プリオシン海岸  プレシオスの鎖


結晶グリセリンの宣教

進化の共鳴




カムパネルラは
そのきれいな砂を
一つまみ
掌にひろげ
指できしきしさせながら
夢のように言っているのでした
「この砂はみんな水晶だ
中で小さな火が燃えている」

     「北十字とプリオシン海岸」



 20世紀初頭、オーストリアのウィーンの工場からロンドンの港に樽詰めのグリセリンが運ばれてきました。元来化合物は結晶化できるものがほとんどですが、当時グリセリンは研究者がいくらがんばっても結晶化せず(つまり固体にならず)、当然この樽詰めのグリセリンも液体でした。しかし、海を渡ってきたその中の一樽が結晶化していたのでした。

 この結晶化したグリセリンは試料として研究者に配布され、摂氏18度で結晶化することが確かめられましたが、その後もその試料を種として世界中で研究が続けられていくうちに、直接接触のないグリセリンまで結晶化始め、それは研究室にとどまらず、世界規模で同時発生的に生じることになったのです。

 次は第二時世界大戦中の話です。ある工場でエチレンジアミン酒石酸という物質の結晶に異常が起きました。正常型の結晶ができず異常型の結晶ができたのです。そして、やはり先の話と同じようにどこの工場でも異常型の結晶が出現するようになったのです。ここにはなんらかの共鳴現象が見られます。

 ここでひとつ思い出すことがあります。日本の幸島のサルの話です。童話にまでなった逸話なので、ご存じの方も多いでしょう。ある若いサルが海でイモ洗いを始め、それが若いサルの中で徐々に広まっていき、百匹(正確には何匹なんて言えませんが)に増えた時、群全体にその習慣が広まったという事実です。そしてやはり話はここで終わらないのです。この島で広まった習慣が、サルの交流がない他の島にまで広まっていったのです

 一方は生命がないとされる物質、他方は生物の文化。まるで違うものが同じ信仰を共有しているかのようです。同じようなことがラットの世代間をわたる学習成果や人間の記憶で確認されたりもしていますが、だったら生命そのものはどうなのかという疑問が生まれます。

 生命の形態は遺伝情報(DNA)が握っていると長い間私たちは考えてきました。形態どころかその行動まで支配しているとして、「生命は遺伝子の乗り物である」という言葉が誤解を含みながら言い古されてきました。それを修正する形でミームという概念も登場してきています。しかし、新たに現れた病原体によって新たな疑問が生まれてきました。

 その病原体は先年イギリスから発生した狂牛病と言えばご存じでしょう。もう少し正確には牛スポンジ脳症、もっと正確に言えばウシ伝染性海綿状脳症(BSE)。羊にも同じ病気でスクレイピーとして昔から知られていました。ここで問題になってきたのは人間のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)との類似性というか、関連性です。

 1982年、スタンリー・プルシナーはクロイツフェルト・ヤコブ病の研究の中で、スクレイピーの原因は新種のタンパク質病原体であるとし、これをプリオンと名付けました。しかし、研究を続ける中で、プリオンそのものが原因ではなく、プリオンを構成している何かが影響しているのだと軌道修正しました。なぜならプリオンが増殖するのにDNAが関わっていなかったからです。核酸(DNAとRNA)は放射線によって破壊されるものであるにもかかわらず、プリオンはそれでも感染力を保持していたのです。またプリオンのDNAは人間の正常な細胞からも見つかりました。プリオンの異常型が病を引き起こすのです。これで生命も例外ではなく、宇宙にはフレームを伝播させる媒体があるという仮説が生まれてきます。

 すでにこの仮説は「形態形成場理論」としてルパード・シェルドレイクが発表しています。その伝播ははじめは緩やかであるが、ある臨界点を越えると時空を超えて爆発的に広まるというわけです。この説の元は、きっと学校の生物で学んだことのあるイモリの足の再生です。1922年、ソ連のアレクサンドル・グルビッチが「形態形成場」という概念を提唱していたのです。

 融点が摂氏55度の氷がひとかけら海に落ちたら、たちまち海が凍り付き、生物の体液も凍り付くという、怖いSF小説もありますが、もっと楽しい想像をしたいものです。

 21世紀はいよいよ宇宙時代の幕開けになることでしょう。「宇宙からの帰還」を読んだことがある人なら、宇宙には何か人を純化する力が働いていると感じたのではないでしょうか。ある一定数の人々が宇宙空間へ出ることで、人類の進化がプラスに跳躍すると思いたいものです。



      資  料


グリセリンの結晶
グリセリンの結晶
幸島のサル


      の解説


ぐりせりん 代表的な3価のアルコール。融点18℃、沸点290℃(分解)。無色、粘稠(ねんちゅう)な液体で、甘味があり、吸湿性。水、エタノールによく溶けます。油脂成分として天然に広く存在し、ニトログリセリン、グリプタル樹脂、印刷インキ原料、タバコなどの防湿剤、医薬品、化粧品原料などに幅広く使用されています。
けっしょう 均質の固体で規則正しい原子配列(結晶構造)から成り立つもの。規則正しい結晶形をもつものが多く(これを結晶と呼ぶこともあります)、その形は簡単な対称法則により律せられ、対称要素の組合せにより6の結晶系、32の対称族に分類されます。鉱物の大部分、金属のすべて、無機および有機化合物の多くは結晶で、高分子化合物にも少なくありません。
きょうめい 振動体に、周期的に変化する外力が作用して起こる強制振動の振幅は、外力の振動数が振動体の固有振動数(自由に振動するときの振動数)に近づくにつれて急激に増大し、両者が一致したとき最大になります。この現象を共鳴といいます。
こうじま 宮崎県南東端、串間市の太平洋岸に浮かぶ周囲4kmの小島。猿島とも。野生のサル生息地(天然記念物)として有名で、京都大学霊長類研究グループが生態を研究しています。
DNA デオキシリボ核酸とも。核酸の一つで、デオキシリボヌクレオチドが多数重合したもの。遺伝子の本体で、主として細胞核中に存在し、細胞分裂の際に複製されます。デオキシリボースとリン酸からなる2本の鎖がらせんを巻き、その内部に塩基が水素結合による対を作って、いわゆる二重らせん構造を示します。含有する塩基はアデニン(Aと略記)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の4種で、これらの塩基の配列によってタンパク質のアミノ酸配列が決定されています。
いでんし 遺伝形質を規定する因子。現在ではそれがDNAであることが明らかになっています。
BSE ウシが脳障害をおこす病気で、プリオンという特殊な感染性タンパク質が体内に入り感染する伝染病。1986年に英国で初めて確認されました。この狂牛病のウシを人間が食べて、ヒトのプリオン病であるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が発生したのではないかとの疑いで近年問題となりました。日本でも2001年に狂牛病が発生し、大騒ぎになりました。その感染源は狂牛病にかかった動物の肉骨粉という餌にあることはすでに判明していたが、対策が遅れていました。狂牛病を引き起こすプリオンは構造が正常型と違って異常型で、細胞のなかで消化も分解もされないため、細胞のなかにたまっていきます。そして、正常型プリオンが異常型プリオンに出会うと次々に異常型に変わっていく結果、異常型プリオンが細胞に蓄積し、細胞は死滅することになります。死滅した細胞は生体の働きにより取り除かれ、そこにスポンジ状の穴ができてしまい、これが障害となって現れることになります。CJDの症状は、脳などの神経障害、痴呆、運動障害、けいれん、麻痺などで、発症後通常1〜60ヵ月で死亡し、現在のところ有効な治療法はありません。また、鹿にも同種の病が発生しています。
CDJ プリオンによってひきおこされる脳障害。脳の灰白質が障害されるため、急速に人格障害と痴呆が進み、意識障害、精神運動性興奮による錯乱、幻覚、幻想などの分裂様症状などが現れ、運動麻痺(まひ)、運動失調などの神経症状を呈します。
ぷりおん 核酸を持たずに増殖するとされる、タンパク質粒子からなる病原体。クロイツフェルト‐ヤコブ病などの病原体スローウイルスの本体が、感染性のタンパク質粒子であるとして、S.E.プルシナーがタンパク質(protein)と感染体(infection)から合成した造語(prion)。当初は分子生物学の常識に反するとして疑問視するむきもありましたが、近年注目を集めている。また、ニューギニアで発生する奇病クールーとの類似性から、その種族の人食いの習慣に注目して、やはりプリオンとの関係が明らかになったりもしています。クールーは人食いの習慣をやめてからなくなったのです。
RNA リボ核酸とも。リボヌクレオチドが多数重合したもので、細胞の核や細胞質中に存在。DNAとともに遺伝やタンパク質合成を支配します。機能からメッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA、ウイルスRNAに分類。mRNAはDNAを鋳型として核内で合成され、その遺伝情報を受け取って細胞質に移動し、リボソームと結合します。tRNAは特定のアミノ酸と結合してリボソームに運びます。そこでmRNAのもつヌクレオチドの配列順序に従って特定のアミノ酸配列をもつタンパク質が合成されます。リボソームRNAは合成の場としてのリボソームの構造の保持等に働きます。ウイルスRNAには2本鎖RNAと1本鎖RNAがあり、DNAのような遺伝子として遺伝情報を子孫に伝える機能および鋳型として形質発現のもとになる機能をもつほか、mRNAとしての機能をもつものがあります。
けいたいけいせいば 発生学用語で単に「場」とも呼ばれています。イモリの肢や尾を切断すると、再生芽を生じて元どおりになりますが、肢の再生芽を尾に移植すると尾になり、逆に尾のそれは肢の基部で肢に発達するように、再生芽の分化の方向を決定するのは、その場所を支配している場であると考えます。胚発生の場所にも、胚内にある原基が出現する前に、その予定材料の部域を中心に一定の広さをもった器官の場が考えられ、形態形成に重要な役割を演じています。
うちゅうからのきかん 立花隆のベストセラーです。宇宙飛行士たちのインタビューで、ほとんどの飛行士が超常体験、中には神の存在を感じた飛行士もいたということが明らかになり、地球の外に出ることの意味を再考させられます。中公文庫で読めましたが、中央公論社は身売りされたので、今はどうなっているのかわかりません。

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