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2012年07月


☆☆○○○
2300年未来への旅 邦題 2300年未来への旅
原題 Logan's Run
制作 1976年 上映 118分
監督 マイケル・アンダーソン 地域 アメリカ
内容とはまるで関係ない邦題です。しかし、客を呼ぶのには有効だったかもしれない、詐欺的な商売です。もちろん、『2001年宇宙の旅』(1968年)からのパクリです。『スター・ウォーズ』(1977年)以前の作品ですけれど、アメリカの一般的なSF水準からみてもかなり見劣りがする特撮です。日本のSF映画レベルですね。
なんでまた見るかと言えば、キャストが悪くないからです。マイケル・ヨーク、ジェニー・アガター、ピーター・ユスティノフ。そして、ブレイク直前のファラ・フォーセット=メジャース。もっとも演技を求められるような作品ではありません。完成後に作品の出来を見て俳優たちはみんな騙されたと思ったんじゃないでしょうか。
原作小説があるのですが、そっちの出来はどうなんでしょう。2274年、人口を抑制するために30歳になるとリニューアルされるコンピュータ管理社会の話です。管理社会ものなので当然反乱につながるのですが、まったくドラマになりません。
未来社会がどう維持されているのかわからないままだし、登場する人数が少ないから人口調節どころか絶滅寸前に見えてしまうし、コンピュータの反応は20世紀レベルだし、美術もお話になりません。音楽も効果音もセンスなし。登場人物たちの言動も小学生レベルです。マイケル・ヨークとジェニー・アガターは無意味に服を脱いで、サービスカットまるだし。ちなみにノーブラ社会でもあります。
手のひらにウルトラマン・タイマーを貼り付けるというセンスが象徴する失敗作です。でも、このバカバカしさはもう一度ぐらい見る気がする......(^_^) この駄作がブルーレイになる理由がそこにあるのかも。
一度の公開限りで見られなくなる傑作もあれば、繰り返し見られる駄作もあります。やはり映画は芸術じゃありません。アメリカ版ポスターは楽しそうです。


☆☆☆★○
プロメテウス 邦題 プロメテウス
原題 Prometheus
制作 2012年 上映 124分
監督 リドリー・スコット 地域 アメリカ
日本では8月公開予定です。一足先に見ました。前日譚だとか、そうではないとか噂が交錯していました。そもそも舞台になる衛星が異なるので、基本的には『エイリアン』(1979年)とは別の話です。しかし、前日譚と思えるようなシーンが時々出てきます。『エイリアン』を意識しながらも、『エイリアン』の前日譚にならないように巧妙に設定されています。『エイリアン』シリーズとの整合性に問題が出てきますから。
『エイリアン』で登場した難破船の化石化したエンジニアは神秘性があって話の本筋とは関わりがないのに作品に奥行きを与えていました。今回は造物主というテーマを持ち出してはみしましたが、まるで神秘性のないありきたりなエピソードになってしまっています。それはこの探検の動機自体が安っぽいものになってしまっているので、避けられない展開だったと言えます。結局、エンジニアを描くのか「エイリアン」を描くのかどっち付かずで、『エイリアン』以降たくさん作られた亜流作品のひとつになってしまったと言えるかもしれません。
また、無神論の作品なので、アメリカではウケが良くないでしょう。神がいないだけでなく、哲学もありません。リドリー・スコットだから当然と言えばその通り。ただし、「旧約聖書」で神が人間を作ったことを後悔して洪水を起こすエピソードを踏まえています。「人類の起源を描く」などと盛んに宣伝するやり方は片腹痛い。
大作だけあって登場するデバイスに面白いものがあるし、CGは言うまでもなく大作に見合ったものだからSF的な楽しみはあります。しかし、ほとんどのCGたっぷり作品に見られる中身の薄さがどうにもなりません。企画段階でいろいろと混乱があったようですから、こういうつまらない脚本に結実してしまったのでしょうか。いろんな場面が他のSF作品で使われたネタで作られてもいます。
話の展開が散漫で、演出も『エイリアン』の時のような冴えがまるでありません。クライマックスシーンの決死の動機付けも弱いので、感動が湧きません。ジェームズ・キャメロンに作ってもらった方が良かったですね。シガニー・ウィーバーも出演しなくて正解でした。古代の遺跡からエイリアンからの招待状を見つけたという設定からして既視感があり、脚本どうのこうのより、すでに原案からしくじってしまっているわけで、登場人物たちもみんな輝いていません。エイリアン・デザインもB級イカかも。
とにかく、エンジニアにも「エイリアン」にもがっかりさせられる作品でした。大作ゆえのおまけ評価です。続編を作らないことを期待します。『エイリアン』(1979年)はSF映画選で取り上げています。


☆☆☆★○
アウェイクニング 邦題 アウェイクニング
原題 The Awakening
制作 2011年 上映 107分
監督 ニック・マーフィ 地域 イギリス
寄宿舎が舞台の幽霊屋敷ものです。イギリスはもともと降霊術が好きな国柄ですが、第1次世界大戦後降霊術が流行ったんだそうで、冒頭に降霊会で主人公フローレンスがそのインチキを暴く実力を見せます。降霊の呪文で「メメント・モリ」と何度も唱えていましたが、こういう事実があるのでしょうか。それはともかく、実力を紹介する前置きとしては少し軽い感じは否めません。
数多ある幽霊屋敷もので新味を出すのはなかなか難しいのですが、これは成功しています。なかなか面白い設定でした。イギリスらしい設定だし映像もそれなりの雰囲気があるのですが、何か映像が物足りませんでした。特にゴーストの映像がだめ。あまり怖くない作品なので、こわがりにはいいです。ラストも謎を残して余韻があります。恐怖よりも哀愁に重点を置いたゴシック・ホラーでした。


☆☆○○○
 邦題 ゴッド・ブレス・アメリカ
原題 God Bless America
制作 2012年 上映 104分
監督 ボブキャット・ゴールドスウェイト 地域 アメリカ
『ダークナイト ライジング』の上映館でジョーカーを気取る大量殺人があったので、アメリカではこの作品は今なら上映できないでしょうね。家庭崩壊と失業と脳腫瘍で絶望したフランクはかねてから夢想していた殺人を決行。相手は世の中をダメしているヤツという設定になっていますが、どうみても自分が気に入らないヤツです。そこに女子高生も合流する殺しのロードムービーです。
とうの昔から狂っているアメリカには殺人ロードムービーはたくさんありますが、コメディ色が入り込んでいるところが少々変わり種。社会性があるかに見せて、実は単なるウケ狙いのような気がする作品です。単に邪魔になった人まで殺すし、自分のワガママ娘は殺さないし、ただの自己チュー不満でしかない。アメリカは狂っていて、主人公も狂っていましたということでしょうか。それなら映画館の大量殺人と何も変わりがない。


☆☆☆○○
依頼人 邦題 依頼人
原題   英題:The Client
制作 2011年 上映 123分
監督 ソン・ヨンソン 地域 韓国
法廷サスペンスです。アメリカ映画にアシュレイ・ジャッド主演で『ダブル・ジョパディー』(1999年)というのがありましたが、それも絡んだような作品です。
法廷場面の盛り上がりに欠けていてあまり意外性のない展開です。それでも最終弁論での手法はなかなか面白かったです。
どの役にも魅力がないのとラストシーンでの決着の付け方が安易で、これが標準作にとどまった理由ですね。これで2時間たっぷりは長すぎます。
ちなみに法廷劇と言えばアメリカ映画ですから、やはり『依頼人 The Client』(1994年)という映画がありました。英語タイトルも同じです。こちらはスーザン・サランドン主演で、助演は『ダブル・ジョパディー』と同じくやはりトミー・リー・ジョーンズ。話自体はともかく、こちらは主な役に魅力があります。


☆☆☆○○
ローマ法王の休日 邦題 ローマ法王の休日
原題 Habemus Papam
制作 201年 上映 105分
監督 ナンニ・モレッティ 地域 イタリア
コメディと聞いていたし、予告編もそれ風でしたがこれはかなりのシリアス・ドラマでした。もちろんユーモラスなシーンがいろいろとあります。しかし、タイトルからも予想がつくように落ち着くべきところへ収まると思っていたら大間違い。
枢機卿たちに野心家はおらず、みなさん人間味豊かな善人として描かれています。逆に敬虔さはあまりなさそうで、バチカンの皆さまにはあまりうれしい描き方ではないでしょう。コンクラーヴェは予想外の展開で、法王にされてしまった主役メルヴィルはローマの街に逃げ込んで『ローマの休日』みたいなことになってしまうわけです。もちろん色恋沙汰はありません。ミシェル・ピッコリの存在感はさすがで、むしろ法王をやれますよと思うぐらい。セラピストに自分は俳優だと嘘をつくシーンがあって、この嘘は実人生では本当なわけで、なんともややこしい。
原題タイトルはイタリア語ではなくラテン語らしく、新法王が決まった時に言う言葉とか。邦題タイトルは「ローマの休日」を踏まえたのでしょう。これがただのコメディだったらそれもいいと思いますが、メルヴィルの人生がどんな風に変わってしまうのか見当がつかない作品です。考えてみれば僕らが予想する結末は物語の定番です。しかし、実人生はむしろそれは難しく、こういう事態が生じるのは神が許せるほど多くはないでしょうか。そうは言うものの、バチカンには神はいないという皮肉にも見えてしまう作品です。


☆☆☆★○
The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛 邦題 The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛
原題 The Lady
制作 2011年 上映 133分
監督 リュック・ベッソン 地域 フランス
リュック・ベッソンにとっては今回は異色の作品です。映画を見ているだけではベッソン作品だとわかりません。主演のミシェル・ヨーがベッソンを呼び込んだらしいです。
ミシェル・ヨーは好きな女優です。今までもアクション俳優だけではない演技を見せてくれていたので、それほど意外感はありませんでしたし、実際適役だったと言えます。副題の通り、家族との愛を主題に据えた作品です。しかし、当然政治の動きも描かれるわけですが、背景説明が一切ないのでわかりにくいです。ミャンマー以外の国の人にとってはそんなに詳しいことは知らないはずだから、もう少し説明を入れてほしかったですね。
脚本のセリフもすこしかたかったように思います。ミャンマーでは姓がないので、アウンサンスーチーというのが名前だそうです。2010年にようやく解放されて今は議員として活躍されていますが、彼女の映画がもっと昔に作られれていたら、もう少し状況の改善が早かったかもしれません。
民主主義が機能しない日本ですが、ミャンマーの歩みを見ているとこんな民主主義でも容易に手放してはならないと思えます。少なくとも日本ではまだ発言する自由や行動の自由が守られているのですから。


☆☆☆☆○
屋根裏部屋のマリアたち 邦題 屋根裏部屋のマリアたち
原題 Les femmes du 6ème étage
制作 2010年 上映 106分
監督 フィリップ・ル・ゲ 地域 フランス
原題は「6階の女たち」です。アパルトマンの6階が屋根裏になっているんです。時代設定、登場人物の配置、職業の設定、話の展開とうまい脚本です。キャストもいいです。今月のお勧め作品ですね。
1960年代のフランスに内戦後のフランコ軍事政権を逃れてメイドとして働くスペイン女たちと資産家の株屋の中年主人公との交流、そしてその初々しい恋を描いた作品です。スペイン人のマリアが現れなかったらたぶんそれなりに幸せだと思いながら、傲慢なフランス人とも気づかずに人生を終えたことでしょう。しかし、もう家庭に幸せを見いだすことができずに、自分が変わっていくことをうれしく思う主人公ジャン。ファブリス・ルキーニもいいけれど、マリア役のナタリア・ベルベケが輝いています。
これは男の身勝手な夢を描いた作品でもあります。資産家で傲慢な人が見ても面白くない作品でもあります。フランスでは大ヒットした作品だそうで、こういう映画を愛せるフランス人も好きになります。


☆☆☆★○
世紀の謎・空飛ぶ円盤地球を襲撃す 邦題 世紀の謎・空飛ぶ円盤地球を襲撃す
原題 Earth vs. the Flying Saucers
制作 1956年 上映 83分
監督 フレッド・F・シアーズ 地域 アメリカ
SF映画史の1コマとして残る作品です。今からみれば稚拙としかいいようがない特撮ですが、レイ・ハリーハウゼンが好きな人にはストップモーション・アニメのなんとも言えない円盤の動きがたまりません。しかし、人間の演出部分がかなり大ざっぱなのと、特撮部分とのシーンの噛み合いがうまくいっておらず、白けた雰囲気が漂っているのは否定しがたいです。あまり調整せず撮影していたのでしょう。
目の前には何もないのに、さも大惨事が起こっているかのように演じることに慣れていないのか無表情というシーンも散見されます。それでも脚本はよく出来ており、全体的な雰囲気として昔はこんな事件があったみたいな錯覚がしないでもない面白さはあります。
実は今回はモノクロではなく、着色版で見ました。これが予想を上回る出来でカラーで撮影されたものが少々古びたような色合いに再現されていて感心しました。SF映画選の「月世界旅行」で『キングコング』(1933年)の着色版を紹介しましたが、今回は植物の緑まで自然な感じです。ここまで来ると着色版は作品への冒涜とは一概には言えません。あえてモノクロにした作品ならともかく、技術的・経済的にモノクロにせざるを得なかった作品であれば、リメイクとして十分受け入れられるものです。実際、色の変化が宇宙人の評判の悪いコスチュームにもメリハリを与えていて存在感がありました。


☆☆☆★○
マルタイの女 邦題 マルタイの女
英題 Woman in Witness Protection
制作 1997年 上映 131分
監督 伊丹十三 地域 日本
伊丹作品の特徴のひとつは多彩な登場人物にありますが、この作品も破綻なくみんなよく活躍していると思います。登場人物の多彩さでは三谷幸喜作品も同じ。しかし、笑いの質がまるで異なるので、三谷脚本が採用されなかったのは当然の成り行きです。
車のシートベルトのような細かいところにまで笑いを詰める演出はお見事と思います。しかし、何かこの作品には新しさというか新鮮さがありませんでした。それはオウム真理教事件に引っ張られすぎて、独自の演出が出来なかったことです。そして、宮本信子にクレオパトラを演じさせるのは無理がありました。真剣に見ることもできないし、お笑いにもならないし、どうすればいいのやら。
また、作品のクライマックスにはアクションシーンを持ってくるのが常道になっているわけですが、日本映画はアクションが苦手ですから白けてしまうのです。カルト側の襲撃がバットと火炎瓶という武器ではあまりにお粗末だし、守る警察側もあまりに暢気な対応です。 細かい演出は光っているけれど、全体の構想が今ひとつ。ラストシーンがお堅い言葉になってしまったのは、きっと彼自身が当事者になった経験によるもので仕方ない。しかし、表現者であるならスピーチではなく、俳優らしい演技で決めてほしかったですね。これが監督の遺作になったのはかなり寂しい。


☆☆☆○○
だれもがクジラを愛してる。 邦題 だれもがクジラを愛してる。
原題 Big Miracle
制作 2012年 上映 107分
監督 ケン・クワピス 地域 アメリカ
1988年のクジラ孤立事件なんてまったく記憶にありません。日本でも報道されていたんでしょうか。グリーンピースの活動家をドリュー・バリモアが演じています。こういう役はほんとに彼女のはまり役です。
アラスカ現地の捕鯨の問題や石油採掘会社、米ソの政治家、ジャーナリストがそれぞれの思惑で救出活動に乗り出す様子を、グリーンピースの活動家とジャーナリストの恋をからめながら描いています。クジラの映像はよく出来ています。CGだけで済ますことができない映像になっているので、大変だったでしょう。実話ものではありますが、話の展開にミラクルはありません。定番です。ベイビー・クジラは犠牲になります。
邦題は作中のセリフからのものです。このタイトル通り、みんなそれぞれの思惑はありますが、「だれもがクジラを愛してる。」からでしょう。しかし、それはクジラでなくて、他の動物であっても良かったのだろうと思います。かかわれば想いが深くなるのが動物の心ですから。
しかし、この邦題は日本人に通ずるかは微妙。日本はちょうど88年に北太平洋での商業捕鯨をやめて調査捕鯨へ移っていく過渡期にあって、助かった2頭は捕まることはなかったでしょうけれど、これを食っちゃったら対米ソ戦争になったことでしょう......(^_^)


☆☆☆★○
リンカーン弁護士 邦題 リンカーン弁護士
原題 The Lincoln Lawyer
制作 2011年 上映 119分
監督 ブラッド・ファーマン 地域 アメリカ
マイクル・コナリーの同名小説の映画化です。マシュー・マコノヒーの弁護士役は似合います。金のためにせこい手まで使う弁護士役だからまた似合う。ところが、突然正しいことをしたいと良心的な弁護士に変身してしまうあたりがうまく描けていないので、主人公から距離を保ったまま終わってしまいました。ライアン・フィリップの悪役ぶりももう一工夫ほしい。
残念ながらよくあるキャラの配置とサスペンスの展開で、サスペンス好きなら最初から筋が読めてしまうかも。そういう定番に変わり種の弁護士をくっつけたところが今回のバリエーションです。しかし、法廷での取引ではやはりせこい手が有効に使われていてそこは面白かったです。
共演のマリサ・トメイはぱっとしない役回り。彼女がアカデミー助演賞をもらった作品は『いとこのビニー』(1992年)という、やはり法廷もの。ただし、コメディ。ヘマを連発する冴えない新米弁護士の恋人役で大活躍します。一度見たら忘れられない魅力です。


☆☆☆○○
エジプト人 邦題 エジプト人
原題 The Egyptian
制作 1954年 上映 139分
監督 マイケル・カーティス 地域 アメリカ
原作はミカ・ワルタリの同名小説(1945年)。映画としてはよく取り上げられる時代のアメンホテプ4世(イクナートン)治世。アテン信仰という一神教の始まりとその混乱の時代ですね。歴史的事実をいろいろ組み合わせて編んだフィクションですが、主人公のキャラにモーゼとイエスを重ね合わせたような塩梅になっています。映画の終わりに、イエスが生まれる13世紀も前に起きた物語だと記されていることからも、そういう意図があったのでしょう。
バビロニアの妖婦役としてマリリン・モンローが希望していたそうですが、似合わないと思います。もちろん、モンローだったらどう演じたか見てみたいとは思います。ベラ・ダルヴィが演じたこの役はよく似合っていたと思いますが、中途半端な描き方でしっくりきません。ジーン・シモンズの酒場の女メリットも活かせていません。これは作品全体に言えることで、大作のように見えてどこかB級感が漂います。特撮もかなりいい加減。
アメリカ映画はエジプトものが好きですが、こういう作品をエジプト人が見ると、日本人がインド人を演じた『釈迦』(1961年)みたいな違和感がきっとあるんでしょうね。また、まだ黒人差別が厳しい時代ですから、黒人の役柄も固定されています。


☆☆☆☆○
キック・アス 邦題 キック・アス
原題 Kick-Ass
制作 2010年 上映 117分
監督 マシュー・ヴォーン 地域 イギリス・アメリカ
公開時見た時には苦手な過激バイオレンスと子どもに殺戮させることの気分の悪さに、楽しむことができないブレーキがかかっていました。日本ではR15+に、アメリカではNC-17だったはず。15禁と18禁ということです。出演する俳優にはその規制がかかりませんから、ヒット・ガールを演じたクロエ・モレッツは12歳ぐらいでした。アメリカでも道徳的な批判がずいぶんあったと聞いています。
それにもかかわらず、この作品は映画としての出来が良かったので、やはりまたこうして見ました。脚本の良さ、シーンの切り替えのうまさ、音楽の使い方もいい。素晴らしい演出です。
映画が好きな人間というのは一般的に道徳的な人間じゃありません。映画の大半は人間の悪を描いていて、それが楽しくて見ているわけですから。しかし、そんな言い訳をするために今書いているわけではありません。「ヒーロー」とは何者なのかという視点でこの作品を見ると、この作品で描かれたバイオレンスが単に気分が悪いということにとどまらず、かなりの痛みを伴って観客に届いてくる部分があると思えます。「ヒーロー」という言葉の代わりに「正義」としてもいいかもしれません。
タイトルになっている主役キック・アスはヒーローとして主だった活躍をせず、ちょっと脇によって眺めています。この位置こそがこの作品の要ですね。カッコいいヒーローが悪人をぶちのめすのなら爽快ですが、キック・アスは自らも血まみれになり、死にも瀕しながら、ビッグ・ダディとヒット・ガールが犯す「殺人」にひるみます。ここには爽快感はありません。理由はなんであれ、ただの暴力ではないかという疑念が生じているように思えます。
物語の展開とともに結局は暴力の渦に巻き込まれていくことになってしまいますが、子ども、それもいたいけな少女に激しい暴力を振るわせることで、暴力の悪徳性を浮かび上がらせようとしている節があります。もちろんコメディでもあるし、まずはエンターテインメントですから、演出そのものは悪徳を楽しむかのような過剰さがあります。
娘を殺人マシーンに鍛え上げた父親なのに、ニコラス・ケイジは今までの作品で見たことがないような優しい表情をしていて、いい演技でした。これも暴力と対比させるためだったのかもしれません。そういう見方をすれば、この不道徳な作品は数多のヒーローもの作品よりも実は道徳的な作品である可能性があります。平和を生み出すための戦争というものも、やはり同じ構図でしょう。今のシリーズのバットマンが、『ダークナイト』(2008年)から追われる身になったのも、実はこうしたアメリカ人の疑念が広まりつつあるからかもしれません。
続編が準備されているそうですが、期間が空いたので、成長期のキャストを使った関係でキャスティングは一新される可能性が高いですね。クロエ・モレッツはやる気満々とかいう声も聞きますけれど。


☆☆☆○○
プリンセス・カイウラニ 邦題 プリンセス・カイウラニ
原題 Princess Ka'Iulani
制作 2009年 上映 98分
監督 マーク・フォービー 地域 アメリカ
日本と馴染みが深いハワイの最後の王女なのにあまり知られていないせいか、こんなに遅れたのはそもそも日本公開する気がなかったのでしょう。併合される側はいつもその歴史を消されてしまいます。当時、英米でカイウラニは「Barbarian princess」と呼ばれていたそうです。欧米以外はみんな野蛮人扱いですからね。マーク・フォービー監督が脚本も兼ねていますが、ハワイ旅行がきっかけだったということですから、監督もそれまでは知らなかったのかもしれません。
こういう伝記めいたものは駆け足になるところですが、ハワイのために活躍できる時期を逸していたことや23歳で死去したこともあり、そこそこ描けていたようです。「美人」がずいぶん強調されていて、それで影響力を持ったみたいに思える節も見受けられますが、主演のクオリアンカ・キルヒャーの瑞々しい演技は良かったです。もう少し時代を遡って、ハワイならではの雄大な自然を背景にした王国の姿も見せてもらいたかったです。もっとも初監督で明らかに資金不足らしいのがわかりますから、やむを得ないのかもしれません。
欧米列強から狙われて、結局アメリカに併合されたハワイを見ていると、日本と琉球の関係を想起させられます。米軍基地問題を中心に、現在もヤマトから差別され続ける沖縄の無念はいかばかりか。まもなくオリンピックです。「なでしこジャパン」という時に沖縄は視野に入っているのでしょうか。


☆☆☆☆○
 邦題 スーパーの女
英題 Supermarket Woman
制作 1996年 上映 127分
監督 伊丹十三 地域 日本
伊丹監督の得意分野ですから失敗作にはなりません。テーマが決まった時点でヒットの予感があったことでしょう。この映画はスーパーに影響を与えたと言われていますが、現在のスーパーと無縁かと言えばそうとは思えないです。お店の中でもよく出入りする店ですから、欠点が目につきやすいですね。
僕が利用する何店かを思い浮かべてもどの店も商売が下手だなあと思います。客の意見を聞くようなスーパなんてありませんし、どの店でも共通する問題は商品の場所がわからないということ。老人が増えているのだから、もっと丁寧な表示をすればそれだけでも売り上げが増えると思いますね。同時に商品や料理関連の情報とかも提供して商品をもっとアピールしたらいいのに。
伊丹作品にはずっと「食」へのこだわりがあったのですが、なぜか食をテーマにしたこの作品には今までのこだわり色が出ていません。不思議です。お客様視点第一と競争を物語の骨子にしています。
主役の二人が街を見下ろすシーンで住民の生活に思いを馳せるのですが、もう一歩進めて1家族の家庭に入り込んで、そこからスーパーの存在意義を見つめる視点もほしかったと思います。そこにもコメディになる要素がたくさんあったと思うのですが、スーパーに主婦を呼び込むだけで終わってしまいました。
リアリティに欠けるところもいろいろありますが、コメディだから気にしないではなく、その荒唐無稽の堀を埋めてリアリティを高めるような工夫はほしいです。不得意なアクション場面はない方が良かったです。
しかし、なんでもないスーパーを多面的に取り上げ偽装などの問題を批判して働くことの意義にまでつなげ、ちゃんと笑えるコメディに仕上げる手腕はたいしたものです。こういうコメディを作れた日本の監督は彼だけです。公開当時、劇場で見ましたが、みんな声を上げて笑っていました。


☆☆☆★○
崖っぷちの男 邦題 崖っぷちの男
原題 Man on a Ledge
制作 2012年 上映 102分
監督 アスガー・レス 地域 アメリカ
ビルからの飛び降りと言えば、『ザ・レッジ - 12時の死刑台 』(2011年)がありました。つまらない作品でしたが、こちらはいろいろと既視感のあるシーンが多いものの、前半のストーリー展開が良かったので面白く見れました。邦題はヒッチコック作品みたいな古風さがあるのですが、そんなとは無縁です。
しかし、もっと演出に工夫があれば4つ☆作品になれたのに、詰めが甘いです。ずぶの素人が厳重な金庫に忍び込むにはもっと周到な計画を準備すべきだし、その忍び込みの演出がありきたり過ぎます。わざわざ先が読めるような演出の仕方もダメですね。サスペンスの「親切」は余計なお世話です。
女刑事エリザベス・バンクスが物わかりが良すぎるというのもサスペンス度を下げています。ビルの窓棚で動きが出てからはみんな約束事みたいな演技ですから、アクションになっていません。
エド・ハリスから宝石を取り返すところも先が読める親切な演出で残念。ここはもう一番、エド・ハリスとの対決を見せてもらいたいところ。エド・ハリスをキャスティングした意味がありません。監督デビュー作だそうですから、まあがんばりましたね。


☆☆☆★○
さらば復讐の狼たちよ 邦題 さらば復讐の狼たちよ
原題 譲子弾飛  (英題:Let the Bullets Fly)
制作 2010年 上映 132分
監督 チアン・ウェン 地域 中国
中国の歴代興行収入ナンバーワンだそうです。監督のチアン・ウェンが主演です。コメディ色のあるアクションですが、全体的にゆったりした雰囲気が漂っています。西部劇でもあり、復讐ものでもあり、チョウ・ユンファが二役の影武者ものでもあり、パロディもあり、いろんな工夫があって面白い作品になっているのですが、セリフが多いせいか字幕ではすこし疲れます。
いろんな工夫がまだ消化しきれていない嫌いがあって、もっと面白い作品になっていいんじゃないかという気持ちが残ります。邦題は意味不明。『運命の子』(2010年)でもいい演技をしていたグォ・ヨウがいい味を出していました。この作品では彼が一番光っていました。ポスターでは左端の俳優です。
印象深いラストシーンも含めて社会風刺もあります。中国もこの程度なら許されるのだな。


☆☆☆★○
ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して 邦題 ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して
原題 The Big Year
制作 2010年 上映 100分
監督 デヴィッド・フランケル 地域 アメリカ
1年の間に北米で見つけた野鳥の種類数を自己申告して競う「ザ・ビッグイヤー」という競技会をモチーフにしたコメディで、男3人のそれぞれの家族模様が描かれます。鳥を家族にしている僕はやっぱり見逃せない......(^_^) しかし、「ザ・ビッグイヤー」が「ビッグ・ボーイズ」に化ける邦題のセンスはどういうトリ違えだろうか。原作ノンフィクションの邦題は「ザ・ビッグイヤー」というタイトルです。
コメディというよりはドラマ色が強いです。主演はジャック・ブラック。嫌なヤツはオーウェン・ウィルソン。スティーブ・マーティンとはこの前に見たのはいつだったか思い出せないぐらいご無沙汰。笑いを取るようなことはせず、ほのぼのとした爺さんを演じています。 『釣りバカ日誌』のハマちゃんと社長の構図がちょっと入り込んでいますね。
取り立てて何か言うべきものがある作品ではなく、それが最近では珍しいくらい素直な映画です。どうやって撮影したんだろうと思うぐらいいろんな野鳥が出てきますが、現実と同じく鳥のシーンはさっと飛び去ってしまいます。競技にのめり込んで家族を失う優勝者と、優勝はできなくとも家族を愛し、愛される者。やはり、人は鳥ではなく、人を家族にしていた方が幸せだという、そんなことがしみじみと身にしみる大きな1年になったというお話、でしょうか。いいえ、やっぱり鳥を見るのは楽しいんだな。


☆☆☆★○
ターミネーター 邦題 ターミネーター
原題 The Terminator
制作 1984年 上映 108分
監督 ジェームズ・キャメロン 地域 アメリカ
見るのは20年ぶりぐらいかもしれない。無名とまでは言えないけれど、当時まだブレイクしていなかったジェームズ・キャメロンとシュワルツェネッガーがスターダムの階段に足をかけた作品です。しかし、クライマックスシーンではシュワルツェネッガーが登場しない変わり種でもあります。
当時はB級作品として見ていなかったけれど、今見るとSFXを含めて予算を切り詰めているのがわかるB級作品ですね。マイケル・ビーンもリンダ・ハミルトンもあまり魅力を感じないし。唐突な愛の告白は見ているこちらが恥ずかしくなる。リンダ・ハミルトンは『ターミネーター2』(1991年)の方が良かったですね。双子の姉も登場して驚かされたし。後にキャメロン監督と結婚してまた驚かされました。
警察署に匿われたサラを追ってターミネーターがやってきた時に、サラがいることをぺらぺらしゃべる受付警官なんてありえないように、この作品にはかなりツッコミが入れられます。感情のないターミネーターに表情が出るのもおかしなものです。これは宇宙空間で音が聞こえるみたいな映画的演出だからいいのですが、こうしたアラを気にさせない突破力が演出にあったということでしょうか。しかし、スリル感を下げるような間合いが時々あって、今では4つ☆はあげられません。


8日にアーネスト・ ボーグナインさんが95歳で逝去されました。アカデミー主演男優賞が55年の『マーティ(Marty)』です。僕はまだ生まれていません。『北国の帝王』(73年)など忘れられない作品がいくつもあります。最近は『RED/レッド』 (2010年)でお見かけしましたが、この年まで演じ続けてくれたのだから、「もっと」とは言えませんね。主演男優賞を取った後でも卑怯者の役もいくつもやっていますけれど、なかなかこういうことはできません。SF映画選で取り上げている『ガタカ』(97年)では掃除夫の役をしていました。映画を愛してこそです。



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