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2012年12月


☆☆☆☆☆☆
風と共に去りぬ 邦題 風と共に去りぬ
原題 Gone with the Wind
制作 1939年 上映 231分
監督 ヴィクター・フレミング 地域 アメリカ
こればかりはヴィクター・フレミング作品と言うよりも、プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニック作品と言うしかないですね。シネマ短評は5点満点じゃなかったの?と聞かれそうですが、まあこれは別格の作品ですから。黒人の描き方に問題を残すものの、映画でしか表現できない愉悦を与えてくれます。今回はブルーレイです。よくぞカラーで撮影してくれたものです。感涙。
前半のラストシーンで夕陽を背にしてくず野菜をかじって涙し、人を殺してでも家族を飢えさせない、私は二度と飢えないと神に誓うシーンでも感涙。日頃神に祈りさえしないスカーレットが神に向かって誓ったのは悪人宣言ともいうべきセリフ。こんなえげつないセリフに感動しちゃだめでしょ! だけど、悪人は感動してしまうのです。シネマ短評のロゴの左端にはまっているのが実はこのシーンです。そして、この力強いスカーレットにみんなが彼女は強い人だと騙される。
まずはやはり大人の映画と言うべきでしょうか。若い頃から何度も見ていますが、見る度に登場人物の見方が変わっていく貴重な作品です。こちらの成長に合わせて登場人物たちが謎を投げかけてくるのです。
自分が十代の頃はスカーレット・オハラはジコチューの嫌な女だったのに次第にそうではなくなり、メラニーは清らかな聖人だったのが心の中で悪と闘っている苦悩の人になり、アシュレイはお人好しの紳士だったのが卑怯な弱虫に見えてきたり、まあとにかくいろいろと変化するのです。
あまり変わらないのはレットでしょうか。彼の自由さには共感を覚えることしきり。しかし、自由を失ったとき、その代償を払わなければならないのは世の常。愛を知って生きる人と、裏面の嫉妬に飲み込まれ滅びる人。前者がメラニーなら後者はレットでしょうか。愛を受け取るには大きな受け皿を準備しておかねばならないようです。
スカーレット・オハラは作品中でも強い女とさんざん言われますし、メラニーはか弱いように描かれますが、今の僕はスカーレットの弱さを見つめ、メラニーの強さを見つめるように変わってきました。主な登場人物たちはみんなメラニーに支えられています。 文学作品の中では異色のヒロイン、スカーレットの魅力とは何でしょうか。レットがスカーレットに俺たちは同類だと言いますが、僕も自分の中にそんなにおいを嗅ぎ取りながらも、まだ書けません。
フィルムは1939年からすこしも変わらないままなのに、心のスクリーンに映る『風と共に去りぬ』はいつも新しい作品へと変わり続けるのです。しかし、この傑作の成立には原作が傑作小説であったことを忘れることはできません。映画と小説はながーい友だちです。
『風と共に去りぬ/幻のメイキング』(1988年)もお勧めです。


☆☆☆☆○
レ・ミゼラブル (2012) 邦題 レ・ミゼラブル (2012)
原題 Les Misérables
制作 2012年 上映 158分
監督 トム・フーパー 地域 イギリス
原作は言わずと知れたヴィクトル・ユゴーの大傑作小説。大好きな小説です。映像化された映画やTVドラマは今までにもたくさん見てきました。映画は舞台ミュージカルの映画化となっているので、今までの『レ・ミゼラブル』とは少々視点が異なります。つまり、ミュージカルであるがゆえに、歌の力が発揮される場面を中心に据えています。セリフのごく一部を除いてすべてメロディがつけられています。『シェルブールの雨傘』(1964年フランス)はすべてメロディがついていたと思うので、それよりは少ないです......(^_^) そこまでムキにならなくてもと思ってしまう僕はやはり日本人でしょうか。
今まで小説の映画化を見てきた目にはなかなか新鮮でよかったものの、やはり映像のダイナミズムという点においては映画として不満が残るところでもあります。もうひとつの不満はコゼットを預かる夫婦にコメディ色が強すぎたこと。
俳優が達者なので引き込まれます。アフレコなしの現場録音だったそうですが、それが歌の力にも撮影方法にも歴然と表れています。カットが非常に少なくなっていて、表情を細かく捉えます。固定撮影ではなく、僕の苦手な手持ち撮影が多用されているようで、画面が常に揺れています。群衆シーンでは最近のオキュパイ・ムーブメントを想起させるあたりはうまい描き方でした。
この作品は近頃珍しいビスタサイズ(1.85:1)です。「一反木綿」みたいに長いスクリーンが流行の昨今ですが、僕はビスタサイズが好きですね。
ジャン・バルジャン役のヒュー・ジャックマンはもちろん良かったですが、予想外に感動させられたのがアン・ハサウェイ。こんなにいい女優だったとは。エポニーヌ役のサマンサ・バークスがまた拾いもの。コゼット役のアマンダ・セイフライドが霞んでいました。これは作品としては困ったことではないかと思いますが。
トム・フーパー監督作品としてまたひとつ好きなものが増えました。


☆☆☆★○
 邦題 シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ
原題 Comme un Chef
制作 2012年 上映 84分
監督 ダニエル・コーエン 地域 フランス
日本で公開されるフランス作品に駄作はほとんどありませんね。アメリカ作品のように数が多くないので、それなりに淘汰されるようです。
この作品は伊丹十三の『タンポポ』(1985年)とは逆の構成で、スランプに陥っている三ツ星レストランのシェフを素人同然の男が助ける設定になっています。ジャン・レノとミカエル・ユーンの共演ですが、ミカエル・ユーンが主役と言っていい展開です。そして、フランス映画ですから、当然そこには愛の味付けがなされています。
コメディ作品という割にはかなりおとなしめの演出で、上品な仕上がりになっています。もうちょっと暴れてもらっても良かったのでは?
作品中に『竹田の子守歌』に合わせて踊るシーンが出てきます。なんというミスマッチ。日本人は笑えないでしょう。そして、毎度のことながら、邦題をなんとかしてください。


☆☆☆○○
ブラッド・ウェポン 邦題 ブラッド・ウェポン
原題 逆戦      英題:The Viral Factor
制作 2012年 上映 122分
監督 ダンテ・ラム 地域 香港
ウイルス・テロをめぐる犯罪組織との戦いを軸に、離れて育った兄弟の葛藤を描くアクション作品です。この構図はジャン=クロード・ヴァン・ダムが双子の兄弟を演じた『マキシマム・リスク』(1996年)と似ていますね。この作品は双子ではありません。兄弟関係に注目すると『ガタカ』(1998年)と通ずるものがあります。
アクションシーンを見ていると、ハリウッド映画と遜色がないので見応えはありますが、香港らしさというのはないです。とにかく2時間たっぷりのアクションシーンの連続なので、いろいろと工夫はしているけれども退屈になってくるという逆効果も。15分は削っていいです。
香港らしさが出ているところは兄弟関係だけに留まらず、家族関係まで拡張されているところでしょうか。『マキシマム・リスク』よりも脚本はいいけれど、引き込まれるような展開がなかったのが残念です。でも、邦題よりマシです。原題の「逆戦」のままの方が面白そうなのに。


☆☆★○○
ボディ・ハント 邦題 ボディ・ハント
原題 House At The End of the Street
制作 2012年 上映 100分
監督 マーク・トンデライ 地域 アメリカ
あまり面白そうには思えませんでしたが、ジェニファー・ローレンスとエリザベス・シューが出演していたので。母娘を演じています。家庭内殺人事件の生き残りの息子役をマックス・シエリオットが演じます。この人、面影がイーサン・ホークに似ています。
邦題も、そのキャッチコピー「それは、彼女の肉体を狙っていた…。」も的外れです。物語の展開も演出も予想外がないし、早くからヒントが出てきますのでサスペンス・スリラーとしては弱いです。では、そこに人間ドラマが描かれているかと言えば、監督としてはそのつもりがあったかもしれませんが、観客には届かないでしょう。演技を楽しむようなシーンもありませんでした。凡作です。


☆☆☆★○
フランケンウィニー 邦題 フランケンウィニー
原題 Frankenweenie
制作 2012年 上映 87分
監督 ティム・バートン 地域 アメリカ
ティム・バートンの世界を映しだしたアニメ作品です。今回はストップモーションだそうです。しかも、モノクロにしたことで銅版画のような趣が出ています。
フランケンシュタイン映画を下敷きにしていることは言うまでもありませんが、彼の作品『シザーハンズ』(1990年)にも通ずるものがあります。ペットの死の悲しみは子ども時代には特に忘れがたい悲しみを残すものです。それをモチーフにしながら、いろんなモンスターにも活躍させての大騒動を描きますが、なにやら科学に対する思い入れも格別のものがありそうです。科学の先生ジクルスキには『鉄人28号』や『鉄腕アトム』のひとつのテーマみたいなことを語らせます。
ストーリー自体はフランケンシュタインものと同じような展開をたどり、特に語るべきものもありません。しかし、結末の愛犬スパーキーの扱いはいかにもティム・バートンらしいです。彼はやっぱり子どものままなのです。僕なんかはスパーキーは静かに去ってほしかったと思いますね。少年時代は去っていってこそいつまでも心の中に生き続けるのです。


☆☆☆★○
もうひとりのシェイクスピア 邦題 もうひとりのシェイクスピア
原題 Anonymous
制作 2011年 上映 129分
監督 ローランド・エメリッヒ 地域 イギリス・ドイツ
評判が良かったので期待の作品だったのですが、期待はずれということもないけれど、期待以上のものでもなかったというところ。
映像も話の筋もよく出来ていて、その話の筋がシェイクスピア作品を彷彿とさせるような悲劇になっています。俳優陣もさすがに粒が揃っています。劇中劇のような体裁が取られているのですが、そもそもややこしい話なので邪魔でした。
なぜ期待以上のものにはならなかったかと言えば、ほとんど政局の話ですからワクワクするようなところがありません。前半は特に見せ場がなく、時代と登場人物の配置を理解するのに手間取ります。シェイクスピアのファンではない僕にはハードルになります。僕のような人にはこういう重厚な作品よりも、『恋におちたシェイクスピア』(1998年)のような軽妙な作品の方が合います.......(^^ゞ
で、この「もうひとりのシェイクスピア」説はどれぐらい信憑性があるのかと言えば、シェイクスピアは別人であるという説にはうなずけるところがありますが、この説はやはり絵空事でしょう。


☆☆☆☆○
拝啓、愛しています 邦題 拝啓、愛しています
原題      英題:Late Blossom
制作 2011年 上映 118分
監督 チュ・チャンミン 地域 韓国
面白そうだなと思って見たら、可笑しくて哀しくて心に残る映画でした。マンガが原作というのは今や世界的に普通になってしまいましたが、こういう老人の恋物語がベストセラー漫画とはね。韓国の男尊女卑などの封建的なものに囚われないファンタジー要素があるからかもしれません。
それほど韓国映画を見ていないので俳優をあまり知りませんが、駐車場の管理人グンボン役ソン・ジェホは『彼女を信じないでください』 (2004年)でヒチョルの父親だった人。今回は静かで哀しい役柄でした。主役マンソクのイ・スンジェを見るのはたぶん初めて。ほんとにいい味だしています。ボヤキのクリント・イーストウッドを彷彿とさせます。マンソクが恋する相手ソン役のユン・ソジョンも、グンボンの妻役であるキム・スミもいい。4人ともにキャラがはっきりしていて、そのキャラを楽しむこともできました。彼らを取り巻くサブキャラなど、他の登場人物もそれぞれに味わいがありました。
年老いて、今の幸せを伴侶の死の訪れで失うことを怖れるあまり、今を生きる幸せに浸ることができない気持ちはよくわかります。かといって、死に急ぐことは非難されていいでしょう。しかし、幸薄い人生において初めて知った幸せにおののき、その幸せの死をいつか引き受けなくてはならない怖さには共感を抱くほかありません。
孤独な人間にとって死はそれほど怖いものではないと思いますが、愛する伴侶がいる人たちにとっては大変な試練だろうと想像します。二人が生きているうちにその試練を乗り越える力を養っておいてください。そして、その力を支えるひとつは心残りがないぐらい相手を大切にしたという思い出ではないでしょうか。
2組の老人男女の組み合わせをうまく絡ませて描く脚本が見事です。原作が良いのでしょう。ラストシーンで描かれるソンの故郷の風景がまるで桃源郷のように美しいです。ただし、オートバイで宙を走るベタな描き方は興醒め。それでも認知症のグンボンの妻が描いた絵の中に二人を収めるまとめ方で最後は持ち直しました。


☆☆★○○
ディラン・ドッグ デッド・オブ・ナイト 邦題 ディラン・ドッグ デッド・オブ・ナイト
原題 Dylan Dog Dead of Night
制作 2010年 上映 107分
監督 ケヴィン・マンロー 地域 アメリカ
イタリアの漫画が原作だそうです。シリーズを、怪奇現象の私立探偵ディラン・ドッグの活躍を描く作品で、闇で生きるいろんな者たちが登場してきます。狼男、ゾンビ、ヴァンパイア。登場人物が複雑でややこしいので、途中から謎解きなんかどうでもよくなってきてしまいます。
そんな複雑な部分がある一方で、展開は一本調子で見せ場らしきものもなく、だんだん退屈に。アクションも大したことありません。コメディ色が入っています。


☆☆☆☆☆
サウンド・オブ・ミュージック 邦題 サウンド・オブ・ミュージック
原題 The Sound of Music
制作 1965年 上映 174分
監督 ロバート・ワイズ 地域 アメリカ
この作品で一番感動を覚える場面は冒頭の丘でマリアがタイトル曲を歌うところです。冒頭が一番感動的というのはたぶんこの作品だけ。初めて見たのは中学生か高校生の時でTV放送です。当時のテレビは大長編は二週連続で前半・後半で放送していました。この映画は3時間足らずあるのでインターミッションが入ります。今では珍しくもない時間ですが、当時は超大作だけが許される長時間作品でした。
十代でこの作品に魅せられて、サウンド・トラックも買いました。名曲揃いです。ザルツブルクの風景の切り取り方とかの撮影も素晴らしく、大画面で見るのにふさわしい作品です。今回もブルーレイとプロジェクターで見ました。
僕は最高評価をつけていますが、好みの分かれる作品らしいです。同じくロバート・ワイズ監督のミュージカル『ウエスト・サイド物語』(1961年)を僕はたぶん2回ぐらいしか見ていません。題材があまり好きじゃないのです。『サウンド・オブ・ミュージック』は題材の面白さだけでなく、政治的自由を含めて人間性の自由をテーマにしているため僕好みです。実話が元でも大部分がフィクションであるこの映画は次から次へと名場面が続くのでスクリーンから目が離せません。音楽の素晴らしさを教えてくれる作品でもありますよね。
少々展開が安易であることや1オクターブに合わせて子どもの数が7人で、数が多すぎて描き切れていない等の欠点も見えますが、モデルとなったトラップ・ファミリーの子どもたちも7人でしたから文句も言えません。マリアものちに3人子どもを産んだので、現実は1ダースの家族になっています。ナチスを嫌いながらも人に接する態度はナチスの如しのようなトラップ大佐はけっきょく愛国者でしかなかったのかという寂しさを感じます。
モデルがある作品にはつきものですが、映画の脚色で家族はずいぶん苦しんだようです。そういう裏事情にはやはり心痛みます。だから、少しでも事実を知る努力はしたいものです。YouTubeで『愛と死をみつめて』のカラオケ動画を見たことがあります。背景はずっとキリスト教会で、マコ役が祈っています。ミコこと大島みち子さんはキリスト教どころか信仰に救いを求めなかった人なのに、ウェディング・ドレスで教会に立ちます。いくらただのモデルだとしても、実名を出すならそれなりの敬意は払われるべきです。
『私のお気に入り』という歌に象徴されるように、人が幸せを感じる時というのは、自分が好きな人といっしょにいる時や好きなものを見たり感じたりしている時です。そして、それが保証される基盤となるのが「自由」だと歌っているように聞こえてくるのが、僕の『サウンド・オブ・ミュージック』です。
今回初めて気がつきましたが、『自信を持って』の場面でマリアがバスを降りた後の背景に馬が跳ねるように自由に走っている姿が木立の間から見えます。偶然だったのか、演出だったのかどちらでしょう。ちなみにこの歌の場面ではマリア本人も通行人として出演しているらしいです。
西ドイツのオリジナル『菩提樹(1956)』『続・菩提樹(1958』は2011年4月にコメントしています。こちらはミュージカルではありません。


☆☆☆★○
トレマーズ 邦題 トレマーズ
原題 Tremors
制作 1989年 上映 96分
監督 ロン・アンダーウッド 地域 アメリカ
モンスターの出現になんの理屈もなく、まさに理屈ぬきに楽しめるモンスター・パニックものです。
コメディ色が入っていることもあり、公開当時へんな作品だなあと思いましたが、やはり今見てもちょっとへんなテイストです。もうすっかり忘れていましたが、弥次喜多コンビとしてケヴィン・ベーコンとフレッド・ウォードが出演しています。ケヴィン・ベーコンは軽薄な男の役なので、最初は高い声で台詞を話しています。しだいに成長するので、それに合わせて声を落としていっています。
B級には違いなく、冒頭はごくありきたりで安っぽい感じなのですが、しだいに面白くなってくる作品です。モンスターの撮影もどんどん本格化していき見応えがあります。地面の下の演出なんて『ジョーズ』(1975年)の水中よりも格段に大変だったろうなあとスタッフの努力に拍手です。
地面を海に見立てて岩や物の上に立つ遊びを子ども時代にしたことありませんか? あの遊びをやる楽しさをもう一度。


☆☆☆○○
マリー・アントワネットに別れをつげて 邦題 マリー・アントワネットに別れをつげて
原題 Les adieux à la reine
制作 2012年 上映 100分
監督 ブノワ・ジャコー 地域 フランス・スペイン
マリー・アントワネットの朗読係という視点から描く変わり種。でも、こういう設定は面白いです。まずは王族というか貴族は自分で本も読まなかったんだなあと感心。感心することではないですけど。しかし、アントワネットがレズビアンでもあったという設定はあまり面白いとは言えない。しかし、これを受け入れないとこの物語は一歩も進めないのです。小説が原作です。
残念ながら期待したほどではなく、あっさりした演出だったように思います。限られた人間関係の話なので、それに応じて限られた空間での展開となっていて、立ち居振る舞いもなんとなく現代風です。ポリニャック夫人に焦がれるアントワネット、寵愛を受けるポリニャック夫人、アントワネットに憧れる朗読係シドニーという3人の関係がもっと丁寧に描かれていいのではなかったでしょうか。
ポリニャック夫人のドレスに着替えるためにアントワネットから目の前で全裸になるように命ぜられる場面の意図は理解できますが、シドニーの戸惑いや困惑が十分伝わってくるだけのものになっているとは思えませんでしたし、それはポリニャック夫人の身代わりを命じられて逃亡する場面でも同様にシドニーの気持ちがあまりスクリーンに出ていませんでした。
主演はレア・セドゥ。この人の出演作はずいぶん見ていますけれど、今回初めて名前を覚えました。今まであまり印象に残っていないのです。これから活躍しそうです。


☆☆☆○○
ルビー・スパークス 邦題 ルビー・スパークス
原題 Ruby Sparks
制作 2012年 上映 104分
監督 ジョナサン・デイトン
ルビー・スパークス
地域 アメリカ
小説家が夢に見てから創り上げた恋人が現実に現れることから始まる物語です。この作品を見たいなと思っている人はこのコメントを読まないでください。
脚本を書いたのがゾーイ・カザン。ヒロインのルビー役もゾーイ・カザン。作家役カルヴィンはポール・ダノで、実生活においてもゾーイ・カザンの恋人です。そんなことを知ってから見たので、前半はおのろけ物語に見えてしまって仕方なかったです......(^_^) 下の『人生の特等席』で愛情についての考えや表現が日本とは異なると書きましたが、これも同じことで日本でならこんなキャストで演じられないでしょうね。
物語が現実になるという作品はいろいろありますが、理想の恋人という点でむしろこれは『マネキン』(1987年)というような作品につながるものです。『ルビー・スパークス』の中で作家に操られているのを象徴させる場面では赤い靴を履かせていましたから、カザンはアンデルセンの『赤い靴』も取り込んでいます。
しかし、恋愛においてはよくある日常を主体に描かれているのでSF的な側面はほぼありません。それでいいのですが、イマジネーションから生まれたという特性がどう活かされていたのかあまりよくわからなかったです。
脇役は有名俳優たちが揃っています。ゾーイ・カザンの父は脚本家のニコラス・カザン。祖父は言うまでもなく大監督エリア・カザン。赤狩りでは今でも批判され、98年のアカデミー名誉賞受賞時の式場の賞賛と反感の場面は今でも思い出すことができます。父のニコラス・カザンは正と負の遺産を受け継ぎ、ゾーイ・カザンが今度は何を受け継いでいくのか楽しみにしたいと思います。


☆☆☆★○
パンズ・ラビリンス 邦題 パンズ・ラビリンス
原題 El laberinto del fauno    英題:Pan's Labyrinth
制作 2006年 上映 119分
監督 ギレルモ・デル・トロ 地域 メキシコ・スペイン・アメリカ
2回目です。BS放送で見たので時間的にカットされているはず。現実と幻想の世界が絡んでいないようで絡んでいる、あるいは絡んでいるようで絡んでいないという、子どもらしい境界のない思考で救いのない世界を描いた作品です。
先に気に入らないところを言えば、やはりありがちな過度の残虐シーン。いくらビダル将軍を憎むべき人間に描くにしても、あれでは物語から浮いてしまいます。主人公の少女オフェリアの目を通して描かれるのならまだ理解できるところですが、そうではない描き方です。
また、お伽話にはお決まりの禁忌の内容が情けない。しかも禁を破って食べたのがただの葡萄というのは納得しがたいです。どんだけ美味なブドウなんだ!とツッコミが入ります。最後にパン(牧神)が合格の理由を説明するのもやめてほしかったです。王と王妃が登場するシーンも違和感がありました。
スペイン内戦を題材に採った作品はたくさんありますが、この作品では背景になっているだけです。この作品の魅力はオフェリア役のイバナ・バケロですね。そして、やはりその死です。オフェリアの死よって完結するこの物語は美しいです。子どもには、死はぜんぜん美しくないと言いたいところですが、人の心のなかには死を美しく感じる気持ちが潜んでいることを否定できないです。


☆☆☆○○
人生の特等席 邦題 人生の特等席
原題 Trouble with the Curve
制作 2012年 上映 111分
監督 ロバート・ロレンツ 地域 アメリカ
父と娘の確執を描く作品としては対立度が意外と低いけれど、人物配置といい、その展開といい定石からはみ出すものではありません。野球のスカウトマンというフィールドを持ち込んだのが新味ではあるものの、いつものしかめっ面のクリント・イーストウッドを見るということに尽きますね。
娘のエイミー・アダムスが子どもを手放すなんて臆病者のすることだと父を責める場面があって、そうせざるを得なかった事情があったとして父親が持ち出したエピソードはあざとい。やはり臆病者としてスジを通してもらいたかったと思います。
原題はいいタイトルですね。野球と人生を重ねるのはこれまた常道ではありますけれど。「人生の特等席」という邦題は娘の言葉から採られています。アメリカの親子関係や愛情表現は日本とは異なるので、これほど素直な愛情を求める姿はなかなか共感するのが難しいです。僕だけでしょうか?


☆☆☆○○
砂漠でサーモン・フィッシング 邦題 砂漠でサーモン・フィッシング
原題 Salmon Fishing in the Yemen
制作 2011年 上映 108分
監督 ラッセ・ハルストレム 地域 イギリス
ハルストレム監督の前作『親愛なるきみへ』(2010年)の評価は標準作でしたが今回も同じです。タイトルは荒唐無稽でも正確には砂漠に水を引きたいという計画であって、単なる富豪のお遊びではありません。お遊びの面白さを期待する向きには合わない作品です。原作はベストセラー小説です。
さすがに現実味はありませんが、映像はそこそこリアリティがあります。しかし、話の展開は予想通りで、ユアン・マクレガー向きの役です。アラブの政情とエミリー・ブラントとの恋愛、そしてクリスティン・スコット・トーマスの首相広報官の政治風刺という要素を絡めた複雑そうに見えて単純なお話です。
クリスティン・スコット・トーマスは『サラの鍵』(2010年)の重厚な役とは異なって、人を手玉に取る役柄を軽妙に演じています。いつもこの人はうまい。
この作品ではテーマとなるべきイエメンの大富豪シャイフの夢を支える信仰というか哲学がもうひとつ見えてきません。そのために敵対する勢力の考えも薄っぺらにしか描かれません。そういう意味でリアリティが感じられない。僕が面白く思えなかったのはそこにあります。


☆☆☆○○
プリズナー・オブ・パワー 囚われの惑星 邦題 プリズナー・オブ・パワー 囚われの惑星
原題         英題:The Inhabited Island
制作 2008年第1部
2009年第2部
上映 日本版119分
ロシア版215分
監督 フョードル・ボンダルチュク 地域 ロシア
タルコフスキー監督『ストーカー』(1979年)の原作者だったストルガツキー兄弟の『収容所惑星』が原作です。この小説の邦題はやはりソルジェニーツィンの『収容所群島』の影響を受けているのでしょうか。
ロシア制作のSF映画なんて見るのは久しぶりのことです。近頃はハリウッドの影響を受けて、世界中でSFが作られるようになってきましたね。
SFの未来ものは独裁政権と反政府組織の戦いというのが定番ですが、これもそうです。この小説が書かれたのがソ連時代の1969年なので、まあ仕方ありません。当時の政治状況を考えればかなりの冒険だったことでしょう。
この作品はスペース・オペラではなく、ある惑星の地上戦というべきものです。主人公マクシムのイカそっくりの宇宙船に巨大な隕石が当たって惑星に不時着するというシーンから、その程度で済むはずないだろ!というツッコミを入れてしまいました。前宣伝とは異なって映像的にもあまりパッとしません。展開にメリハリがないので、ハリウッド・テイストに慣れてしまっている脳には少々だるい。
ロシア版で見ましたが、日本公開版はほぼ半分に短縮されていますから、幾分見やすくはなっていると思います。数年前の作品を掘り起こしてきたものの、このままでは公開できないという判断があったのでしょう。それはそれで正解と思いますが、かと言って面白くなるものでもありません。
2157年の話なのですが、新鮮味の薄い作品でした。監督しだいでどうにでもなる作品とも言えます。主人公ワシリー・ステパノフの笑顔が印象に残りました。ヒロインのラダ・ガール役はユーリヤ・スニギルで近頃では珍しくグラマーな体型の女優です。ロシアでは好まれるのでしょうか。チェスの腕がプロ級のモデル出身だそうです。この作品では清楚に演じています。
来年2月公開の第5弾『ダイ・ハード ラスト・デイ』(A Good Day to Die Hard)にも出演しています。予告編ではやはりそのグラマーぶりを強調した衣装でした。


☆☆★○○
ダーケストアワー 消滅 邦題 ダーケストアワー 消滅
原題 The Darkest Hour
制作 2011年 上映 90分
監督 クリス・ゴラック 地域 アメリカ
2011年10月に日本未公開の『Attack The Block』(2010年)を短評しましたが、空からエイリアンが降ってきて若者グループが戦うという設定が同じです。そして、『Attack The Block』よりは映像がマシというレベル。
冒頭の10分余り無駄話で退屈してやっと登場するのは姿なきエイリアン。エイリアン映画で何が難しいかって、やはりエイリアン・デザインですよね。姿が見えないとはなんと姑息な......(^_^) 『プレデター』(1987年)も最初は姿を見せませんでしたが、こっちは最後まではっきりしません。オーロラのような、振り子の光跡のようなバリアは見せます。
ストーリーはどうでもいいです。見所は舞台がモスクワになっていて、廃墟となった街です。CGがよく出来ていてとてもリアルです。しかし、そこだけです。SF的な理屈はまったくのご都合主義で屁理屈にもなりません。
エイリアンとの戦争前夜という序章だけを描いている感じの小品で、正味60分もあれば十分描ける内容でしした。廃墟CGを美術館へ見に行く企画にした方が面白い。


☆☆☆★○
007 スカイフォール 邦題 007 スカイフォール
原題 Skyfall
制作 2012年 上映 142分
監督 サム・メンデス 地域 イギリス・アメリカ
23作目にして50周年記念だそうで。たぶん全作品を見てきたはず。このシリーズは駄作がないです。今作も海外で高い評価を受けているようですが、僕は既視感がいろいろとあって退屈しました。あほらしい部分を除けばとてもよく出来た作品だとは思うのですが。
最近のスパイものはエージェント同士の戦いばかりと愚痴ったことがありますが、これもそうです。元エージェントですが似たようなもの。前作『007 慰めの報酬』(2008年)はボンドの復讐劇でもあったわけですが、今作もまた復讐という生臭さがにおいます。『ノーカントリー』 (2007年)で不気味だったハビエル・バルデムが敵役で、彼の復讐劇となっています。ハビエル・バルデムがやはり出色の演技です。
「ダニエル・クレイグ」シリーズのアクションは一流ですが、無駄なシーンとか、いろんな映画で使われた手がたくさん出てきます。ショーン・コネリーのシリーズからの引用や演出もあります。また新シリーズはMの出番が多いので、やはり今回もジュディ・デンチが活躍しています。活躍というよりはまるで準主役。Mがジュディ・デンチでなければ、今作はなかったと言えます。
その一方でボンドガールは登場しないに等しい扱いです。ここまでくると、さすがにもう007ではありません。今までのボンド作品とはかなり異なる作りになりましたから、好みの客層がずれるかもしれません。僕は少しはずれました。
映画では「スカイフォール」について説明はありませんが、これは「Fiat justitia ruat caelum 天が落ちようとも正義を成就させよ」というラテン語の格言からだそうです。この作品のあほらしさはまずは敵役であるシルヴァの動機。Mが自分を見捨てたという理由はスパイとしてどうなの?ボンドだって同じような目に遭ってきたわけですしね。「ミッション・インポッシブル」指令の決まり文句を思い出してほしいものです。
またシルヴァの組織もMI6を翻弄するような組織にはとても見えません。スカイフォールでの戦いもスパイ組織としては最低の戦略だと思えます。最後のシルヴァのMに対する愛憎劇もギリシャ悲劇みたいに仰々しい。MI6への潜入計画などツッコミどころも多いです。そもそも007シリーズはツッコミどころ満載のスパイものでしたが、このリアルになったスパイ物にはツッコミどころが多いのは許されません。
最近のスパイ物はみんなスカッとしないものばかり。もっとお気楽に楽しませてもらえないかな。今もっとも007シリーズを引き継いでいるのはローワン・アトキンソンの『ジョニー・イングリッシュ』シリーズかもしれません......(^_^)


☆☆☆★○
ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館



『ハードカバー 黒衣の使者』
邦題 ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館
原題 The Woman in Black
制作 2012年 上映 95分
監督 ジェームズ・ワトキンス 地域 イギリス・カナダ・スウェーデン
'The Woman in Black' とは「黒衣の女」という意味ですが、これがスーザン・ヒル原作のタイトルです。『黒衣の女』の方がホラーに似合います。幽霊の本場イングランドの人は幽霊を怖がらないですが、こういう悪意を持った幽霊という設定でははやはり怖いのでしょうね。それともこういう設定ではリアリティを感じないのでしょうか。
この作品は幽霊屋敷ものの一篇です。閉鎖系ではなく、開放系の屋敷ですからそれほどの恐怖はありません。静かな戦慄が時々やってきます。ダニエル・ラドクリフ主演で彼の顔立ちがこの作品にはまっています。『エルム街の悪夢』(1984年)はハーメルンの笛吹き男と通ずるものがあり、この作品はハーメルンの笛吹き女かとも予想しましたが、そこまでに深みはありませんでした。しかし、ダニエル・ラドクリフは沼地の深みで泥まみれになって頑張っていました。
このホラーは今までのいろんなホラー作品のバリエーションで斬新さはありませんが、ラストだけは新鮮味がありました。死者の呪いの力加減が微妙で、何が幸せかわからなくなります。
「黒衣」と言えば、『ハードカバー 黒衣の使者』 (1988年)という作品がありましたが、あれもゴシック・ホラーでした。SF映画選で取り上げている『バーチャル・ウォーズ』(1992年)にも出演していたジェニー・ライト主演です。 『バーチャル・ウォーズ』よりも『ハードカバー』の方が面白いかも。どちらの作品も一般ウケはあまり良くなかったですけど。



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