「シネマ短評」のトップを表示します


2011年12月


☆☆☆○○
コンテイジョン 邦題 コンテイジョン
原題 Contagion
制作 2011年 上映 106分
監督 スティーヴン・ソダーバーグ 地域 アメリカ
タイトルは「伝染病」のこと。原題タイトルの直截さはドキュメンタリー風な手法に合わせてあるのでしょうか。邦題は「伝染病」では客を呼べないと思ったか、カタカナで逃げましたね。
近年の鳥インフルエンザ騒動から新インフルエンザ発生の恐怖がよく語られていましたが、最近は大震災の影響もあってか日本では報道もほとんどなくなりました。しかし、有名俳優がたくさん出演しているのは、そういう危険を身近に感じているからなんでしょう。
この作品はディザスター映画とは違って、パニックだのサスペンスだのという盛り上がらせるための演出度が低いです。監督の意図がどこにあったのかわかりませんが、これはシミュレーション映画というべき出来ですね。終盤に近づくにつれて、妙な安堵感が漂っていて、これぐらいのことはたまにはあるよね、みたいな気がしてしまう自分が怖い。


☆☆☆☆○
ハリー・ポッターと死の秘宝 パート1
ハリー・ポッターと死の秘宝 パート2
邦題 ハリー・ポッターと死の秘宝
原題 Harry Potter and the Deathly Hallows
制作 パート1:2010年
パート2:2011年
上映 パート1:146分
パート2:130分
監督 デイビッド・イェーツ 地域 イギリス・アメリカ
劇場公開と同時進行的に見てこなかったシリーズなので、8月に1作目を見始めてようやく完結編の8作を見終えました。ほとんどの作品が2時間超だったこともあり、『スターウォーズ』シリーズよりも大長編でした。話の展開はしだいにダークな影が覆うようになり、複雑化していきました。公開ごとに映画でしか見てこなかった人には時間がずいぶん空くのでもう話の繋がりがわからなくなっていたのではないでしょうか。
本で言えば7巻目の完結編にあたるこの映画のシーンはほとんどダークです。こういうのは苦手なんですが、最後まで面白く見ることができました。この長い物語の結末としては少々物足りなさを感じましたが。
このシリーズ全般について言えば、細部までしっかりと映像化し、ストーリーもだれることなく描いたことはなかなかのものだと思います。3人の少年少女たちの、物語の中の成長と、10年間という現実の俳優としての成長と、両方を楽しむことができたのもこのシリーズの成果ではないかと思います。十年という歳月を4ヶ月で見たから余計に楽しめました。来年のお正月にシリーズ全編鑑賞に挑戦してみてはいかがでしょうか。


☆☆☆○○
The Thing 邦題 日本未公開
原題 The Thing
制作 2011年 上映 103分
監督 マティス・ヴァン・ヘイニンゲン・Jr 地域 アメリカ・カナダ
『遊星からの物体X』(1982年)はいつかSF映画選で取り上げるべき作品なのですが、これで物体Xトリロジーが完成したのでどうしようかな。『遊星よりの物体X The Thing from Another World』(1951年)はSFXの問題があったためか、原作とは異なっていました。その意味で『遊星からの物体X』もリメイクではありませんでした。今回の原題は82年と同じです。日本語タイトルも同じになるでしょうか。
今回の作品はずっと以前からリメイクの噂を聞いていたのですが、そのうち前日譚という話が聞こえてきて、「なるほど、そうきたか」と思いながら楽しみにしていました。
標準レベルに達しているのできっと日本公開はあるでしょう。一足先に見ましたが、リメイクでもあるし、前日譚でもあるという、噂はどちらも正しかったです。前日譚だから前作の作法もエイリアンの様態も引き継がなくてはならないわけです。しかし、これは傑作だった前作と比較して見られてしまうということにもなります。実際、その通りで損をしてます。
前作の主人公はカート・ラッセルというちょっと危ない男。今回の主人公は良識のあるメアリー・エリザベス・ウィンステッド。こりゃ分が悪い。前作との違いを出したかったのでしょうが、良識派では面白くなりません。
SFXはCGに置き変わることになりましたが、やはり迫力不足になってしまいましたね。迫力不足はそれだけでなく、演出全般に緊迫感が欠けてしまっていて、もっと丁寧にじっくりと描いてほしかったと思います。極寒の闘いや血液の恐怖もうまく使われていないし、効果音も前作の方がいい味を出していました。
意外だったのは宇宙船の中を見せたことです。これがしょぼい。エイリアンの姿もかなり見せます。しかし、見せない方がいいものはやはりあります。具体的に見せられると、人類を超える知的生命体なのに、狂気の化け物である違和感が増幅されてしまうわけで、SFからどんどん遠ざかる悲しさがあります。


☆☆☆○○
倩女幽魂 邦題 日本未公開
原題 倩女幽魂 A Chinese Fairy Tale or A Chinese Ghost Story
制作 2011年 上映 100分
監督 ウィルソン・イップ 地域 香港
原題は『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(1987年)と同じタイトル『倩女幽魂』です。リメイク作品なんですが、87年の作品もリメイクだったんですよね。今回のはパート1ではなくてパート3(1991年)のリメイクです。英語タイトルはポスターにより Ghost Story だったり、Fairy Tale だったりします。87年ののジョイ・ウォンも美しかったですが、今回のリウ・イーフェイも美しいです。命を落とすぐらいの美女と恋をしたいというのは古来からの男の夢なのでしょうか。
始まってからの映像はなかなか美しくて良かったのですが、話の展開がどうも散漫な感じで、もうひとつ入り込めませんでした。アクションもロマンスもどちらもの欲張りな作品になっています。コメディ色は少なかったです。20年も昔の作品はもう覚えていないので比較のしようもありませんが、たぶんパート3と同じぐらいのレベルの作品ではないかと思います。日本での公開はなさそうな気がしますね。


☆☆☆○○
リアル・スティール 邦題 リアル・スティール
原題 Real Steel
制作 2011年 上映 127分
監督 ショーン・レヴィ 地域 アメリカ
ロボットの名前が「アトム」なのに、日本での公開は世界の中で一番遅いと言っていいぐらいになりました。IMDb(The Internet Movie Database)ではSFジャンルにも分類されていますが、SFではありませんでした。『チャンプ』(1931年・1978年)のバリエーションのひとつかと思って見ましたが、やはりそんな感じです。
近未来物でもっとCGコテコテの作品かとも思いましたが、それはなくてロボットは道具止まりの、どちらかと言えば地味な扱いで、人間中心のお話です。それはいいのですが、ストーリーは意外性がなく、予想通りの甘い展開になってしまいました。ファミリー映画なのかな。ボクシングの世界をまともに描いていないので、これが物語を浅くしてしまっています。
ヒュー・ジャックマンもTVドラマ『LOST』のお姉さんエヴァンジェリン・リリーもいつものキャラです。ロボットの眼が何かを語りたがっているのですが、映画では最後まで語らせませんでした。SF映画にはしたくなかったようです。


☆☆☆☆○
サラの鍵 邦題 サラの鍵
原題 Elle s'appelait Sarah
制作 2010年 上映 111分
監督 ジル・パケ=ブランネール 地域 フランス
毎年、ユダヤ人迫害をモチーフにした作品を何本か見ます。これも悲しい話ですが、暖かな話でもあります。弟の生死の鍵を握ったサラという一人の少女の行方を追いながら、ナチス占領下のフランス・ヴィシー政権時代と現代を交錯させて描いた作品です。
人間の弱さと強さを描きながら、サラの人生、サラという人生に伴走した人生、伴走しようとする人生が語られていきます。いい脚本ですね。希望を感じる作品なのですが、それがかえって無性に悲しみを呼びます。
ヨーロッパ史が詳しい塩野七生さんが、自分を正しいと思っている人たちが災害をもたらすと言っていましたが、その次は正しくないと思っている人まで災害に加担するようになるんですよね。権力を行使している人はそのことの恐ろしさを忘れずにいてほしいものです。だれかを敵に祭り上げたり、いじめたりするような扇情的なのではなくて、自分もだれかの役に立ちたいと思えるような政治をしてほしい。今はそう大阪に向かって言いたい。
最近、NHKで戦争の証言を集めたドキュメンタリーがシリーズで放送されていて、日本軍の残虐行為もいろいろ出てきています。日本では負の歴史は映画にならないし、ナチスのお陰で外国映画でも題材になることはほとんどありませんが、母国の歴史にもきちんと向かい合いたいものです。
7日は真珠湾攻撃70年の日でした。手違いで宣戦布告が遅れただけであって卑怯ではないと言い訳してきましたが、世界中から日本人は卑怯だといまだに言われて辛いものがあります。もし布告が遅れなければ卑怯ではなかったかと言えば、そうは思えないです。あの作戦はこっそり拳を出しておいてから、今から殴ると言うようなものですから。歴史をきちんと学ぶことで誇りを取り戻すしかありません。


☆☆☆○○
ロンドン・ブルバード LAST BODYGUARD 邦題 ロンドン・ブルバード LAST BODYGUARD
原題 London Boulevard
制作 2010年 上映 104分
監督 ウィリアム・モナハン 地域 イギリス
なにが「LAST BODYGUARD」なんだか、意味不明の邦題の副題。『ボディガード』(1992年)と『ラスト・サムライ』(2003年)のもじりでしょうか。元女優のボディガードという話と出所後足を洗いたいヤクザ者の話を合体させた作品です。それだけにバランスの取れた演出にする必要があると思うのですが、ボディーガードの方のラブストーリーが弱い。映画全体が裏社会に引きずり込まれてしまった感じ。
ポスターとはかなりイメージが異なります。キーラ・ナイトレイは役柄の元女優としての存在感もなし。話の展開もこれらの話の定番をなぞる感じで、新味もありません。コリン・ファレル他の男優が存在感を出していて、退屈はしませんでした。


☆☆☆★○
灼熱の魂 邦題 灼熱の魂
原題 Incendies
制作 2010年 上映 131分
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ 地域 カナダ・フランス
『サラの鍵』(2010年)が民族かつ宗教の対立であったのと同じく、こちらは中東での対立がモチーフです。そして、やはり過去と現在が交錯して描かれます。
双子の姉弟が母の遺言で父と兄の行方を追う話ですが、同時にそれは母の過去の行方を辿る旅でもあります。いろんなダブルの物語は、平常なら1+1=2という数式の解が、実は1なのだと受け入れることで終わりを告げます。
この奇跡は戦慄であったものが愛へと転化されるのですが、数式を解かせるかのような母の作為はなかなか納得できるものではないのでは?神話レベルの悲劇と愛です。
ドキュメンタリー風の映像も脚本もよく出来ていると思いましたが、もっと編集して時間を絞り込んでいいですね。社会規模の対立を個人の中に引き寄せて解いてみようとした試みは新しいです。


☆☆☆★○
ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル 邦題 ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル
原題 Mission: Impossible - Ghost Protocol
制作 2011年 上映 132分
監督 ブラッド・バード 地域 アメリカ
そもそもこのシリーズは期待を文字通り裏切る形で始まっています。007のようなほぼ単独行動のスパイアクションではなく、チームワークの作戦の面白さこそがTVシリーズでしたから。ところが映画は第1弾からチームがバラバラになるというか、裏切りの話だったわけです。
今回は最初から最後までチームワークで動くのでやっと本来の「スパイ大作戦」に近づいた感じがあります。木村拓哉と同じで、トム・クルーズがやはり全面に出るので「スパイ大作戦」にならないのは仕方がありません。
いろんなアイデアを考えて、面白いシーンをいくつも準備してくれるので飽きることはありません。しかし、何か物足りない。このシリーズならではの面白さというものがありません。アクションは007のような迫力がないし、ボーンのような駆け引きの面白さにも欠ける。ハイテク機器の力と便利さに少々頼りすぎているところが欠点になって、本来ならそこにドラマが生まれるはずの部分が省略されてしまうことに繋がっている気がします。身体にいろんなハイテク機器を取り付けてやるスポーツを見たいとは思わないのと同じかな。
今作は味方も悪役もそのキャラにあまり魅力を感じなかったです。


☆☆○○○
ゴースト もういちど抱きしめたい 邦題 ゴースト もういちど抱きしめたい
原題 ゴースト もういちど抱きしめたい
制作 2010年 上映 116分
監督 大谷太郎 地域 日本
以前からアート系の映画は苦手と言っていますが、静かな映画も苦手です。『ミラノ、愛に生きる』(イタリア2009年)はちょっとパスな映画かなと思っていましたが、ティルダ・スウィントンが出ているので見ました。しかし、30分でリタイア。そろそろ物語が動き出すところだったのですが、我慢できず.......(^^ゞ これでは映画好きを公言する資格はありませんね。
さて、この作品はTV放送で見ました。『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)が好きなので気になっていましたが、どうせTVで見るレベルという判断です。で、正解。TVがデジタル放送になって映画がずいぶん見やすくなりました。録画すれば自動CMカットで見られるのもいいです。
いつもと違ってアメリカ作品のリメイクということになります。いろいろと設定をいじってありますが、脚本がだめな方へ書き換えられてしまい、登場人物たちもみんな魅力をなくしてしまいました。オリジナルの物語作法を理解していないスタッフたちです。ただ一人そんな逆境の中で輝いていたのは樹木希林さん。日本人ならこの役は彼女しかいないとだれでも思うところですが、期待に応えてくれています。この人はなんでも天然で演じてしまう。しかし、映画を彼女に乗っ取られたくなかったのか、少々控えめの使い方です。もっともTV放送なのでかなりカットされていることを考慮すると、いくらか割り引いてあげないと可哀相ですね。
オリジナル作品とこのリメイク作品は映画の教材としては打って付けかもしれません。比較して見ることで、映画を面白くする作法を学べます。同時に日本映画がなぜかエンターテインメント性を抑制する方向へ傾く事例を見ることもできます。


☆☆★○○
ルルドの泉で 邦題 ルルドの泉で
原題 Lourdes
制作 2009年 上映 99分
監督 ジェシカ・ハウスナー 地域 オーストリア・フランス・ドイツ
静かな映画です。『ミラノ、愛に生きる』に続いて今月挫折する2作目になるところでしたが、題材がルルドだったのでまあなんとか最後まで見ました。巡礼者はこういうことをしているんだなあという興味ですね。
後からこの監督がミヒャエル・ハネケに師事していたことを知りました。こりゃ苦手だわ.......(^^ゞ 地味な映画なので、いろいろ受賞して日本公開になったようです。2009年の映画ですからね。
しかし、ハネケのようなカメラではないです。当初は聖地でのロケで撮影に制限があるためかと思ったぐらいプロらしからぬ撮影です。そもそもそれほどない動きや表情さえきちんと捕らえません。台詞はほとんどないので、じれったいし。しかし、逆にそれが主人公の巡礼についていっているような錯覚を生みはします。
それほど信心深くない主人公になぜ奇跡が起こったのか?そういうことに関心のある人たちには意味のあるテーマなのでしょうが、神父と同じく、神さまの自由だと思う yu には心惹かれるところのない作品でした。聖痕(スティグマータ)が信仰心のない人にも現れることがあるのと同じことです。奇跡は信仰の見返りではありません。



プリオシン海岸トップへ