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2012年11月


☆☆○○○
テルマエ・ロマエ 邦題 テルマエ・ロマエ
英題 Terumae Romae
制作 2012年 上映 108分
監督 武内英樹 地域 日本
古代ローマの浴場技師が、現代日本に何度もタイムスリップして風呂文化を学び、それを浴場設計に活かしていくという設定のマンガが原作です。1巻目だけ読んだことがあります。映画はこのマンガのままと言っていいほど、「映画」にはなっていません。
まずは武藤将吾の脚本がどうしようもないです。ストーリーもつまらないけれど、特に台詞がくさい。70代のTVドラマみたい。武内監督はTVの『のだめカンタービレ』(2006年)は面白かったけれど、映画になるとキレがありません。演出もかなりくさい。映画はTVドラマといっしょにはならないことがよくわかります。
言うまでもなく映画は映像で見せなくちゃならないわけで、お茶の間TVの域を出ていません。日本の風呂やトイレ文化を誇るのはいいけれど、古代ローマのテルマエだってその文化や技術は今からみても大したものがありました。それにはまったく注目せずに、そのままテルマエを銭湯にしてしまうというのはいくらコメディでも乱暴過ぎます。
まずはじっくりとテルマエを紹介してから話を進めてほしかったですね。そして、テルマエに銭湯の文化や技術をどうやって古代ローマで実現するかという過程を映像で見せる場面こそが映画というもの。ところが、そのシーンは一コマもなく、突然出来上がっているのだからキョトンとします。面倒だったのか、力量がなかったのか、どちらかでしょうね。俳優たちの演技も水準以下です。マンガの奇想な設定以外には何もありません。
SF、アクション、そしてコメディと日本映画は弱点のジャンルが多いです。この作品はイタリア全土で公開されたそうですが、ローマをなめちゃいけません。


☆☆★○○
  邦題 HICK ルリ13歳の旅
原題 Hick
制作 2011年 上映 95分
監督 デリック・マルティーニ 地域 アメリカ
邦題とは全然結びつかず。なにも13歳である必然性なんかない演出ですね。母が家を去り、父も家を出て行ったので夢のラスベガスへとヒッチハイクの旅に出た娘ルリの話です。こういう田舎者を hick と言うようです。
たぶん原作には早熟な13歳の少女の独白があって、それらしい小説なんだろうと想像はしますが、映画の方はただの変態男に捕まって危ない目に遭ったという顛末になってしまいます。キャッチコピーの「私には無限の可能性があるんだから」と結びつくような作品にはなっていません。むしろ皮肉に聞こえてしまいます。
少々すれた田舎娘をクロエ・グレース・モレッツがいつもの巧さで演じています。『マリリン7日間の恋』(2011年)の爽やかな青年役だったエディ・レッドメインがストーカーです。ジュリエット・ルイスはいかにもの母親役。アレック・ボールドウィンが変な中年のチョイ役。
劇中に挿入されるルリのスケッチ画がいかにも大人が描いたタッチで、ちょうど作品のちぐはぐ感を伝えています。だから、そのスケッチとともに語られる独白がちっともこころに響きません。ひょっとするとこのリアリティのない作品は「赤ずきんちゃん」みたいなものだったのかもしれません。


☆☆☆○○
Lockout 邦題 ロックアウト
原題 Lockout
制作 2012年 上映 95分
監督 ジェームズ・マサー
スティーヴン・セントリーガー
地域 フランス
衛星監獄からの脱出劇にサスペンスをからませた作品です。さすがに脱出劇だけではありきたりになると思ったのか、地上でのサスペンスも絡ませているのですが、これが軽すぎます。オチがばかばかしい。聞き覚えのあるストーリーに見覚えのあるシーンが繰り出されるので、オリジナルな部分はほとんどないです。人質をみんな殺してしまうのは、人質が生きていては物語をどう処理していいかわからなくなったからだと思いますね。
ガイ・ピアースが筋肉をつけて活躍するので、それを楽しむ1編でしょうか。マギー・グレイスも頑張っています。シーンが盛り上がっていきそうになるとすーと素通りしてしまうような演出ばかりで、標準作になりました。言語は英語です。


☆☆☆○○
Dream House 邦題 ドリームハウス
原題 Dream House
制作 2011年 上映 92分
監督 ジム・シェリダン 地域 アメリカ
SF映画選の『遊星からの物体X』でちょっぴり触れた作品ですが、やっと劇場公開です。この監督作は『父の祈りを』(1993年)以来です。今回はサイコサスペンス。見ているうちに最近はやりのストーリー展開になるのかなと嫌な予感がよぎりましたが、ダニエル・クレイグ、レイチェル・ワイズ、ナオミ・ワッツというキャストでそれはないだろうと思い直し、実際プラスαな展開になっていました。
ヒットしたストーリー展開を2つ組み合わせたものです。いつかこういう組み合わせが現れるだろうと予想はしていましたが、豪華なキャストで見せてくれました。しかし、ネタばらしが早すぎたことと、絵的な面白さがないことや発端となった事件に面白みが欠けたのが残念でした。レイチェル・ワイズが演じる妻の心をもう少し掘り下げて描いてほしかったです。


☆☆☆○○
ハード・ソルジャー 炎の奪還 邦題 ハード・ソルジャー 炎の奪還
原題 6 Bullets
制作 2012年 上映 115分
監督 アーニー・バーバラッシュ 地域 アメリカ
『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年)由来というのはわかりますけれど、あまりにも軽薄なタイトルに泣けます。20年も昔のタイトルに引っ張られるとはどういう世代に人がターゲットなんですか。あれっ?僕の世代ですか.......(^^ゞ
当時はジャン=クロード・ヴァン・ダムを見ていました。ムキムキの筋肉脳アクションではなくて、ちょっと悩める男の雰囲気があって案外良かったのです。次第に見なくなりましたけれど。いつの間にか『その男 ヴァン・ダム』(2008年)なんて落ち目の自分を描いた作品が出てくる始末。悲しくて見ていません。
最近は『エクスペンダブルズ2』 (2012年)だの、『ユニバーサル・ソルジャー 殺戮の黙示録』 (2012年)だの、禿頭の凶悪な人物で気に入らない。この作品でやっと在りし日のヴァン・ダムを見たような気がしましたね。頭髪もフサフサしています。作品は少女の密売組織と戦う話で、ありきたりな筋と演出で何も言うことはありません。原題と冒頭での挫折シーンに少し期待したのですが、良くも悪くもこれがヴァン・ダム印です。


☆☆☆○○
トータル・リコール 邦題 トータル・リコール ディレクターズ・カット
原題 Total Recall
制作 2012年 上映 133分
監督 レン・ワイズマン 地域 アメリカ
オリジナルを「SF映画選」で取り上げているリメイク作です。アメリカでは評判がパッとしませんでした。日本ではそれほど悪くはないようです。アメリカではSF作品が山のように作られてきて目が肥えていることもあるでしょうが、SF映画とは認められないからだと思います。僕もそう思っています。劇場版も見ていますが、ディレクターズ・カット版は長くなった分だけ退屈します。
オリジナルと同じようなものを作るならリメイクなんかいらないという、真っ当な考え方から作られた作品のようです。そのために話をシンプルにして、SFと言うよりはアクション作品に衣替えさせたと言えそうです。ローリーを死なせずにマイケル・アイアンサイドのリクター役を消して後継したこと。ケイト・ベッキンセイルのローリー役はコーヘイゲンの命令をちっとも聞かないので、伏線らしきものもなくなりました。火星を消したことでエイリアンの文明もなし。
こんなわけでオリジナルのミステリー色や神秘性が薄まったりなくなったりしました。SF的な楽しみのメカを描くシーンもなくなりました。これは何でもCGで済ませることができる時代になってしまったための弊害とも言えそうです。地球のタクシーと火星のタクシーも面白いシーンだったわけですが、これもなくなりました。アンドロイドはヘルメットを被ってしまったために、見かけが人間と同じになってしまいビジュアルな楽しみも減じています。
CGの進歩は火星にこそ発揮できる要素だったのですが、SF作品としてのオリジナルの楽しみだった部分はほぼ姿を消したと言っていいでしょう。この作品でCGが一番発揮されているのが街の表情です。話の展開とは逆に複雑でリアルな描き方になっており、ゴチャゴチャしてしまっています。レン・ワイズマン監督だからダークな色調になることは予想していましたが、ゴチャゴチャ感と相まって画面が汚くなった印象です。
洒落た台詞も消えてしまい、キャラクターに魅力を感じられる人物が一人もいません。この作品と比べるとオリジナルのキャストはそれぞれに魅力があって良かったことがわかります。シャロン・ストーンのローリーは小悪魔的な魅力がありましたが、ケイト・ベッキンセイルはただの殺し屋でしかないし、レイチェル・ティコティンのメリーナは意志や筋肉質の強さを感じさせましたが、ジェシカ・ビールはレジスタンスの闘士どころか弱々しい恋人でしかない。コーヘイゲンも威厳がありません。どこかの部署の部長みたい。
そして何よりももっと夢や記憶を大事に扱って描いてほしかったですね。オリジナルでは敵側の「冷や汗」だったものがリメイクでは味方の「涙」に変更されていますが、これでは意味をなしません。結局、「リコール」は背後に押しやられてしまいました。『アンダーワールド』シリーズを引き摺ったままのような感じです。大作ゆえの3つ☆です。


☆☆☆☆○
チキンとプラム〜あるバイオリン弾き、最後の夢 邦題 チキンとプラム〜あるバイオリン弾き、最後の夢
原題 Poulet aux prunes
制作 2011年 上映 92分
監督 マルジャン・サトラピ
ヴァンサン・パロノー
地域 フランス・ドイツ・ベルギー
愛していなかった妻にヴァイオリンを壊されたヴァイオリニストが死を決意してベッドに潜り込み、死ぬまでの8日間を振り返る、ロマンティック・コメディ。ロマンティック・コメディと言い切っていいものかどうか知らないけれど。
ポスターどおりのお伽噺です。マルジャン・サトラピ監督はイラン出身ですが、フランス映画の色彩が濃いです。こういうタッチの作品が好きなので、評価は少々甘めです。サイレントの手法からアニメの手法まで、いろんな映像表現を取り込んで楽しませてくれます。マチュー・アマルリックをはじめとして多彩な出演者もみなさんはまり役でいいです。
話の展開は斬新ではありません。どころか、平凡と言えます。なぜ天才演奏家になれたかというエピソードもありきたりですね。でも、お伽噺だから許せます。この作品はストーリー展開を楽しむよりも演出を楽しむためのものです。
宣伝のキャッチコピーが「叶わなかった愛が、いちばん美しい」という弱気ですから、愛について考えるのではなく、アルバムをめくるように楽しんでください。
愛はそもそも叶わないものです.......(^^ゞ


☆☆★○○
ゲットバック 邦題 ゲットバック
原題 Stolen
制作 2012年 上映 95分
監督 サイモン・ウェスト 地域 アメリカ
原題とは異なる英語タイトルを付ける邦題が増えてきました。混乱の元になりそうです。
B級クライム作品として気軽に見れる作品です。つまり、B級作品によくあるエピソードをいくつか組み合わせて作ったお手軽な展開と演出です。サイモン・ウェスト&ニコラス・ケイジの『コン・エアー』(1997年)はそこそこ面白かったのですが、今回はなんか大ざっぱな作りです。まさにざっぱな作品が多いニコラス・ケイジはもう期待されていないのでしょうか。
銀行強盗中で殺人なし主義で仲間ともめて置き去りにされ、その逃亡中に証拠隠滅のため金を燃やしてしまいます。そして、たったひとり刑務所送りになった主人公ウィル・モンゴメリーが出所後に仲間に娘を誘拐されて、あの時の金を渡せと脅迫されるという話です。
流行の派手な立ち回りができないニコラス・ケイジなんですから、もっと頭脳戦を展開してもらわないと面白くなりません。それをやったのが『ナショナル・トレジャー』(2004年)ですよね。『コン・エアー』の監督はやはり前作の方向へと引っ張られたみたいです。敵役も含めてみんながそこそこトンマなので、盛り上がりに欠けます。
服役するシーンはすべて飛ばしていますのでそこでの葛藤もありません。刑務所は出所後の伏線をほのめかすための大切なシーンにできるはずなのに。
マリン・アッカーマンも中途半端な役でした。彼女の『キリング・ショット』(2011年)も面白くなかったし、『ロック・オブ・エイジズ』 (2012年)はどうだったのでしょう。いつか見るかもしれません。


☆☆☆○○
スペシャル・フォース 邦題 スペシャル・フォース
原題 Forces spéciales
制作 2011年 上映 104分
監督 ステファヌ・リボジャ 地域 フランス
劇場未公開作品です。フランスのミリタリーものということで敬遠されたのでしょう。戦闘の描き方はかなり緻密でリアルです。しかし、物語自体はタリバンに拉致されたジャーナリストを救い出す救出作戦ということで新しさはありません。
ヘリコプターでの救出に失敗して延々と雪山や砂漠を逃げ回るところがミソではありますが、これもすでにたくさんの逃亡作品で描かれています。タリバン敵視はともかくイスラム教まで批判的に描くあたり、結局西側視点しかない作品でもあります。
今年6月に公開された『ネイビーシールズ』(2012年)は30分ぐらいで離脱してしまいました。同じく素直なタイトルの『スペシャル・フォース』は兵士がひとり一人と倒れていく展開は退屈させない常道で最後まで見ることができますが、社会性の乏しい作品であることは否めません。ジャーナリストがレイチェル・ワイズだと深く掘り下げられることになって、戦闘の場面がもう少し背景に下がるところですが、ダイアン・クルーガーですからこういう展開になるのでしょう。ダイアンさんはスッピンどころか、傷だらけの顔で頑張っています。
ジャーナリストの命は数えられるけれど、兵士の命は数えられないというメッセージは政治家に伝わってほしいものです。


☆☆☆★○
トールマン 邦題 トールマン
原題 The Tall Man
制作 2012年 上映 106分
監督 パスカル・ロジェ 地域 アメリカ・カナダ・フランス
単なるサスペンス・ミステリーではなく、問題作です。児童虐待が問題になっている日本ですが、アメリカで頻発している幼児失踪事件を題材にしていて、関係者の中には傷つく人もいるんじゃないかと思います。テーマがはっきり打ち出されています。
タイトルからは「トールマン」というモンスターものと思わせ、次に邪教ものなのかと思わせ、その次はサイコものだと思わせ......というように定番のフォーマットを利用しながら、それでも何か異なる結末へと導こうとしていることを仄かに漂わせて物語は展開していきます。
これは巧い展開なのか下手な展開なのかよくわからないですが、このテーマならもっと違うストーリー展開があったのではないかと思えます。ジョデル・フェルランドのラストシーンが心に響くだけに、サスペンス部分に不満が残るというか、もったいないことをしたという感じでしょうか。


☆☆☆★○
リンカーン 秘密の書 邦題 リンカーン 秘密の書
原題 Abraham Lincoln: Vampire Hunter
制作 2012年 上映 105分
監督 ティムール・ベクマンベトフ 地域 アメリカ
荒唐無稽なお話だし、この監督はなかなか4つ☆にいかないしで、あまり期待せずに見ましたが、そこそこまとまっていて楽しめました。南軍がバンパイア軍団になるというのはやり過ぎですというか、南部は不愉快なのでは? これだけ大量に登場してくると、バンパイアでもゾンビでもいっしょみたいな感じになります。
CGで作られた風景はなかなかよく出来ていて楽しめますが、その一方でCGの使い過ぎが場面の迫力を奪ってもいて、それが残念です。アクション場面ではそれにスローを多用するやり方になり、アニメ風にも見えてきます。実写部分を増やすことができたら、もっと面白くなったことでしょう。
リンカーンに似せたり、歳を取らせたりのメーキャップはやはり巧いですね。ルーファス・シーウェルがバンパイアとはいかにものキャスティング。今までバンパイアになっていなかったのが不思議なくらいです。すでにやっているのかもしれないけれど。先月に見た『アメイジング・グレイス』(2006年)では珍しく善人の役をしていました。


☆☆☆○○
おしゃれ泥棒 邦題 おしゃれ泥棒
原題 How to Steal Million
制作 1966年 上映 126分
監督 ウィリアム・ワイラー 地域 アメリカ
つまらなそうと思っていたので、今まで見ていませんでした。オードリー・ヘップバーン人気でしょうか、一般的に評価が高いです。
でも、いくらコメディと言ったってタイトルになっている「盗む」部分がドリフターズのコントみたいに馬鹿らしい。車以外ではあまりお洒落とも思わないし。『ローマの休日』と同じ監督とは思えない出来だと思うのですが。
ピーター・オトゥールもハンサムなだけで魅力は出ていないし、テーンネイジャーみたいにキスするばかりで恋のロマンなんて描けていませんよ。
イーライ・ウォラックが伊達男を演じていたのにはびっくり。オードリー・ヘップバーンとのキスシーンまであります......(^_^) 『荒馬と女』 (1961年)ではモンローとの絡みも演じたことがあるし、役者としてやはり大物です。



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