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2012年03月


☆☆○○○
セットアップ 邦題 セットアップ
原題 Setup
制作 2011年 上映 85分
監督 マイク・ガンサー 地域 アメリカ
『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 1』(2011年)は退屈な結婚パーティーが延々続くところで退散。これもつまらなさそうなB級とは思いましたが、ブルース・ウィリスが出ていたので見ました。ギャングの金を強奪するという発端から、ほぼストーリーが予想されてしまうわけですが、やはり定番のコースでしたね。
間抜けなボスをブルース・ウィリスがやり、それに続く殺し屋たちも間抜けだし、ピシッと締まるところのない話です。新味を出すために親子の情や友情を絡ませるのですが、これがちっとも描けていないから響くところがなし。監督は何を描くのかわからないままに終わってしまったみたいです。セットアップには楽な仕事という意味があるようで、監督には楽でなかったようです。


☆☆☆○○
長ぐつをはいたネコ 邦題 長ぐつをはいたネコ
原題 Puss in Boots
制作 2011年 上映 90分
監督 クリス・ミラー 地域 アメリカ
「シュレック」のスピンオフ作品で、前日譚としての扱いです。アニメキャラとしてはやはり代表選手ですね。絵になります。マザーグースにジャックの豆の木に金の卵を産むガチョウなど、いろんなものをパロディにした冒険コメディ。
いつものことながら絵の表現はよく出来ています。コメディとしても笑えます。音楽もうまく使われています。声優はいかにものアントニオ・バンデラスとサルマ・ハエック。
文句はないのだけど、どのシーンも見飽きてしまった感じがして、時々退屈になります。適宜、歌とダンスが挿入されるパターンはボリウッド映画みたいな。ストーリー展開にもう少し工夫がほしかったですね。


☆☆☆★○
 邦題 ファイナル・デッドブリッジ
原題 Final Destination 5
制作 2011年 上映 92分
監督 スティーヴン・クエイル 地域 アメリカ
このシリーズは第1作目『ファイナル・デスティネーション』(2000年)を見てからはご無沙汰。そこそこ面白かったのですが、残酷な死に方を見るのが嫌だったからです。この5作目は橋の崩壊シーンがすごいと聞いていたので見ました。この監督は『アバター』(2009年)でパート監督をやっていたでけあって、たしかに冒頭のこのシーンはほんとによく出来ています。これを劇場の3Dでいろんな物が飛んでくるのはゴメンだなと思えるほど。見たのは2Dのブルーレイです。
しかし、見るべきものは冒頭のこのシーンだけ。あとはB級の、いつもの展開です。いくらあがいても最後にはみんな死ぬというのでは、回避するためにいろいろと苦労する楽しむがなくなるわけで、もうひとつすっきりしないものがありますね。むしろ自然ルールから外れたイレギュラーを残した方が余韻があると思うのですが。今作ではまわりの人まで巻き込んで死んでいるし、1作目もこんな感じでしたでしょうか?主人公のサム役のニコラス・ダゴストがほんわかした雰囲気を醸しているので、こわがりの yu にはいい緩衝材になりました。


☆☆☆☆○
タンポポ 邦題 タンポポ
英題 Tampopo
制作 1985年 上映 115分
監督 伊丹十三 地域 日本
やはり面白い。たぶん3回目か。先月の『お葬式』の欲求不満解消に見たのはやはり次作。『お葬式』では話が逸れて別のエピソードも紡いでいきたいという気持ちが感じられましたが、今回はそれを我慢することなく、本編のストーリーに別エピソードが挿入される形。いろんな映画からのスタイルを取り込んで、こんなのもあるよ、とお披露目したいんだな。そもそもが蘊蓄(うんちく)おじさんですから。
日本映画にやたらと職業ものが多いのは彼の影響もあるのかもしれない。あるいは日本人の心性にNHKの「プロジェクトX」シリーズをヒットさせたようなものがそれ以前にあるせいかもしれないけれど。それをわかっていて企画したのなら、プロデューサーとしてもいけますよね。「プロジェクトX」より15年も早い。
今回は『お葬式』よりもずっと演出に磨きがかかって、俳優たちがみんな水を得た魚みたいに嬉々として演じているのが感じられます。こんなステージがほしかったみたいな。君を主演女優として撮れるのは僕しかいないと監督は言ったそうですが、妻への愛情も感じられて、宮本信子がほんとに輝いています。しかし、それだけにラーメンが完成して宮本信子の「タンポポ」がうれし泣きをするシーンで、すぐにエプロンで顔を隠してしまうのはいただけない。きちんと顔の演出を見せてもらいたかったですね。
あざといシーンやくさいシーンもやはりあります。しかし、そんな挿入エピソードのひとつで、臨終の妻を元気づけるために夫が家族にご飯を作らせ、家族がご飯を食べ始めるや否や妻は倒れて、医者が臨終ですと告げる中、子どもたちに母ちゃんが作ったご飯だ、食べろと怒鳴るシーンには、あざとさもくささも超えた、食と死をめぐるペーソスがあります。つまりは、家族という喜劇があります。家族がいるならいっしょにご飯を食べてくださいね。
当時はこの作品に中に、日本映画に新しい波というか、大げさに言えば新しい夜明けが来る予感を「観」ました。残念ながら、その影響が日本映画界に及ぶ前に、何が起こったのか突然伊丹十三がこの世を去ってしまい、どんなに残念に思ったことか。彼が生きていたら、三谷幸喜が映画監督の椅子に座ることもなかったことでしょう。


☆☆☆☆○
イップ・マン 序章 邦題 イップ・マン 序章
原題 葉問 Ip Man
制作 2008年 上映 106分
監督 ウィルソン・イップ 地域 香港
ブルース・リーの師匠だった葉問の波乱人生の幕開けというべき位置の作品。『イップ・マン 誕生』(2010年)を見るために『序章』から始めることにしました。前半は広東省佛山での葉問の生活と武術家たちとの葛藤を描き、後半は侵攻してきた日本軍の空手好きの将校・三浦の好奇心に巻き込まれていく展開です。
ワイヤーなしのドニー・イェンを初めて見たかもしれません。超人的な演出よりずっと迫力があります。映像も深みがあっていいです。人柄がにじみ出るようなユーモアも時に見せて、カンフーだけの作品ではありませんん。カンフーの力を客観的に見る視点もあって、絶対視しないのもいい。
日本人は武道を技術だけでなく精神的なものとして扱いますが、この作品では日本人はカンフーに孔子の精神があることを理解していないと葉問に語らせています。国が虎になると、国民は威を借る狐になります。狐になった人にはどんな精神も理解できやしません。それは日本に限らず、他国を侵略した国の国民はみんな同じです。
こんな達人を相手に一介の将校が対戦してまともに勝てるわけはなく、このクライマックスシーンは少々拍子抜けというか、中国人の溜飲を下げるためのシーンでもあるのでしょうか。こういう作品はどうしても敵役の人物像が浅くなってしまいますが、最後の逃亡するシーンでの家族の様子などをもう少し丁寧に描いてもらったら、深みが増したのではないでしょうか。


☆☆☆★○
イップ・マン 葉問 邦題 イップ・マン 葉問
原題 葉問2  IP MAN 2
制作 2010年 上映 109分
監督 ウィルソン・イップ 地域 香港
第2作目。1作目と同じ構成です。前半に流派の争い、後半は白人との拳闘試合を通じた反目へと移ります。1950年に、葉問は佛山から香港へ移り住みました。当時、日本の敗戦よって香港はイギリスの植民地へと復帰していました。
やはりクンフーの演技はとても素晴らしいものがありますが、今作ではワイヤーが使われている気がします。葉問の人柄も前作と同じくユーモアと寛容さを備えており、弟子の伝えようとする精神も穏当なものです。しかし、こうして同じような構成の2作を眺めると、どうしても欠点が見えていきます。
イギリス人はまた日本人と同じように振る舞って、狐になっているわけですね。中国人でなくてもつくづく嫌になる話ですが、ここでの描き方も第1作目と同じなので、ステレオタイプです。白人はみんな狐にしか見えないわけですから。
葉問の言葉は憎しみとは無縁のものなのですが、その行動は時に憎しみに捕らわれて自分を見失います。それを自覚しているようには描かれておらず、対ボクシングの勝利後に葉問が説く平和の心は白人たちの心を打ったようですが、スクリーンのこちら側の観客の心を打つものとはなっていないように思います。
最後には少年のブルース・リーが登場して後の功績も讃えられていますが、彼が名を成したのは間違いなく拳法のお陰ですが、彼のダークサイドを生み出したのは何のせいなのかについても考えを巡らしてしまう作品でもあります。
日本の拳法にも白人の拳法にもない中国拳法の精神とは何なのか、それが描けているとは言えません。腕力をつけた人間のやることは洋の東西を問わず同じではないかと思えてしまうのです。


☆☆☆○○
イップ・マン 誕生 邦題 イップ・マン 誕生
原題 葉問前傳 The Legend Is Born: Ip Man
制作 2010年 上映 100分
監督 ハーマン・ヤオ 地域 香港
ビギニングものです。かなり若くなったせいなのか、主演は交代しましたが、役名を変えて1・2作で登場していた俳優が出てくるので少々戸惑います。前半は葉問の青春を描き、後半は日本の資本家とその娘が絡んでの騒動へと発展します。
クンフーは健在ですが、演出に今までのような面白さが欠けています。もはや精神論もなく、青春と陰謀とアクションという感じですね。このシリーズはどこまで事実に即して脚色しているのかよくわかりません。今作は特にフィクションの色合いが濃い。義兄の裏切りにはびっくりですが、実は裏切りではなかったという仰天のオマケがついて、安っぽいドラマのようになってしまった感があります。敵役の日本人の扱いが中途半端で、存在感がほとんjどありません。
若き日の葉問には感心するような人格も見られませんし、怒りを爆発させる普通のカンフー・アクション作ですね。


☆☆☆★○
シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム 邦題 シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム
原題 Sherlock Holmes: A Game of Shadows
制作 2011年 上映 129分
監督 ガイ・リッチー 地域 アメリカ
第1作目がそれまでの『シャーロック・ホームズ』とは趣が違ってヒットしたということもあり、今作もアクション重視です。謎を探っていくよりも突っ込んでいく感じで、探偵らしさを見せるのは後になっての種あかしみたいな。
ロバート・ダウニー・Jは『アイアンマン』(2008年)から、そして今年の『アベンジャーズ』と、すっかりアクション俳優になってきました。
この作品は昔の007の匂いがします。まるでスパイアクション。相方が女性でなく、禿げてきたジュード・ロウなので、なんとか違う香りになっていますが、これだけ探偵をせずにアクションをやっていると、この男二人のコンビは『リーサル・ウエポン』(1987〜1998年)みたいな昔の刑事物コンビを思い出します。とにかく不死身です。
要するに、目まぐるしく展開するストーリーとアクションでそれなりの作品にはなっているけれど、シャーロック・ホームズでなくていいし、ロバート・ダウニー・Jとジュード・ロウでなくてもいい映画になってしまいました。3作目もあるそうですが、汚い格好のシーンばかりでなく、もう少し知的でオシャレな探偵ぶりが見たいものです。二人ともオシャレが似合う俳優なのだから。


☆☆☆☆○
マリリン 7日間の恋 邦題 マリリン 7日間の恋
原題 My Week with Marilyn
制作 2011年 上映 99分
監督 サイモン・カーティス 地域 イギリス・アメリカ
予想していた通りの作品です。同時に期待を裏切らない作品でもあります。相手はマリリン・モンローですから、この役をミシェル・ウィリアムズがやるのも大変だったと思います。よくこなしました。
『スピーシーズ/種の起源』 (1995年)が彼女のデビュー作です。14歳ぐらいでしょうか、当時もぽっちゃり。始まりから十数分で変身してお役ご免です。今年もアカデミー主演女優賞ノミネートで、ここまでよく頑張ってきました。
ポスターを見ている限りではそっくりさんを目指して頑張ったのかと思いましたが、そっくりさんではないです。そっくりを演じるのではなく、まるで自信がなく、こわがりで、寂しがりやで、小悪魔的で、可愛らしい女を演じています。
階段下りてきたところで、集まってきた人々の前でポーズをとる時の女優としての存在感がきちんと出ていて良かったです。ウィットに富んだ会話やモンローのいたずらっ子ぶりなど、楽しい場面がたくさんありました。
予告ではもっと深い恋愛があったのかと思いましたが、恋愛はさらっとしています。というか、これはモンローにとって恋愛だったのかよくわかりません。
yu が持っている伝記では、『デビルズ・ダブル』(2011年)のドミニク・クーパーが演じるミルトン・グリーンのサポートのお陰で『王子と踊り子』(1957年)が完成したと書かれています。コリン・クラークの名前はまったく出てきません。公には全く知られていなかった話なのかもしれないので、証言者はコリン・クラーク本人だけなんでしょうか。
伝記の取材が及ばなかったというか、スタッフからコリン・クラークが浮いていたということもあるのかも。IMDbによると、Colin Clark third assistant director (uncredited) とされているので、作品にはクレジットされていない使い走りです。ミルトン・グリーンの反感を買っていたのかもしれません。しかし、IMDbはこんなクレジットされていない人まで記載しているというのはすごい。日本にこんなデータベースはないですよね。
ミルトン・グリーンは製作総指揮です。モンローのプロダクションがプロデュースしているので、社長のモンローもプロデューサーなんですが、クレジットされていません。クレジットがどういうシステムになっているのかいまだよくわかりません。
作品の中でマリリンがコリンにどっちの味方なのか聞く場面がありますが、もちろんこの作品自体がマリリンの味方です。モンローの行状はかなり抑え気味に描いていますね。ローレンス・オリビエやスタッフには同情を禁じ得ないですが、モンローはモンローだからしかたないです......(^_^) 代わりになる人がいないんですから。
先月見た『荒馬と女』(1961年)の時に睡眠薬中毒だと書きましたが、この時すでに大量の睡眠薬と酒に溺れていました。
モンローの死の謎は未解明のままですが、なんにせよ彼女が長生きするなんてことはありえなかったことも確かです。ただ思うのは、ひとりではなく、誰かに抱かれて死なせてあげたかったという、今では叶わぬ願いです。


☆☆☆★○
 邦題 マシンガン・プリーチャー
原題 Machine Gun Preacher
制作 2011年 上映 129分
監督 マーク・フォースター 地域 アメリカ
解放の神学にもとづく過激な神父の活動かと思いましたが、実際にマシンガンを持ってスーダンで活動している人の話でした。前科者で覚醒剤で強盗までやり、妻にはかたぎの商売でなくストリップで稼げというような自堕落な男が、人を殺してしまったと思い込んだことから教会で悔い改め、ついにはスーダンで誘拐される子どもたちを救う活動にのめり込んでいく姿を描いています。サム・チルダースという今も活動を続けている人の実話ものです。
スーダンはずっと内戦が続いていて、昨年は南スーダンの独立がありましたが今でも紛争は収まってはいません。ずっと国連が手を入れ続けている地域です。
自他共に認める悪人もたまに人柄がまるで変わって善人になってしまうことがありますが、この人の場合は少々異なるようです。しかし、何かに目覚めたことは間違いのない事実だと思います。強盗で銃を持つことと、子どもを救うために銃を持つことの差について考えさせられるのです。
エンドロールに本人が登場してその活動の一端が映し出されます。そして、自分の家族が掠われた時に、救い出す手段を問うたりするだろうかとスクリーンから問いかけてきます。即座に答えることができる人はいったい何人いるでしょうか。その迷いの中にこそ、ひとりを殺す殺人から多数を殺す戦争まで、この世からなくならない理由があります。
yu がここで平和主義的なことを言えるのは日本の民度に支えられているからであって、まだ多くの国では許されません。サム・チルダースがいるような現場に行けば、殺すことを選ぶか殺されることを選ぶか毎日決断しなければならない。殺されることを選んだら「毎日」はもちろんありません。
世界がぜんたい幸福になるためには、個人が幸福を求めないようになることだと、遠い彼方をぼんやり見る。


☆☆☆○○
マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 邦題 マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙
原題 The Iron Lady
制作 2011年 上映 105分
監督 フィリダ・ロイド 地域 イギリス
アカデミー主演女優賞の作品ですが、作品賞自体はノミネートもされませんでした。他の部門でも何もなかったのではないでしょうか。こんなの珍しい。と思ったら、メイクアップ賞を受賞していました。それは理解できます。
見るべきものはメリル・ストリープの演技ですが、彼女はマリリン・モンローではないので、作品に魅力がなければやはり退屈です。
保守の政治家に何かわくわくするドラマを期待することは無理なので、認知症というフレームの中でアルバムをめくるように過去を回想することになります。予想された工夫はここまでで、家族も政界も描き方が中途半端でよく見えないまま。挿入されるニュース映像の使い方も乱雑。邦題の「鉄の女の涙」みたいな寂しい話で終わります。
いったい何を描こうとしたのはよくわかりませんでした。まさか「鉄の女の涙」を描こうとしたのではないと思いますが、メリル・ストリープが思い切り演技する舞台としては良かったでしょう。まさに一人芝居です。しかし、伝わってくるものがその場面ごとに切り取られたものであるなら、満足できる舞台だったとは言えないのかもしれません。


☆★○○○
ブラッドレイン 血塗られた第三帝国 邦題 ブラッドレイン 血塗られた第三帝国
原題 Bloodrayne: The Third Reich
制作 2010年 上映 79分
監督 ウーヴェ・ボル 地域 アメリカ
ブラッドレインシリーズの3作目。1も2も見ていません。ハーフバンパイアのヒロインがレジスタンスとともに自分の血をヒトラーに飲まれるのを阻止するためにナチと戦う話です。
つまらないです。演技は下手だし、アクションもだめだし、話の見せ場もなし。意味不明のレズシーンに、セックスシーンまであって、なにやってんだか。ゲームの映画化らしいけれど、これって3作も作って制作費が回収できているのが不思議。当世のバンパイア人気のお陰でしょうか。


☆☆☆☆★
ヘルプ 心がつなぐストーリー 邦題 ヘルプ 心がつなぐストーリー
原題 The Help
制作 2011年 上映 146分
監督 テイト・テイラー 地域 アメリカ
先月、『アンドリューNDR114』で触れた作品です。期待できそうな予感があったんですが、面白い作品になりました。 しかし、邦題はやっぱりどうしようもなく失格。
原作はキャスリン・ストケットで、監督はその友人のテイト・テイラー。白人女性が黒人を助けるみたいな舞台設定なので、黒人の間では批判もあるそうですが、映画としてはとてもよく出来ている作品です。
怒りも笑いも涙も、2時間の間にいろんな感情を揺さぶられます。黒人からの批判のように、表面的にはヒロインが黒人の仕事だった家政婦(help)たちの境遇を訴えるみたいな展開に見えます。しかし、家政婦たちや他の白人たちのキャラもそれぞれによく描かれていて、1960年代のアメリカ南部の女性たちの不幸を見つめながら、その不幸のありかと、人を愛するやり方を浮かび上がらせていきます。
やはりこれは話の展開の前に、登場人物とその配置がうまくできているから、観客にもとてもわかりやすいし、演じる俳優もきっとやりやすかったでしょう。この作品から主演と助演の女優賞あるいはノミネートが3人出ています。特にジェシカ・チャステインとオクタヴィア・スペンサーの二人は見ていて楽しいです。黒人の不幸だけでなく、白人の不幸も、女性としての不幸も、つまり人としての不幸を描き、現実の差別から見ればかなり甘い描き方でしょうけれど、それに対して社会的には小さな闘いでも個人的には大きな闘いに挑む勇気を見せてくれます。
ただ、差別をよしとする人と差別を恥ずかしいと考えている人の差はどこから生じてくるのか、女性としての不幸とも絡めてもっと突っ込んだ切り口がほしかった思いが残ります。差別は、差別される側だけでなく、差別する側にも不幸を運んできます。
橋下大阪市長と、その友達である校長さんにぜひ見てもらいたい作品です。国歌をうたわない公務員をいじめているうちに、新たな差別を生んでしまいませんように。あと百年ぐらいしたら、日本でもこんな映画が作れるようになれるでしょうか。植木徹誠を主役に据えたらできるかも。そこで、今月の「プリオシン通信」でこの人を紹介しようかな。


☆☆☆☆○
第9地区 邦題 第9地区
原題 District 9
制作 2009年 上映 111分
監督 ニール・ブロンカンプ 地域 アメリカ・ニュージーランド
2回目の鑑賞はTV放送で。1回目の時は実はあまり面白くありませんでした。しかし、数年も経てばほとんど忘れてしまう yu なのに、何か気になっていました。今回は面白かったです。
南アフリカ出身の監督だけあってこの発想の斬新さは満点だったのですが、話の展開と演出に不満があったんですよね。それがTV放送ゆえにたぶん15分ぐらいカットされて、アラが見えにくくなったのではないかと思えます。
それに吹き替えのお陰で絵をしっかり見られたこともあったのかもしれません。エビと差別語で呼ばれるこのエイリアンの動きと他の映像の合成をはじめメカのCG等、とてもよく作り込まれています。公開当時は金がかかっていないとか耳にしましたが、かなり資金を投入している感じです。差別せずにエイリアンの「クリス」の名前もクレジットしてあげてください......(^_^)
エイリアンについては1組の親子にしか焦点が当たらないので、どうしてもリアリティに欠けてしまいますが、主演のシャールト・コプリーの必死の演技は良かったです。セリフはなんとみんなアドリブだったそうです。ということは逆にきちんとした演出プランがなかったことがうかがえます。
この作品は南アフリカの歴史と現実をかなり反映しているので、きっとこのままでは終わらせないと思います。ヒットしたこともあり、きっと続編が作られるでしょう。というか、作ってほしいですね。エイリアンたちは第10地区で隔離されたままなのですから。


☆☆☆★○
テイク・シェルター 邦題 テイク・シェルター
原題 Take Shelter
制作 2011年 上映 120分
監督 ジェフ・ニコルズ 地域 アメリカ
トルネードの恐怖に取り憑かれた男の話で、いろんな賞をもらっている作品です。『ヘルプ』でほめたジェシカ・チャステインが、今度は夫を深く愛し、理解しようとする普通の主婦を演じています。演技の幅が広いです。
聴覚に障がいのある娘という設定の工夫と、シェルターが外界から守るためなのか、内界から守るためなのかわからなくなっている不安感と、悲しみの予感と決意と、映画として面白い出来です。クレイジーな話ではあるけれど、映画の作法としては至極まっとうな展開です。
しかし、長すぎます。話を紡いでいくスピードが遅くて、退屈します。なにしろ楽しい話ではないので、憂鬱感がゆっくりとずっと続く展開は面白くありません。たしかに主人公の気分は味わえますけれどね......(^_^)


☆☆★○○
ファンタスティック・フォー [超能力ユニット] 邦題 ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]
原題 Fantastic Four
制作 2005年 上映 106分
監督 ティム・ストーリー 地域 アメリカ
時代から見てVFX映画というべきでしょうか。しかし、宇宙線を浴びる映像は説得力のない絵です。前半はテレビドラマの初回という感じ。登場人物と物語設定の説明が終わって、後半にやっと動き出す感じです。コミックが原作なので、他のヒーローもののコミックと同じような話です。特に『スパイダーマン』(2002年)を彷彿とさせる設定ですね。
しかし、キャラもストーリーも『スパイダーマン』のような魅力のかけらもありません。ラストシーンは『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)からの引用のようです。超能力の種類設定から言っても、対象とする観客の年齢を下げないと厳しいです。


☆☆☆○○
ファンタスティック・フォー:銀河の危機 邦題 ファンタスティック・フォー:銀河の危機
原題 Fantastic Four: Rise of the Silver Surfer
制作 2007年 上映 92分
監督 ティム・ストーリー 地域 アメリカ
続編を見てこの作品の雰囲気のようなものがようやくわかってきました。一貫したテーマがあるようなSF作品ではなくて、突然フリークになってしまった4人の日常に起こる事件を描くシリーズみたいです。冒頭から結婚式で時間をつぶすのんびりムードで始まりましたが、その後は転がりだします。
今作は連続ドラマの1編をたまたま見たという感じです。なぜ宇宙からサーファーがやってきたのか説明らしきものもなく、敵を倒すのもあっさりしていて、全体的に唐突感を否めません。しかし、これでいいのが『ファンタスティック・フォー』なんでしょう。
前作で敵だったビクターの復活も、やはり情けない負け方です。「選択」がテーマになっている今作ですが、その精神性はお子さまマンガレベルにとどまりました。VFXは前作よりもイメージが良くなりました。
このサーファーを主役にしたダーク・ヒーローものを作った方が面白いと思いますね。このシリーズはこれで打ち切りになったようです。やはりTVドラマ向きでしょうか。


☆☆☆○○
 邦題 第九軍団のワシ
原題 The Eagle
制作 2011年 上映 114分
監督 ケヴィン・マクドナルド 地域 イギリス・アメリカ
ローマ時代の物語ですが、少々変わった設定の原作に基づいています。引退した軍人とその奴隷が失われたイーグル像と父の名誉を取り脅すべくイギリス北部へと足を踏み入れていきます。ここまでは面白そうなのですが、二人のお人好しの物語でもあり、こんなお人好しじゃ生き延びられないよいうぐらいリアリティがありません。
チャニング・テイタムにもジェイミー・ベルにもそれだけの気迫がないために、どことなく珍道中みたいな雰囲気が漂います。アクション場面以外の映像は案外いいんですが、ローマ人の視点が強いためにイギリス人はまさに蛮族の描き方ですね。原作はどうなっているのか知りませんが、ローマに侵略されて奴隷になったエスカの心情はどうなのかもきちんと描かれていないしで、ドラマが作り出されていません。
名誉よりも命の方が大事だよと思ってしまう現代人の感覚も共感の邪魔をしていますけどね。家系とローマの名誉のために大勢の人が死ぬことになるんですからね。その一方で奴隷のエスカはローマからひどい目に遭わされたのに、故郷を裏切るような行為をするのですから、ちぐはぐなことになっています。アクション場面はクローズアップ、スローモーションのカットだらけですから、何がどうなっているのか把握できません。最近はこんなアクションばかりですね。


☆☆○○○
どら平太 邦題 どら平太
原題 どら平太
制作 2000年 上映 111分
監督 市川崑 地域 日本
四騎の会( 黒澤明・木下恵介・市川崑・小林正樹)の脚本でありながらお蔵入りしていただけあって、ダメダメです。監督ばかりで書く脚本の失敗でしょうか。おまけに市川崑監督の演出がひどい。これだけのキャストを集めてどうしちゃったの?という感じです。
藩が記録する空白の日誌で始まりと終わりを挟み、どら平太がねつ造した殿のお墨付きや親分たちの証文が有効に働くところがこの脚本のミソになるべきところですが、うまく活かされていないです。時代劇の定番のような展開を見せながらも、細部では時代を無視した演出をして破綻しているというべきでしょうか。
黒沢時代劇のようなダイナミズムのかけらもなく、黒幕はすぐにわかるし、敵役はちょろいもんだし、どら平太が苦境に陥ることもなく、女たちはみんな飾り物でしかないし、見るべきものがありません。みなさんの滑舌のいいこと。まったく言いよどむことなく、見事にセリフが一本調子。セリフがこうですから演技も同様になるのは当然です。名優の大滝秀治までひどい演技になっています。
アクション場面は上の作品と同じく、クローズアップとスローモーションばかり。腕自慢のどら平太の殺陣は見せ場だろうに、ちっとも見せてくれません。過去の時代劇にはこれより面白い作品がごまんとあります。


☆☆★○○
マンク〜破戒僧 邦題 マンク〜破戒僧
原題 Le moine
制作 2011年 上映 101分
監督 ドミニク・モル 地域 フランス・スペイン
公開したばかりのホヤホヤの作品ですが、なんとも古いタッチです。そもそもモチーフが30年ぐらい前までに映画化されているようなものです。実際、1972年に『フランコ・ネロとナタリー・ドロンのサタンの誘惑』という作品が作られています。どちらも原作は18世紀のマシュー・G・ルイスです。モーゼ出生の影響もあるようなお話ですが、公式サイトのあらすじはかなり荒っぽいので誤解を招きます。
映像表現も30年前以上前と思わせるほど古くさいです。あの頃のオカルト映画育ちでしょうか......(^_^) 長年修行を積んできた修行僧がこの程度の誘惑で簡単に転んでしまうのはどうにも共感できないです。戒律を破った尼僧が修行僧アンブロシオの非情で院長に殺されてしまうという予兆もきちんと描かれていないです。この作品のオリジナリティーは終わる前の数分です。この部分へ繋がるきちんとした道筋ができていませんでした。


☆☆☆☆○
ニッポン無責任時代 邦題 ニッポン無責任時代
原題 ニッポン無責任時代
制作 1962年 上映 86分
監督 古澤憲吾 地域 日本
「プリオシン通信」で植木等の父、植木徹誠のことをかいていたらCSでちょうど放送があったので見ました。まだクレジー・キャッツが活躍していた頃に子ども時代を過ごしているので、映画館で見たことはありませんが、TVではクレイジー・キャッツの映画は時々見ていたと思います。この作品はクレジー・キャッツ総出演です。一種のスター映画ですからギターを持って歌うシーンも挿入されます。この挿入の仕方がちょっと面白くて、ストーリーと関係なしの歌のシーンかと思わせて、会社の宴会場面へと繋いでいくなんて手も使っています。
東宝映画でのシリーズ第1作ということで植木等以外のメンバーは演技がまだぎこちないです。東宝は期待していなかったそうですが、結果は大ヒット。植木等が自由奔放に活躍しています。まったくのはまり役というか、こういうキャラを生み出したゆえの成功で、映画の価値もそれに尽きます。植木等本人の性格とはまるで違うそうですが、このキャラの精神はやはり植木徹誠や等に通ずるものがあると思います。
大好きな『馬鹿が戦車(タンク)でやってくる』(1964年)はハナ肇の主演です。これは松竹映画ですが、こちらには植木等は出演していません。
映画でも歌でも出来不出来とは関係なく時代を代表するようなものがあります。サラリーマン・コメディ映画としては標準作だと思いますから☆3つですが、この作品の価値は☆5つです。ですからまん中をとって☆4つです。この作品で日本人は一皮むけました。
カタカナの「ニッポン」と無責任、そして時代。タイトルがお見事です。なぜ「時代」かと言えば、社長であるハナ肇が嘆く対象はこの男ではなく、時代だからです。主題歌は『無責任一代男』なんですが、それにとらわれなかったのがエライいです。作詞は青島幸男で、彼が天才ぶりを発揮していた時代でもあります。徹誠は「スーダラ節」の「分かっちゃいるけどやめられねえ」は親鸞に通ずるものがあると褒めていたそうです。


☆☆★○○
ルート・アイリッシュ 邦題 ルート・アイリッシュ
原題 Route Irish
制作 2010年 上映 109分
監督 ケン・ローチ 地域 イギリス・フランス・ベルギー・イタリア・スペイン
傭兵と言えばアメリカ人をすぐに連想するんですが、この作品はイギリスが舞台です。民間人である傭兵がイラクの民間人を殺している現実を踏まえたサスペンスですが、イラクの戦場ではなくやはりイギリスが舞台です。
もみ消し工作のために親友が殺されたと信じるファーガスが彼の妻と真相を探っていくという展開ですが、携帯やらネットを使って人から話を聞くだけのような調査なのでかなり地味な映像と展開です。しかも、キレてばかりいる主人公なので、共感もしにくいです。はっきり言えば最初からバカなので、最後には自滅することになります。
殺すことしにしか解決法を見いだせない悲劇というべきものですが、イラクの現実から話が逸れて自己満足と自己憐憫に終わってしまったようです。



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