるのですが、ホテルはボロボロ。
しかし、若いオーナーの前向きなホテル再建を背景に、それぞれ7人が自分の人生を見つめ直して再建していく過程を描いています。若いオーナーは『スラムドッグ$ミリオネア』 (2008年)のデヴ・パテルです。
こういう話はやはりインドが舞台ならではです。インドに行きたい。大人の話ですから若い人は退屈するかもしれません。ジュディ・デンチら名優たちの余裕のある演技を楽しむ作品でしょうか。
人生はメリーゴーランドのように死ぬまで回り続けます。しかし、メリーゴーランドのように同じ軌跡を描くことはありません。


☆☆○○○
ファイヤー・ウィズ・ファイヤー 炎の誓い 邦題 ファイヤー・ウィズ・ファイヤー 炎の誓い
原題 Fire with Fire
制作 2011年 上映 97分
監督 デヴィッド・バレット 地域 アメリカ
証人保護プログラムをモチーフにしたよくある話。ミソは適用されている証人が消防士ということ。これを活かした反撃が見物になるわけですが、あまり有効に使われてません。演出が大ざっぱ。
捜査官側もギャング側もそれぞれに間が抜けているので、それ故に話が転がっていくというような塩梅です。間抜けばかりを見ていても面白くはありません。ブルース・ウィリスは刑事役ですが、アクション映画でこんなに活躍しない役をやるのは大物アクション俳優には似合いません。


☆☆☆★○
アウトロー 邦題 アウトロー
原題 Jack Reacher
制作 2012年 上映 130分
監督 クリストファー・マッカリー 地域 アメリカ
トム・クルーズの新シリーズとか。原作小説のある作品です。これがあまり新味がない。今までに数多ある探偵物を踏襲した展開になっています。ただし、探偵ではそれこそそのままですから、元秘密捜査官という設定です。
この物語でのたくさんの登場人物設定も実によくあるパターンで、キャスティングまで意外性がありませんから、なんだか昔の映画を見ているような錯覚に陥りますね。それはCGを多用している『M:I』シリーズのような昨今のアクション映画とは異なるとプラス評価することはできます。
やはり制作にもかかわるトム・クルーズ印ということで、それだけの配役とお金がつぎ込まれているので水準を越えた作品にはなっています。映画をよく見ている人には今ひとつ。あまり見ない人は面白いのではないでしょうか。アクションは控えめで、サスペンス重視です。
主役のジャック・リーチャーが敵に突きつけたライフルを捨てて戦うというシーンがあります。昔からの定番である素手での決闘です。本来は優位に立った敵役が主役にチャンスを与えるというのが基本ルールですが、この作品では逆になっています。これは弱い物いじめをしているようで後味が悪いです。
しかも、決闘で負ければ自分だけでなく人質も死ぬことになる危険を伴います。人質を助けにきたのに、そんなバカな!です。こういう古くさい演出は嫌いですね。だからなのか、邦題も古くさい。



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