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2011年03月


☆☆☆○○
127時間 邦題 127時間
原題 127 Hours
制作 2010年 上映 97分
監督 ダニー・ボイル 地域 アメリカ・イギリス
「スラムドッグ$ミリオネア」の監督作品です。舞台はほとんど岩の裂け目だけですから、どうやって1時間半を保たせるのか興味あるところでした。
近似死体験者は一瞬にして人生を総括するかのような幻視(ライフレビュー)を見たという人が多くいますが、これはゆっくりと近づいてくる死を予感しながら、危機脱出への試みと人生のエピソードの幻視を繰り返すかのような展開になっています。つまり、ゆっくり近似死体験みたいな感じ。
しかし、この幻視があまりうまく描けているとは思えないです。テーマに沿うほどの感動を与えてくれるものではない。今年のアカデミー賞は実話ものが多かったのですが、これもその1本。実話ものはやはり期待しちゃだめですね。


☆☆☆☆○
コネクテッド

セルラー
邦題 コネクテッド
原題 保持通話/CONNECTED
制作 2008年 上映 110分
監督 ベニー・チャン 地域 香港=中国
2004年アメリカ制作の『セルラー Cellular』のリメイク。いつもはアメリカがリメイクするのですが、今回は逆。しかも、アメリカのリメイクは失敗が多いけれど、これは成功しています。ほぼ同じにリメイクするアメリカとは異なって、きちんと設定を変更して、アクションも向上させ、しかも展開に深みを与えています。
『セルラー』も☆4つあげてもいいけれど、主人公が大事件に巻き込まれたことを楽しんでいる感じがありましたが、こちらの主人公はおろおろしている感じがあって、それが面白みをふくらませています。前者は恋人に自己中と言われている若者、後者は家族に約束を守らないと非難されている父親。
ただ、助ける刑事役ニック・チョンはカッコ良すぎてダメ。『セルラー』のムーニー役であるウィリアム・H・メイシーのような味わいがない。主人公の最後の決めセリフもクールではなく、説明的なのがダメ。
そして、一番の欠点はどちらの作品も悪役がしっかりしていないこと。『セルラー』には悪徳警官でジェイソン・ステイサムが登場していますが、その仲間の殺人課のジャック(ノア・エメリッヒ)があまりにも臭すぎる。『コネクテッド」の悪徳警官たちもいかにもステレオタイプな顔ぶれで、逆にもっと普通の警官らしく演出させたら凄みが増すと思うのですけどね。しかし、残虐な場面は少ないし、どちらも退屈しない作品です。


☆☆☆○○
トロン:レガシー 邦題 トロン:レガシー
原題 Tron: Legacy
制作 2010年 上映 126分
監督 ジョセフ・コシンスキー 地域 アメリカ
タイトル通りの出来です。前作『トロン』(Tron:1982年)は初めて本格的にCGを導入して、コンピューターの内部世界を描いた画期的な作品でした。ただし、実際はCGらしく見せるための手描きアニメーションがたくさん代用されたり、それらしく見えるような演出等、かなり苦労しているなというストレスはありました。しかし、映画としての質は別にして、登場するオブジェのデザイン等、グリッドの世界はなかなか魅力的でした。
この作品はその遺産を継ぐべく制作されたものですので、オブジェのデザインも前作を踏襲する形で登場して楽しませてくれます。yu らの世代はCGの発展とともにSF映画を観てきていますので、映画の内容がどうのこうのというよりも、この2作品を見たという事実の方に感慨深いものがあります。この30年間の進歩は大したものなのか、期待はずれなのか。
SF映画の金字塔となった『2001年宇宙の旅』や、革新をもたらした『スター・ウォーズ』などの影響が強く出ています。明らかにそれとわかるあたり、これらの映画へのオマージュであるとともに、『トロン』もその戦列に加わる作品であるという自負があるのかもしれません。


☆☆☆☆○
Red Hill 邦題 日本未公開
原題 Red Hill
制作 2010年 上映 95分
監督 パトリック・ヒューズ 地域 オーストラリア
タイトル通り、町が血に染まる作品です。この映画はどのジャンルへ入れるか難しい。オーストラリアを舞台にしたネイティブが絡む西部劇、脱獄犯によるスリラー復讐劇、アボリジニへの差別問題を掘り起こす社会派もの等、一面では言い足りないところがでてきます。
撃てない新人警官と凶悪な脱獄犯を対角線に配置して、警察や住民をその間において話は展開していきます。すぐにわかることですから書いてしまいますが、脱獄犯は濡れ衣を着せられたために復讐にやってきます。そして、この男ちっともしゃべらない。最期に一言だけしゃべります。その時、対角線に配置されていた二人が折り合わされて重なるのです。
そしてオーストラリアにいるはずのない黒豹が一頭画面を横切っていきます。迎え撃つ警察や住民の、あまりに情けない態勢がボルテージを下げますが、脱獄犯の一言と黒豹が映画を美しく輝かせています。
愛と憎しみは表裏で繋がっています。愛が深ければ深いだけ憎しみも増すという凡人の悲しみ。愛からも憎しみからも超越した黒豹は凜として世界を眺めています。


☆☆☆○○
逃走迷路 邦題 逃走迷路
原題 Saboteur
制作 1942年 上映 109分
監督 アルフレッド・ヒッチコック 地域 アメリカ
見るのは2,3回目でしょうか。つい見てしまうヒッチコックですが、この作品はやる気が感じられない。確かにヒッチコックの味わいであるけれど、人物がみんな平板で、演出も緊迫感が感じられない。
例えば盲目の老人やサーカスの男。あまりにも確信的な善人で、まるで神父みたいな。意地悪な見方をすれば、マイノリティは善人として描きたいという意図が透けて見える。
主人公バリーは友人を殺された痛みそっちのけで、線が細そうなのに大胆に活躍して躊躇というものがない。友人を殺して、自分を犯人に仕立てた男のために自由の女神のトーチからホイホイと飛び出してぶら下がることなんてできますか。
この作品で必ず話題になる自由の女神シーンは女神を登場させた以上の価値はありません。警察はろくに調べもしないし、テロリストたちもあっさり捕まったりしてかなりトンマです。
ただひとつ褒められるのはタイトルバック。飛行機工場の大壁面を背景にしたもので、期待感を膨らませてくれる演出です。だんだんしぼんじゃうんですけどね。


☆☆☆○○
Dr.パルナサスの鏡 邦題 Dr.パルナサスの鏡
原題 The Imaginarium of Doctor Parnassus
制作 2009年 上映 124分
監督 テリー・ギリアム 地域 イギリス・カナダ
ヒース・レジャーの遺作になった作品。友人であったジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が鏡世界での代役を果たしたことでも話題になりました。監督テリー・ギリアムにしてはおとなしめの幻想世界です。CGできれいにまとめた感じがありますね。
物語の発端は久米の仙人みたいなもので、それで悪魔との取引で不死をもらってしまうんですが、娘という質草をめぐって悪魔との闘いが始まります。あまり悪魔に本気度が感じられない展開で、話がごちゃごちゃする割には引き込まれない。仕方ないから美術でも楽しみましょうかという感じです。テリー・ギリアムのファンには受けるのかも。


☆☆○○○
Season of the Witch 邦題 日本未公開
原題 Season of the Witch
制作 2010年 上映 95分
監督 ドミニク・セナ 地域 アメリカ
ニコラス・ケイジが出演する不可思議ものはつまらない。だから期待しないで見ましたが、やっぱりダメじゃん。14世紀の十字軍の戦いを幾度も重ねたあげく、女や子どもを虐殺するのを見た時に脱走兵になるという話の発端からうそっぽい。戦いに何度も遭遇して、そんな実態を知らなかったなんてありえない。歴戦の英雄たちなのに甘ちゃんすぎます。上品な『ブラザー・サン シスター・ムーン』(1972年)でさえ十字軍遠征が聖戦ではない側面が常識として描かれているのに。
困難な旅の途中には、血気盛んな若者がひとり跡をつけてきて参加し、お約束の腐った吊り橋とか森の狼とか、展開も安易。そして、タイトルを裏切るかのような結末へと進むのですが、既視感たっぷりの退屈な戦闘映像で終わってしまいました。同じ監督の『ホワイトアウト』(2009年)は面白かったのに、今回は歴史をもっと勉強してからやるべきでした。魔女裁判ということで関心があったのに、まったくアテが外れました。


☆☆☆★○
バルカン超特急 邦題 バルカン超特急
原題 The Lady Vanishes
制作 1938年 上映 97分
監督 アルフレッド・ヒッチコック 地域 イギリス
ほとんど見ているヒッチコック作品で未見のものだった映画。期待させる邦題ですが、「超特急」なんて感じはどこにもないです。それでも当時はそんな感じを受けたんでしょうか。
まず始めに「へエー」という映像がから始まります。ロングのホテルや駅の風景俯瞰からホテルの前へのアップへと切れ目なしでカメラが移動していきます。38年にこんなことができたんだなあと感心。少しずつ撮りながら、編集で切れ目なく繋げたのでしょうか?
お話はまさにヒッチコックの展開になります。サスペンスとユーモアが混沌と混じり合うのが彼の作風ですが、今回はサスペンスの色合いが薄いというか、ユーモアとウィットを重視した感じです。そのために命に危険が及ぶような事態に遭遇していてもかなり暢気な雰囲気があります。これはスリルよりも脚本のウィットを楽しむ作品というべきでしょうか。
これを見て『フライトプラン』(2005年米)の元ネタになっていたのがこの作品だとわかりました。『フライトプラン』はサスペンスとアクションの映画です。
この作品に出てくるアイデアはどれもよく練られてものだと思います。だから、いろんな作品に繰り返し使われるはずですが、逆に今見ると新鮮味が欠ける感じを受けるというパラドックスが起きています。本来なら四つ星ですが、今見るなら三つ☆ですね。


☆☆☆★○
わたしを離さないで 邦題 わたしを離さないで
原題 Never Let Me Go
制作 2010年 上映 105分
監督 マーク・ロマネク 地域 イギリス・アメリカ
人生に意味はないと思う。今月の「プリオシン通信」にはそう書いたけれど、この物語の登場人物たちの長くはない人生には意味がある。そして、それが悲しみの源泉となり、魂の咆哮を招く。
これはSFというよりはラブストーリー、あるいは青春ものと言った方がいい。物語の設定を確保するための合理的な説明もなければ、この不条理に抗おうとする心の葛藤もあまり描かれない。 登場人物たちは自分たちの人生の意味を受け入れ、それを成就させるために人生から去っていく。人生が「意味」から解放されていることは幸せであるのかもしれない。
タイトル通りの哀愁感が残る作品で、原作は傑作と評価が高いようだけれど、こういうむごい運命をイメージする人間、それを読んだり見たりして楽しむ人間、齢を重ねても人間とはなかなか理解できない生き物です。 ☆は三つ半です。



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